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二章 獣王国

獣人達の誇り

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「なんだ?」

 ルーと外交官は同じ部屋であり、そこに人間の騎士がぞろぞろと入って来た。
 特に強い者はおらず、ただの下っ端だとすぐに分かる。

「この俺相手に舐められたモノだなぁ」

 イライラとするルーはまさに獣人だった。
 戦闘狂、その言葉が似合う程に強さに飢えている。
 そして強いと言う事を自信に思っており、誇りに思っている。

「獣共、我々の指示に従って貰う」

「まさかアイツの言う通りになるとはなぁ」

 面倒くさそうにルーは頭をボリボリとかく。
 尻尾を垂らして耳をピコピコ動かす。

「聞いているのか!」

 人間の騎士が剣を抜いて首元に当てる。
 指示に従わなければ首を刺すぞど脅しているようだった。
 しかし、それでもルーの興味を引けるはずもなく眠そうな目をしている。
 終始外交官はビビり散らしているが、ルーの安心感の方が勝って石像の様に固まっている。

「仕方ないな。⋯⋯隷属の毒よ、その力を示せ!」

 指輪を見せてそう宣言するとそれは忌々しい光が部屋を覆い尽くす。
 それは奴隷紋と同じ光を放っている。
 つまり、奴隷経験をした者から見たこの赤黒い光はとても嫌いなのだ。
 ルー達は奴隷ではなく、元々獣王国で産まれて育ったので特になかった。

「うぅ、うあああああ」

 外交官にも同じ光が現れる。
 それは全身から出ており、腹を掻きむしりながら地べたを転がり苦しんでいた。
 反対にルーは何も起こってなかった。

「な、なんだと! 隷属の毒が効いてないのか? 剣を構えろ!」

 他の騎士達も剣を抜いて、首元に押し当てていた騎士はさらに突き立てる。

「変な動きをするんじゃないぞ!」

「なぁ、俺は仲間を攻撃されるのが一番嫌いなんだ。速く解除しないと⋯⋯命の保証はしないぞ」

 殺意を込めたその視線は騎士達に重い威圧を与えた。
 それは死。
 自身の背後に豹がいて自身の命をすぐさま奪い取ると想像すらしてしまう。
 それだけの威圧をルーは扱える。

 ゼラが見たら簡潔にまとめるだろう。
【団長の威厳】【獣人の威厳】【重殺気】などのスキルだろうと。
 当然スキルと言うシステムはゼラしか知らないのでこれはルーが鍛えた技術だ。

「て、抵抗するなら、この獣を殺すぞ!」

「禁句だなぁ」

 刹那、この部屋に広がる重量感。
 それは人間達にしか感じてないが、全ての人間の手が震え始める。
 それは手が震えているのではなく剣が震えていた。
 そして、ピキっと刀身にヒビが入って砕け散った。

「何っ!」

 さらに素早い手先の動きで光る指輪を奪い取る。
 スキル【スティール】である。
 ルー本来の使い方は相手の武器を奪い取り倒すと言う技術だ。
 奪い取ると光が消えて外交官が落ち着き始める。

「家族が捕まって脅されている者は見逃してやる。それ以外は見逃さない。三分間だけ待ってやる」

 そう言うと、最初に剣を向けて来た騎士が発狂して部屋の外に出て行く。
 ルーに完全にビビったのだ。
 それはトラウマとなり、彼は二度と剣を持つ事は出来ないだろう。
 もしも生き残れる運命があると言うのなら。

「少し出る」

「は、はいっ!」

「絶てぇに動くんじゃねぇぞ」

「勿論です!」

 他の人間の騎士達も逃げ出したので、ルーはとある場所に動く。
 その瞳にはちょっとした怒りが湧いていた。

「俺達を獣呼びしやがって。俺達は獣人だ」

 対してビャ達は一箇所に集められていた。
 武器や鎧は没収されており、全身が赤黒い光に包まれていた。
 体は言う事を聞かず、外交官と違い鍛えているから痛みには多少の耐性はあっても人間の言いなりではある。
 どれだけ怒りが煮えたぎった瞳を向けても人間は嘲笑うだけ。

「なんでこんな奴らを奴隷とかにするんだろうな」

「金持ちは人間に飽きるんだろ。俺達には獣の良さは分からねぇよ」

 ビャの方を見ながら下卑た笑いを浮かべて会話していた。

「ゆ⋯⋯ざ」

 ビャはギリギリ小さな言葉を漏らす事は出来た。
 だが、それがヒルデ王の近衛兵達の癇に障った。
 殆どが下卑た見下すような笑みや目だが、中には申し訳ないなどの後悔の念を秘めた目をした人もいる。

