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一章 転生と心

人間では到達出来ない高みの切り札

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「か、体が⋯⋯」

「理解度は低いからすぐに解けるだろ?」

 だから、その前に拳を突き出した。鈍い衝撃音と衝撃波を放ち、相手を吹き飛ばす。
 地面を何回もバウンドし、着地をして、口から大量の血を吐き出した。

「こ、これは⋯⋯」

「威力は低いけど【発勁】だ。何回も体で受けたからな。理解しやすかったよ。理解度って身で受けたり使ったりした方が上がりやすい」

「何を、言ってるんだ!」

「驚いた。あそこまでのダメージを受けて動けるのか」

 激しい攻防が広がる。相手の無駄の無い動きから繰り出される攻撃をこれまた無駄のない動きで受け流す。
 しかし、明確にダメージを受ける時がある。

「所詮は付け焼き刃の動き! 本物の武術家の前では無力!」

「本当にそうか? もしも俺とお前が同じHPな場合、お前の方が圧倒的にダメージを受けている」

「さっきから何を」

 高速で繰り出される攻撃を受けて流し、時には防ぎ、時には防げずに受け、そんな中でも俺は言葉を出す。

「簡単だ。お前の方が素の防御力が低い。そのまま戦えばお前がいずれ倒れる」

「その前に貴様を殺すっ! 流星連撃!」

「スピードが落ちてるぞ。拳も軽い」

 相手の拳に合わせて拳をぶつけて攻撃する。
 俺の方が拳か硬く、俺の方が力が強く、全てにおいて俺の方が上である。
 でも、それでも少しだけ負けている部分も存在する。
 それが技術。奴の言う通りだ。

 俺の見て真似た程度の技術じゃあ、長年の鍛錬で鍛えられた技術には及ばない。
 だから、少しばかりの敬意を払おうと思う。
 それでも、単純な疑問をぶつける事にする。最後の質問だ。

「なんでお前は盗賊なんかに成ったんだ。お前の力があれば、冒険者として生きれただろ? 見聞を広める事も出来た筈だ」

「貴様には分からないだろ。どんなに努力してもちょっとした天才はかなりの天才には勝てない。天才の中にも格差は明確に存在する。今までの自負が粉々に砕かれた時の消失感を、貴様は知らないだろ!」

「あぁ、知らないな」

「そんな時にボスが手を差し伸べてくれたんだ! この恩は絶対に忘れない!」

「⋯⋯可哀想に」

 なんでそんな道を選んでしまったんだろうか。
 これ程の強さを持ちながら、身を闇を落とすなんて、なんて勿体ない事をしたんだ。
 もう少し自分の人生を見つめ直すべきだ。

「天才のお前に見せてやるよ。どんなに努力しても、どんなに鍛錬しても、どんな天才だろうとも、到達出来ない高みの一撃を」

 俺は一気に距離を取り、左腕をちぎった。

「何をしてる!」

「これが俺の最強の切り札。そして、お前には、人間には到達出来ない火力。作り操る事は出来ても、成る事は出来ない高み」

 左腕がグニョグニョ動き、形が変わって行く。
 片手に収まるサイズの拳銃、ハンドガンを形成した。
 弾を込めるイメージをすると魔力が銃に流れる。
 そして、黒色のチャクラも流して行く。

「そ、それは」

「無理だと思うけど、避ける事をおすすめするよ」

 溜める事が終わったらすぐに、銃口を相手に向けた。
 照準を太ももに合わせて即撃ちをした。
 いくら日本の人間よりも素の身体能力が高かろうが、このスピードには追い付けない。
 どんな生物よりも速く、そしてえげつない火力。
 身を守り人間を殺す為に生み出された武器。
 その一撃は武術家では当然、反応出来ない。
 未知の道具は相手の思考を集中させる。そこに生み出された油断も影響しているだろう。

「ぐっ」

 歯を食いしばり痛みに耐えようとしている相手。
 そこには無理が多分に含まれていた。当然だ。
 あそこまでの攻撃を受けても尚、立っている。そこに重い一撃だ。
 立っているだけでも不思議だと言える。

「痛いな」

 離れている左腕のハンドガン。しかし、射出と同時に銃口部分から痛みを感じる。
 場所的には左手の中指と人差し指かな?

