万能ドッペルゲンガーに転生したらしい俺はエルフに拾われる〜エルフと共に旅をしながらドッペルゲンガーとしての仕事を行い、最強へと至る〜

ネリムZ

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一章 転生と心

笑顔の本質と純粋な感情

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 自警団とやらは馬車ではなく馬だけで来ていた。
 俺達がこの場に来るよりも早い時間で来て、盗賊達を一箇所に縛っていた。
 それを見届けた俺は馬車を追いかける為に、普通の隼となって向かった。
 激しい風の流れを体全身から感じながら爽快な空の旅をした。

 太陽はオレンジに色付いて、影が色濃く成っている。
 もう時期夜と成るだろう。別に夕日を綺麗だと思った事は無い。
 皆既月食だろうとなんだろうと、興味が無い。
 今、深く考えて興味あるモノはなんだと問うたら、きっとそれは『成長する事』だろう。
 俺は強くなりたい。何者よりも、強く。

 下を見るとヒスイが乗っているであろう馬車を発見した。
 追い付いた様である。そのまま馬車へと急降下する。
 念の為にエリスの姿に変身して馬車の中に入る。

「何者だ!」

 騎士が反応したが、主人の娘だと気づいて、少し考えて俺だと分かった事により剣を納刀した。
 ヒスイは起きていた。

「ぜ、ゼラさん! なんで居なかったんですか! とっても気まづかったんですけど!」

 ヒスイがずっと寝ていたのは、昨日初仕事でワクワクして寝ていなかったからだ。
 遠足に行く小学生かと思われる程に。
 よって、寝ぼけていたヒスイは騎士の顔を知らなかった。
 起きたらいきなり知らない人と一緒の馬車に揺らされている。
 気まづいだろうな。

「よしよし」

「ムッ! 私は子供じゃありませんよ!」

「あ、ごめん。なんか孤児の子供達と触れ合っていたら、自然と落ち着かせるための撫でる癖が⋯⋯」

「そんな長い時間一緒に居ませんよね?」

「そうだけどさ、なんか忘れられないんだよな」

 騎士なんて空気、居ないモノとして会話をする俺達。

「今でも子供達の笑顔を思い出せと言われたら、一人一人特徴的な笑顔が思い出せる」

 ドッペルゲンガーの特徴である観察眼。それによって、細かい相手の個性が分かる。
 同じような温かみのある明るい笑顔でも、一人一人全く違うのだ。
 歯を見せるような笑顔や大人ぶった笑顔など、色んな笑い方が存在する。
 子供って言うのは純粋だ。リーシアも純粋である。
 リーダー役を務めて大人に成ろうとしていたが、一度皮が剥けたら普通の子供だ。

「ゼラさん!」

「なに?」

 心底怯えた? ような顔で指を俺に向け、プルプルと震わせている。
 後ろに何かが居るような気配は無い。あるとしても、登っている月くらいだ。

「ゼラさんが笑っています」

「え⋯⋯あ、ほんとだ」

 口に触れると、少しだけ広がっていた。横に広がった口に驚く俺。
 俺が、あの俺が、愛想笑いだけしか出来なかったこの俺が⋯⋯自然に笑顔を漏らしていたのか?
 自然的な笑顔を、この俺が?
 お笑い芸人の芸でも、他人の不幸でも、目の前で人が何も無いところで滑って転けても、笑わなかった。
 その俺が⋯⋯不思議だ。

 ドッペルゲンガーとして、ようやく人らしい一面が出たのかもしれない。
 いや、さっきも考えたでは無いか。子供は純粋だと。

「エリス様の体、だからかもな」

 俺は変身した対象の心に引っ張られる特徴がある。
 エリスが子供のように表情がコロコロ変わると言うのなら、このような自然な笑顔が出来るのも不思議では無い。
 子供の様に純粋な心を持っているエリスなら、国民の笑顔は嬉しいのかもしれない。

「ゼラさん⋯⋯客観的に物事を考え過ぎてませんか?」

「そうか? このくらい普通じゃないか?」

「普通じゃないですよ。それって、『他人にどう見られているか』を最優先に考えているって事ですよ? 自分はこうだから、相手からこう見えている。それを客観的に見ていると私は考えています」