「なんだお前、生意気だな」

 髪の毛を引っ張り顔を上げさせる。
 そいつは騎士団長でもありヒルデから一番の信頼を置かれている男であった。

「こ⋯⋯」

「生意気だなぁ!」

 そのまま地面へと顔を押し当てた。
 ボキッと言う骨が折れるような音を響かせて顔を埋めさせる。
 波紋上に広がる地面の亀裂、上げると鼻の骨が折れているようで血が流れていた。
 しかし、その瞳の殺意は揺らぎない。

「ほらほらーどうしたどうしたぁ」

 そして何回も何回も地面に叩きつけ、そのまま投げ飛ばした。
 ゆっくりと近づき顔を足で空に向け、踏み付ける。

「獣風情がいっちょ前に人間様の宮殿に足を入れやがって。獣臭くって辛かったぜ。全く」

 獣人達は副団長がただやられる様に怒りを出しながらも不甲斐なさに顔を下げる。
 悔しい。
 何も出来ずに人間の言いなりになる自分達が。
 怒りが湧く。

 人間よりも自分自身への怒りが大きかった。
 弱い自分が嫌だ。負けた自分が嫌だ。いっそ死にたい。
 そう思ってしまう。

「ほらほら!」

 そして色んな箇所を踏み付けて、地面は少しクレーターとなった。
 ビャの骨はボロボロで青あざが沢山出来ている。

「かはっ」

「⋯⋯なかなかそそられる体になったじゃなぁい?」

 そのまま服を剣で裂いた。
 辛い目をしていた人間の騎士や獣人の騎士は目を背けた。

「なかなかにいいんじゃないの? 耳と尻尾を切り落としたら俺様が使えるな。ま、獣臭くて無理だけど!」

 そのまま尻尾を掴んで引きずる。
 皮膚が地面によって擦られて傷が出来、焼けるような痛みが背中にやって来る。

「お前、コレ犯せ」

「⋯⋯え」

 それは目を背けていた人間の騎士だった。
 家族を脅しに使われた実質的被害者の一人。

「なんだ。俺様の命令が聞けないのか?」

「⋯⋯い、いえ」

「なら速くやれよ」

 威圧を込めた目に怯む騎士。
 そして、震える手を自分の鎧に向ける。

「⋯⋯くっ」

「⋯⋯ヒュー」

 ビャは呼吸するのがやっとだった。
 そこに覇気を大きく出したルーが悠然と現れる。

「なんだ、あの闘気は?」

 空気の色が変わるかと思われる程の強大なエネルギーの覇気。
 それはどんな人でも目を向けてしまう程の存在感を持っていた。

「お前達っ! それが我々の力か! なぜ地べたに膝を着いている! なぜ敵の前で動かない! それでも貴様らは誇り高き獣人の戦士かあああああああ! 毒などに屈するなど、豪語同断! 立てぇ! 貴様らの敵は目の前に居るぞ!」

 ルーがそう叫んだ。
 その言葉には力が、魂が籠っていた。
 それに当てられた騎士達の心が高ぶる。

 我々は誇り高き獣人だと。
 戦い戦って強くなる獣人だと。
 諦めたらそこで戦闘終了。
 手足はある。頭は動く。心臓は鳴り響く。
 ならば諦めるにはまだ速い。速すぎる。

 戦う心さえあれば、我々は立ち上がれる。
 その真意が獣人達の体を動かし毒への抗体を高速で作り出し、耐性スキルを獲得する。

「何バカな事言ってんだ? つーかなんでアイツは動けんだよ」

 ビャの頭を握りながら呟く騎士団長。
 その手を掴む。

「あぁ?」

「リオ様に、この身を捧げると、誓った。団長の言う通りだ。⋯⋯自分が下るのは、リオ様だ、貴様らでは、ない!」

「な、なんだ!」

「ぐうあああああああ!」

 ビャは【獣乱化】を発動させた。
 手足が獣に近くなり、全体的に獣に寄った。
 完全な獣では無いが、それでも力は本来の倍以上だ。

「や、やめぐああああ!」

 そして自分の頭を掴んでいた腕を握り潰して投げ飛ばした。
 続々と【獣化】を使って立ち上がる騎士達。
【獣化】を使うと理性が薄まってしまう。
 だけど、今はそんなの関係ない。

 獣の力を解放した騎士達の再生能力は高い。
 それはスキルへと進化して、ビャは【自己再生】と【高速再生】を獲得した。

「殺れ! もう構わん! 全員ぶっ殺せ!」

 騎士団長がそう叫ぶと、真の人間の騎士達が動き出す。

「貴様には躊躇いが見られる。自分の思いに従え。その決断に我々は応えるだろう。敵になるなら死に気で来いっ!」

 先程の騎士にビャが視線を向ける。

「嫌です。もう、嫌だ。⋯⋯俺は家族を助ける!」

 その言葉が引き金に、反乱が起こった。
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