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二章 獣王国

宣戦布告

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 一気に獣人達と人間達の形成が逆転する。
【獣化】した獣人相手にちゃんとした準備もしてない人間の騎士は為す術なく、気絶させられる。
 しかし、気絶させられる騎士達は剣を抜いた者だけてあり、それ以外は棒立ちだった。
 正確には剣を地面に投げ飛ばしていた。

 もうこの国には仕えない、自分達は自由だと言う意思表示。
 これが脅されていた騎士達の覚悟なのだ。
 ビャは騎士団長に向かってゆっくりと歩いて行く。

「なんで、どうして⋯⋯」

「⋯⋯ぐうううう」

 団長は折れた反対の手で剣を抜いて構える。
 そして地を蹴ってビャに向かって突き進む。

「クソがあああああ!」

白爪ホワイトクロー

「がっ」

 鎧を切り裂いて深々と体を切り裂いた。
 血を吹き出して地面に向かって倒れて、反応を示さなくなる。
 ギリギリ生きているが、少しでも気を抜けば死ぬだろうと言うダメージだ。

「団長、助かりました」

「これ着てろ」

 服が無く裸だったビャにルーは優しく自分の衣を渡す。

「感謝します」

 裸体を仲間に晒しておいても尚、表情は崩れない。
 女性らしくないと言えば終わりだが、逆に見たら周りに関心がないとも言える。
 純粋に何も感じてないのだろう。
 もしもリオが見ていたら彼女は顔を真っ赤にしていた事だろう。

「にしても、なぜ団長は動けるのですか? あれはかなりの物でしたよ?」

「お前こそ、骨ボロボロだったのにピンピンしてんな。俺はここに来たから、何一つ飯を口にしてない。正確には口の中に運んで全て魔法で焼き尽くしてた」

「⋯⋯へ? ならここ4日間何も口にしてないのですか! 水もパンも!」

「ああ。嫌な感じがしたからな。ビャもそんぐらいの気概がないとこの道はやっていけねぇぞ」

「は、はい」

 ルーは四日の間飲まず食わずでここまでやって来た。
 その事に気づいている人はゼラただ一人。
 観察眼の高さがないとルーのちょっとした変化に気づかない。
 実際に長らく共に生活をしていたビャや騎士達にはルーの変化に気づかなかった。

「さっさと帰る旅の野宿で飯を食いたいモノだな。酒も飲みたい」

「仕事が終わるまで酒は禁止です!」

「へいへい。⋯⋯と、そろそろ時間だな」

「へ?」

 人間の騎士達は家族を救出に向かい、獣人達は各々回復をしていた。
 そして、ルーは宮殿で一番高い党を見上げる。
 そこには小さくだが見える二人の人影が存在する。

「さて⋯⋯これからどうなるのやら」

 ◆

「た、高いですっ!」

「だから来たいんだろうが」

 ヒスイが弱音を吐いたので喝を入れる。
 国を全体的が見渡せるこの高所は最高の場所である。
 風が強く吹いているので、ヒスイが倒れないように気をつけないといけない。

「頼んだぞ」

「うぅ、はい。⋯⋯光の精霊よ、我が声に応え、我が願いに応じよ。虚像を創りて巨大に映し出せ。大きく大きく、広く広まる事を切に願わん。ライトアップ!」

 その魔法を唱えた瞬間に俺の体が光に包まれる。
 体の外側を探られるような光は天へと伸びて行き、そして俺の形を創り出す。
 俺の動きに合わせて動く光の巨人はこの国の国民達の目を射止めている事だろう。

 リオさんの姿が大きく映し出されているので、上を見上げると下着が見える。
 勿論、俺なので中身はスカスカだろう。
 そこまで再現する必要があるのかぶっちゃけ疑問だが、今は気にするべきではないな。