「ほうほう」

「もっと、自分をさらけ出してくださいよ。『我』を通し、時には『自己中心的』な考えも必要ですよ」

「そうか?」

「はい! 相手に寄り添うのも良いですが、それが行き過ぎると道具に成ってしまいますよ」

「そうだな」

 他人に寄り添い、他人の利益を考え、他人の為に動く。
 それは確かに、お手伝いロボット、つまりは道具と変わらない。
 自分の我を通す、ね。

 俺は窓から月を見て、少し考える。
 自分らしさ、と言う奴をだ。

「今、自分らしさとはなんなのか考えてますか? それ自体良くないですよ。それは結局、客観的に評価しているではないですか。最終的に、他人からの評価に成ってしまうんですよ。もっとガバガバで緩やかで感覚的に思いつくモノです!」

「そ、そうか。なら他の事を考えておくよ」

「報酬の事でも考えていたらどうですか?」

「えーおーー私が使う事なんて⋯⋯あるかも」

「あるんですか!」

 聞いておきながら驚くなよ。
 俺には金を使う理由も何もないと思っていた。
 しかし、脳裏には孤児院の門から手を振っている子供たちの姿と、それを微笑ましいそうに見ている先生の姿が出て来ていた。

「孤児院に寄付したいな。あの子達にはもっと笑顔で過ごして、良い大人に成って欲しく。俺のような、淡々と仕事をこなすような仕事ボットには、成って欲しくない」

「ゼラさん⋯⋯」

 あ、しまった。
 騎士もなんとも言えない表情をしてらっしゃる。

「ごほん! 忘れてください」

 空気だった騎士に肉体を与え、俺は忘れて欲しいと言った。
 別に一人称を気にする必要は無いが、約束は約束だ。

「ゼラさんって、時々変な事言いますよね。そんな時、なんかゼラさんがゼラさんじゃない気がします」

「あ、そっち」

「約束もです」

「すまん」

 日本に居た頃の時を思い出す事は少ない。なのに、何故か自然と思い出して、無意識に言葉に出してしまった。
 ヒスイを困惑させるだけである為に、成る可くこう言うのは無い方が良い。
 今後とも気をつける事にしよう。

「お、あと少しか」

 明かりが見えて来た。
 月明かりでは無い人工的な光が馬車を出迎えてくれる。
 窓から体を乗り出せば、立ち上る火が瞳を輝かせる。

「火事!」

 俺がそう叫んだ瞬間、俺とは反対の窓からヒスイが、隣の窓から騎士が顔を出す。
 そして、確かにその目で火事が起こった事を確認した。

「まだ新しいのだろう。消化されてない。被害がないと良いが⋯⋯」

 騎士がそう言った。⋯⋯それは無理だ。
 絶対に無理だ。ありえない。被害はとても大きいだろう。
 だって、あの方向は、あそこの場所は⋯⋯。

「嫌だ。ふざけるな」

 ドッペルゲンガーの目は異常だ。そして、他の魔物のスキルも合わさった視力も日本人から見たら異次元だ。
 火の大きさと城壁までの距離、それらで大まかな場所は分かる。
 分かってしまう。

「嫌だ!」

「ゼラさん!」

 俺は隼になって馬車から飛び出した。
 認めたくない現実を何回も考えては心の中で『嫌だ』と連呼する。
 確実に起こっていると内心では分かっていても、俺の心が感情がそれを否定する。
 魔力消費なんて無視して【加速】を使って速度を上げる。
 あのくノ一のスキルは理解度が低く、【加速】の方が速い。
 その分、当然ながら魔力消費も激しい。

「⋯⋯ッ!」

 ヒスイの姿になり、人が集まっている所で着地する。
 人混みを掻き分けて、火元に向かった。
 そこでは魔法を使っての消化と救助活動が始まっていた。
 中から丸焦げに成った死体が次々に出て来る。

「あ、あぁ」

 目から水がどんどん流れて来る。滝のように流れて来る。
 俺が見せた、純粋な感情な気がした。
 ドッペルゲンガーの観察眼だから分かった。その死体の正体が。

「ああああああああああ!」

 まだ小さな焦げた死体。俺はその一つに近づいた。
 止めに入る兵士の一人を力任せに投げ飛ばし、その死体の元で膝を下ろした。

「り、リーシア」

 服も顔も体も足も皮膚も焼け焦げたリーシアの焼死体。

「うああああああああああああああ!」

 他の先生、子供達も出て来る。俺は月に向かって叫んだ。ただガムシャラに叫んだ。
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