上 下
78 / 127

はじめて (*)

しおりを挟む



 銀の扉が、開かれる。

 白い紗の天蓋が、さらさら揺れた。

 やさしく寝台に横たえられ、レトゥリアーレの腕が、抱きしめてくれる。


「愛してる」


 ささやかれて、涙が、溢れた。


 僕は、首を振る。
 何度も、首を振った。


「レトゥリアーレさまが想うのは、僕じゃない。
 ルルだ。
 僕は、ぶさいくで、気持ちわるくて、友達がひとりもいない、42歳のおじさんで────」


 レトゥリアーレの長い指が、僕の髪を、頬を、落ちる涙を、撫でてくれる。


「私が愛するのは、きみだ。
 あきらめが早くて、すぐに身を引いてしまう、私のために命まで投げ出してしまうきみを、追いかけないなんて、できない」


 ぎゅうぎゅう、抱きしめてくれるレトゥリアーレの腕のなかは、レトゥリアーレの香りがする。

 涼やかで、やさしくて、ほのかに甘い、とろけるような香りに、包まれる。



「…………レトゥリアーレさま…………」


 僕の涙を、レトゥリアーレの唇が、掬ってくれる。



「きみを、愛したい」


 レトゥリアーレのくちびるが、くちびるに、ふれる。

 重なる唇に、こぼれる吐息に、ふれる熱に、めまいがする。




 前世も含めて、何もかも初めてを、最愛の推しに捧げるなんて。



 したすぎます……!

 全力でごめんなさい────!!





「レトゥリアーレさま…………ごめ、なさい…………」

「いや?」

 銀の眉をさげるレトゥリアーレに、首を振る。


「…………レトゥリアーレさまに、僕のはじめて、全部、もらって欲しくて、ごめんなさい──!」

 叫んだら、尖った耳まで真っ赤になったレトゥリアーレが、大きな掌にちいさな顔を埋めた。


「……暴発するから、ルル」

 やさしく腰を押しつけられて、その熱と、硬さに、ビクンとふるえる。


 こ、これが、噂の、ゴリっ!!

 は、はじめてだよ。
 だ、だって、自分のをゴリっとできないからね!


「ふえぇえ……レトゥリアーレさまぁ……」

 泣きだした僕に、レトゥリアーレが、あわあわする。


「ご、ごめん、いやだった?」

 ぎゅうぎゅうレトゥリアーレにしがみついた僕は、首を振る。


「……めちゃくちゃ勃った」

 今世の初勃ち、レトゥリアーレさま!

 そんなの捧げられたくないと思うけど、ふわふわ紅いレトゥリアーレが、抱きしめてくれる。



「身体を繋げることが、愛だとは思わないけど。
 愛してると、どうしたって、したい」


 ささやきが、耳朶に溶ける。

 勇気を振り絞った僕は、レトゥリアーレの首に、ふるえる腕を回した。



「僕を、レトゥリアーレさまのものに、してください」


 見開かれた蒼の瞳の奥に、熱が揺らめく。


「きみの、前世の名は?」

 目を瞬いた僕は、そっと、囁いた。


「……遥樹」


 苗字は、思い出せない。
 でもたしか、はるきだった気がする。
 はー、だっせー、きもちわるいー、きしょくわるいの、はるきー! と虐められた記憶があるからだ。


「ハルキ」

 さみしい記憶に染めあげられた名を、レトゥリアーレが呼んでくれる。

 僕は、首を振った。



「レトゥリアーレさまが、つけてくださった名を、呼んでください」


 ぎゅうぎゅう、レトゥリアーレを抱き締めて。

 レトゥリアーレ推しの皆に殺されそうだなと思いながら、僕は、勇気を振り絞る。



 ふるえるくちびるで、そっと、レトゥリアーレのくちびるに、ふれる。




「僕は、あなたのために、生まれたから」












しおりを挟む
感想 181

あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

急に運命の番と言われても。夜会で永遠の愛を誓われ駆け落ちし、数年後ぽい捨てされた母を持つ平民娘は、氷の騎士の甘い求婚を冷たく拒む。

石河 翠
恋愛
ルビーの花屋に、隣国の氷の騎士ディランが現れた。 雪豹の獣人である彼は番の匂いを追いかけていたらしい。ところが花屋に着いたとたんに、手がかりを失ってしまったというのだ。 一時的に鼻が詰まった人間並みの嗅覚になったディランだが、番が見つかるまでは帰らないと言い張る始末。ルビーは彼の世話をする羽目に。 ルビーと喧嘩をしつつ、人間についての理解を深めていくディラン。 その後嗅覚を取り戻したディランは番の正体に歓喜し、公衆の面前で結婚を申し込むが冷たく拒まれる。ルビーが求婚を断ったのには理由があって……。 愛されることが怖い臆病なヒロインと、彼女のためならすべてを捨てる一途でだだ甘なヒーローの恋物語。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(ID25481643)をお借りしています。

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

処理中です...