「ヒスイ!」

「詠唱は終わってますよ。サウンドアップ!」

 風の魔法で俺の声をこの国全域に広げるようにする。
 これで準備は終わった。
 俺はゆっくりと右手を上げる。光の巨人リオさんも同じ動きをする。

「⋯⋯聞け、人間の民達よ! 我が名は獣王国のリオ」

 俺はそう叫んだ。

「人間国の王、ヒルデが暗躍した事により我々の同盟話は完全に無くなった!」

 両手を広げる。
 威厳たっぷりに見せる為に。

「そして、ヒルデ王はあろうことか我々の国を潰して全て奴隷にしようと考えていた! 亜人は人間の下、きっと君らもそのような考えだろう」

 王妃達と相談した結果、最終的に行う事。
 本当は嫌な部類の結果だが、王妃は完全にこうなると思っていた。
 だから俺は人間の全てを信用していなかった。
 本当に、全てを調べるべきだった。

「我々はこう考える。今は人間も亜人も、魔族さえも、同じくこの世に生まれた生命として手を取り合い、災害に備え、文明を発展させるべきだと!」

 考えて考えて用意した文章は既に頭から消えている。
 だから俺が思っている事を叫び出す。
 心の奥底に眠らせていた俺の本音をぶちまける。

「人間は知恵を、獣人は腕力を、エルフは魔法を⋯⋯全ての種族には長所もあれば短所もある。これまでの歴史は変える事は出来ない。だけど、この先の未来は変える事が出来る」

 前世でも実現出来なかった世界平和。
 理想論で夢物語な話。
 だが、ここは化学が高く発展した地球ではなく、まだ未発達の異世界だ。
 まだ軌道修正出来る。
 核などの兵器を持たず、魔物と言う共通の敵がいるこの世界なら。

「ヒルデは我々の理想の考えは持っていなかった。我々を結局は下の存在として見ていた。⋯⋯そして我々はこう決断した」

 一度深呼吸して、一層大きな声で叫ぶ。

「このような古い考えは淘汰されるべきだと!」

 重要な事はこれともう少しある。

「この決断は秘密裏に結ばれていた、平等同盟の国々が決断した事だ! 世界平和を望まぬ国は潰し、望む国だけを残す。そして出来上がる理想郷!」

 平等同盟はあくまで仮名だけど。

「そして、獣王国は名を掲げる。──以後、我々獣人達の国、獣王国は獣人国『エド』として世界に名を立てる! そしてこの私はリオ・アニマル・エドと言う名前だ!」

 これでただの獣人の集まった場所ではなく、本格的な国として世界に知らしめる事になる。
 獣人が多く住む国だ。その国を統率するのが獣王。
 そして俺はリオさんとお兄さんしか持っていないスキルを発動する。
【獣神化】である。

 私の体が完全な銀色の狐となり、尻尾は九本になって行く。
 完全に獣の力を解放して、さらには僅かに神の領域へと足を踏み入れる。
 大きなキュウビの化け物、それがリオさんの最終形態だ。

『我々獣人国エドは、この国に宣戦布告する! この国を一度壊し、世界平和を拒絶した国として、未来永劫語り継ぐ事になる! 拒絶した結果がこうなると』

 雄叫びを上げる。

『逃げる者は追わぬ! 死にたくないのなら逃げれば良い! この国の為に戦うと言うのなら、我々に剣を向ける覚悟があると言うのなら⋯⋯その命、無いモノと思え! エドは一ヶ月後、この国を滅ぼす為にやって来る!』

 そして私は再び獣人の姿へも戻り、姿を人間に変える。

「やべぇ。獣人専用の力使うとそっち寄りになり過ぎる」

 倒れかけた俺をヒスイが支えてくれる。

「お疲れ様です」

「うん。⋯⋯さて、派手に帰還しますか」

「そうですね!」

 そして俺達は同等と街道を進んで獣王国改めてエドに帰った。
 また数日の馬車生活だ。
 ルーが酒を持って来ていた事にビャは本気で驚いて、ガブガブ飲むルーを叱っていた。

 ⋯⋯俺はリオさんに成りきれていただろうか。
 これにて、二つ目の影武者サービス終了だな。
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