万能ドッペルゲンガーに転生したらしい俺はエルフに拾われる〜エルフと共に旅をしながらドッペルゲンガーとしての仕事を行い、最強へと至る〜

ネリムZ

文字の大きさ
44 / 75
二章 獣王国

ヒスイは誰にも渡さない

しおりを挟む
 警戒しながら見守っている。
 クズはのっそりとヒスイの元へと近づいている。
 もしも変な動きを見せたら一瞬で首を刎ねる予定だ。
 近づく度に殺意が増していく。

 痛みに悶えられても困るので傷は回復させた。
 クズはヒスイに右手を掲げて呟く。

「契約解除する」

 それだけ言ったら終わるなのか?
 もしも適当な演技だったら⋯⋯その意思を込めて殺意を飛ばした。
 その圧にすぐに気づいてビビり散らすが、それで大丈夫だったらしい。
 痛々しく刻まれた奴隷紋は空気に溶けるように消えて行く。

「ぜ、ら⋯⋯さ」

「ヒスイ!」

 確かな光を瞳に宿して痺れる体で無理矢理笑みを浮かべてくれる。
 それでもう大丈夫だと確信したつかの間だった。
 本な僅かな油断が俺を絶望へと叩き落とす。

「舌を噛みちぎれ!」

 既に奴隷契約は破棄された。
 つまりはクズの命令に従う事はないと、そう思っていた。
 だが、解除直後はまだギリギリ効果は発動するようだ。
 ぼーっとした意識の中に来る命令にヒスイは⋯⋯舌を噛んだ。

「⋯⋯え」

 だが、それでも解除しているから浅くだった。
 血を出すが死には至らない。
 俺は一瞬でクズへと接近した。

《──────ザザ───ザザ──ザ》

 俺は今物凄く自分が嫌いだ。
 解除したからって言うだけで安堵して油断してしまった。
 その結果再びヒスイが舌を噛み切ると言う出来事を起こしてしまった。
 死ななかったから良いなんて詭弁は通じない。
 俺のミスだ。

 すぐに回復薬をぶっかけて回復させたが、この怒りと不甲斐なさは消えない。
 怒りのままクズを殴って殺したいと思った。
 だが約束を破るような奴になるのは嫌だった。
 だから俺は冷静にアイシアの剣を右手に持ってゴミに近づく。

「な、何を!」

「これはてめぇが招いた結果だ!」

 俺は相手の手と足の指を全て切り飛ばした。
 そのままただフラフラしているヒスイを肩で担ぎ上げて、ドアを蹴飛ばして部屋を出る。
 ゴミの断末魔を聞きながら。

「⋯⋯ごめんなさい」

 そう言ってヒスイが前のめりで倒れて、床に転がる。
 俺は床につかないように支えて一緒に腰を下ろす。
 今は無理に動かす訳にはいかないので、一旦休む事にする。
 無駄な広い宮殿の床はとても冷たかった。

「ごめんなさい。弱くて、簡単に精神支配されて、ゼラさんに辛い思いさせて。私が警戒しなかったばかりに⋯⋯」

「違うよヒスイ。それは間違ってる。君は悪くない。全部俺が悪かったんだ。最初から怪しさはあった。もっと警戒して全てを調査するべきだった。俺にはそれが出来たのに⋯⋯人間の国ばかりに目が行って、近くの事を疎かにした。それが招いた結果だ。俺が悪いんだ。ごめん、ヒスイ」

 俺は俯いてそう言った。
 ヒスイがサファイアのような瞳を歪ませて涙を流し、サラサラで綺麗な金髪を揺らしながら顔を横に動かして否定してくる。

「私は主なんだから、私が悪⋯⋯」

 俺はヒスイの頬に手を押し当てた。
 これ以上何も言わさない為に。

 悪いは全部俺なんだ。
 国の事が気になって時間があればすぐに外に行っていた。
 だからこの宮殿やゴミ達、部屋の調査を疎かにしてしまった。
 俺には調べる力が大いになる。

『陰』の奴にも一目置かれる程にはある。
 姿形が変えられるのだから調査は簡単な筈だった。
 なのに、俺はそれをしなかったんだ。手を抜いたんだ。
 油断した結果、甘すぎた俺が招いた。

 ヒスイが痛い目にあって、怖い思いをさせてしまった。
 怖かったろう。辛かったろう。
 奴隷と言う屈辱を与えてしまった。守れなかった。
 柔らかく若々しい肌に傷を刻ませてしまった。