「もう倒れな」

「この命が果てるまで、俺は戦うぞ! 仲間の無念を晴らす!」

「別に死んでないだろうに」

 痛みが引いたので、腕を再生させる事にした。
 感覚を掴みながら、相手に近づいて行く。
 無造作に適当に歩いているのに、相手からの攻撃は無い。
 動けないのだろう。

「もう、良いだろ」

「ぐぐぐ」

 俺は今出せる最速で【猫騙し】を使った。
 パチン、と乾いた音が空気を揺らす。
 弱り切った相手はその衝撃に寄って意識が刈り取られた。
 白目となり、俺に向かって倒れて来た。

「良い技術だったよ」

 それを受け止めて、ゆっくりと地面に下ろした。
 周囲を見れば、赤く色着く大地が広がっている。
 鼻を動かせば、錆び付いた鉄の様な血の臭いがする。

「⋯⋯これで問題ないだろ」

 俺は馬車に近づく。意識が戻った盗賊達が俺を睨んで来る。動けないようだ。そうのようにしたのは俺だが。
 そんな視線を一瞥だけして、馬車に戻る。
 ドアを開けて中に入り、会話をする。

「国に戻っても大丈夫ですか?」

「あ、ああ。魔力無線通信機で報告が来た。何事も無く走っているらしい。このまま帰還する。奥様が報酬の準備をしている筈だ」

 父親の方は娘と一緒に行っているらしい。

「大きな盗賊団だ。ここが狙っているなら、他の少人数の盗賊は狙ってないだろう。もう問題ないとの判断だ」

「そうですか。一応、おーー私は周囲を偵察してから帰ります。⋯⋯この睡眠エルフ、よろしくお願いします」

「わ、分かった。ここにも自警団が数十分後には到着する筈だ」

「分かりました」

 魔力無線通信機、便利だ。まぁただの無線機なのだが。
 電波とか関係なく、魔力で繋がった機械同士で会話が出来る。遠距離会話が可能な希少な魔道具。
 一般人が買おうと思うと、白金貨300枚と言う大金だ。
 日本円だいたい三千万円くらい。

「錬金術か、学んでみたい」

 俺は外に出て、森の中に入る。人の視線から外れて、背中の骨(あるか不明)を変えて翼を広げる。
 ヒスイの背中から隼の翼が伸びている。人間サイズで割かし大きい。

「お、飛べる飛べる」

 半信半疑で試したが、飛べた。
 これは空蜥蜴の応用である。人間の姿で翼を生やすと元の生物みたいに羽毛が生えている。
 そのまま高く飛び出し、視力を最大限上げる。
 周囲を飛び回り、周りに盗賊らしき人達は居ないかを確認する。
 魔物は少しばかり居たが、盗賊らしい存在は居なかった。

 後は俺達の戦いを観察していた一人か。
 取り敢えず、そいつの背後に降り立った。

「何用か?」

「気づいていたのか」

 女だった。声的にね。見た目は忍者、くノ一。
 日本では当然見られない存在が目の前に現れて、少しだけ思考が止まった。
 あ、困惑してらっしゃる。

「君は誰がなんの為に監視していたんだ?」

「⋯⋯我々は存在を知られたら生きる意味は無くなる。殺せ」

「そんなくだらん事は良い。教えろ、敵か、中立か」

「味方⋯⋯そんな意見はないんですか?」

「まぁな。エルフでもなさそうだし」

「何を基準に」

 せめて目も隠しておくんだったな。
 目さえ見えれば、目だけは変える事が出来る。さすれば、スキルの確認や種族の確認が出来る。

「⋯⋯まぁ良いでしょう」

 俺が答えずにいると、相手が引いてくれた。

「今のところ敵ではありません」

「なら良いよ」

「それでは」

 そして、忍者らしく一瞬で消えた。

「【超加速】と【地形把握】、【高速跳躍】【俊敏性向上】【機敏な動き】⋯⋯この辺りのスキルが使われてるのかな?」

 まぁ多分、あの貴族様だろうな。
 娘の姿に変身した俺の正体でも暴こうとしていたのかな?
 ま、ドッペルゲンガーだとバレる事はないだろう。

「さて、自警団とやらが来てから帰るか」
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