 解除されても、まだ痕が少しだけ残っている。
 この生々しく痛々しい傷は俺が与えてしまったのと同じだ。
 なんでこれには回復薬の効果が通じないんだよ。

「ヒスイ、俺には君を守れるだけの力がある。この国の事情を調べるだけの力がある」

「ゼラ、さん」

「だけど、あるだけで俺はこの力を全く使いこなせていなかった。心の中ではヒスイを守るって誓っているのに、それを完璧な形で行動に移せなかった」

「そんな事はありません!」

「あるんだよ! だってそうだろ。俺は一人で解決出来る力を持っているのに、それを使えなかった。宝の持ち腐れも良いところだ」

「ゼラさん。⋯⋯私達は互いに弱いですね」

「あぁ、そうだな」

 それは的確な言葉だった。
 ヒスイは精神力や総合的な力が弱い。だけど、それでも奴隷拘束の力に一度抗っている。
 俺は大軍相手にも勝てるだけの強さがある。だけど、その扱い方などがまるでダメ。
 互いに欠点があり強みがある。

 でも、ヒスイの言葉の反対にはポジティブな事がある。

「俺達はまだ、成長出来る。強くなれるな」

「勿論ですよ。今度は誰にも縛られず、ゼラさんにだけ任せるようなマネはしません」

「もうこのような事が起こらないように俺は日々の警戒心を上げるよ」

 僅かな時間俺はヒスイの頬に手を置きながら見詰めあった。
 何かを言う訳でもなく、何かを考える訳でもなく。
 ただお互いの無事を確かめあって安心し合う為に。

「もう、絶対ヒスイは誰にも渡さない」

「⋯⋯ッ!」

 ヒスイは俺が守る。
 少なくとも、ヒスイが里に帰るまでは。
 或いはヒスイが俺よりも信頼し信用出来る相手が出来るまで。
 ヒスイが大切な誰かと添い遂げるまで。
 俺は彼女の傍にいて、絶対に守る。

 あんなゴミのような奴には一切触れさせない。
 もう仮初でもあのような身体的拘束はさせない。
 ヒスイの心を無理矢理縛らせる事は絶対にさせない。

 俺は魂に再び刻む。
 ヒスイを絶対に守ると。

「ゼラ、さん」

 ヒスイが頬に当てている手に手を重ねて来る。
 その感覚が来たのと同時に俺は顔を上げてヒスイの目を見る。
 頬をピンクに染めて唇を噛み締めて、何かを覚悟したかのような顔になる。
 力を抜いて目を瞑り、こちらに向けて来た。

「ヒスイ⋯⋯大丈夫か! どこか痛いのか? それとも疲れたのか? 大丈夫だぞ。少しだけ寝てても」

「~~~~~~~ッ! ゼラさんのバカっ!」

「ごめん!」

「そう言うのじゃないです! ⋯⋯はぁ。ゼラさんはゼラさんですね」

「当たり前だろ?」

《────────》

 ヒスイはその後腹から笑い出した。そして立ち上がる。

「他の方々が心配です。行きましょう!」

「いや。俺達はこの上に行く。獣人達は⋯⋯ルーに任せれば大丈夫だ」

「分かりました!」

 そして俺達は宮殿の上まで向かう。

「私の場所良く分かりましたね」

「あぁ。シルフの声が聞こえたんだよ。あの子を助けてって。後は風の流れに従って」

「シルフ様が! それは、ありがたいことですね」

「ほんとだよ」

 最初聞いた時はびっくりした。
 だけど、それと同時に脳内にノイズが流れるようにもなった。
 俺の焦りと怒りと同時にノイズは大きくなり、テレビの砂嵐のような音が頭に響いた。
 今は何も聞こえない。きっとヒスイがいるからだろう。

 アレは良くないモノな気がする。
 ⋯⋯でも、アレはもう二度と頭に流れない。
 だって、もう絶対にヒスイを泣かせる目にはあわせないなら。絶対にだ。

 俺は動きながら人間の姿からリオさんの姿へとなった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです(完結)

わたなべ ゆたか
ファンタジー
タムール大陸の南よりにあるインムナーマ王国。王都タイミョンの軍事訓練場で、ランド・コールは軍に入るための最終試験に挑む。対戦相手は、《ダブルスキル》の異名を持つゴガルン。 対するランドの持つ《スキル》は、左手から棘が一本出るだけのもの。 剣技だけならゴガルン以上を自負するランドだったが、ゴガルンの《スキル》である〈筋力増強〉と〈遠当て〉に翻弄されてしまう。敗北する寸前にランドの《スキル》が真の力を発揮し、ゴガルンに勝つことができた。だが、それが原因で、ランドは王都を追い出されてしまった。移住した村で、〝手伝い屋〟として、のんびりとした生活を送っていた。だが、村に来た領地の騎士団に所属する騎馬が、ランドの生活が一変する切っ掛けとなる――。チート系スキル持ちの主人公のファンタジーです。楽しんで頂けたら、幸いです。 よろしくお願いします! (7/15追記  一晩でお気に入りが一気に増えておりました。24Hポイントが2683! ありがとうございます!  (9/9追記  三部の一章-6、ルビ修正しました。スイマセン (11/13追記 一章-7 神様の名前修正しました。 追記 異能(イレギュラー)タグを追加しました。これで検索しやすくなるかな……。

処理中です...