いじめられっ子の陰キャJKは自分を変えるため、ダンジョンに挑む〜底辺弱者は枕とレベルアップで強者へと駆け上がる〜

ネリムZ

文字の大きさ
33 / 36

VS花美

しおりを挟む
「はーい、ドーン!」

 一筋の光が横切る。
 目が無意識にその光を追い、死角が増えた左側から花美が接近して来る。
 輝いている左目を見開きながら、拳を突き出して来る。
 その拳にすら、高熱の光を纏わせている。
 圧倒的に、この地面に転がってる二人より強い。

「おー避ける避ける」

 腕を払い除け、その勢いを利用して距離を取る。
 体勢を直しながら花美を視界に入れる。

「一人でダンジョン攻略するから本当にビックリしたよ? あそこで死んでれば楽で良かったのに。こいつも、そいつも、お前もさ!」

 羽織、美波、そして私の順番に指を指しながらそう言って来る。
 その顔は完全に怒りに染まっている。

「滝宮くんもなんでこんなブスを選んだよマジで。意味分かんないよ!」

「⋯⋯」

 これはもう正当防衛で良いのではないだろうか。
 前傾姿勢になりながら駆け出す。
 空気の抵抗を体全身から感じるが、それすら気にならない程に集中力が高まる。
 研ぎ澄まされた精神はたった一点に集中されている。
 間合いが決まれば、繰り出すは骨を砕く一撃の回し蹴り。
 しかし、相手はそれを華麗に受け流した。

「お前⋯⋯」

「雑魚がお前呼びすんなっ!」

 空気の振動波が私の全身を襲う。

「ぐっ」

 吹き飛ばされ、何回か地面をバウンドして止まる。
 ゆっくりと立ち上がれば、銃のように親指を垂直に上げて、人差し指を伸ばしている花美が見える。

「ズドン」

 先端に光が集まり、先程よりも太く速い一撃の光が襲い掛かる。
 髪一重で横にステップして避ける事は成功した。
 しかし、反対の手の人差し指が私に伸ばされる。

「ドーン」

「くっ!」

 ステップした体勢から無理矢理跳躍を図る。
 避ける事には成功したが、反動で骨が軋む。
 無事に着地して、体を安定させる。深呼吸して呼吸を安定させる。

「あそこで皆死んでれば良かったのに、お前が守るからさ。本当に最悪だったよ! 一撃受けた癖にさ、美波は生きてるしよ! たかが40レベルで偉そうにしてさぁ! そんなん一日で終わったわ!」

「⋯⋯」

「ダンジョンに入ったから、お前は死んだ。滝宮くんは落ち込み、そこに付け入る予定だったのに、お前は攻略するしよぉ! ふざけんじゃねぇよ!」

「⋯⋯」

 もしも、花美がダンジョンに挑んで、鬼と戦っていたら勝てていただろうか?
 分からない。
 私は勇者の力とヒノ、そして相手の油断を誘う為に煽りに煽ってなんとか勝てた相手だ。
 分からない。しかし、花美は強い。

「レベル40がレベル112に偉そうにしてさ。親の立場が上だからってさ」

「れ、レベル112?」

 三桁、だと?
 私は鬼を倒して、その経験値を全て私が貰った。
 魔剣での経験値獲得率も上がっている。
 なのに、だと言うのに、そんな私よりもレベルが高い?
 同じ年齢なのに? そんな事が、ありえるのか?
 ありえて良いのか?

「流石に人殺しは良くない⋯⋯だけど、その顔はズタズタにしたいよね! バーン!」

 片手を空に掲げ、虚空に光の球体が出現する。
 そして、それが私を貫こうと迫って来る。
 奴の意見通り、私を殺す位置では無いので、立ち止まっていれば致命傷は避けられる。
 だが、制服が破ける! それだけは許容出来ない!

「はっ!」

 一気に息を吐いて駆ける。
 私を襲いに来ていた光は背後を捉えている。
 体育館の壁をよじ登り行動範囲を広げる。体育館の壁はこの魔法に耐えられるらしい。

「はっ!」

 体育館の壁を強く蹴り、加速して花美に迫る。
 拳を固め、落下に合わせて突き出す。
 それは軽いスライドステップで避けられる。
 拳を開いて地面に乗せ、それを軸として回転し、踵を振るう。

「おっと」

 仰け反る形で軽く避けられ、反撃と言わんばかりに銃のように手を作り、光を指先に集める。

「ズドン」

「ぬっあああ」

 片手に力を込めて、それを一気に解き放つ。
 高く飛び、反撃を躱して着地する。
 しかし、その先に指先だけが向けられている。

「ドーン」

 即発の光が頬を切り裂く。焼き切った場所はすぐにカサブタと成る。

「へぇ痛みに悶えないんだぁ?」

「生憎と、痛みにだけは耐性があるんでね」

「あっそう。あのサンドバッグから随分強くなったらしいけど、僕の敵じゃないね」

「それはお互い様でしょ?」

「そうかなぁ? 君の動きはスローモーションに見てるんだよ」

「その左目のお陰で?」

「正解。【獣碧眼ビーストブルーアイ】動体視力の強化と力、魔力の流れを目視する事が出来る」

「成程、ね」

「そして【光操作】光を集めたり放ったり出来るスキル。魔法とは別モノ」

「説明どうも」

「そんな僕とお前が対等に戦える訳ないだろ?」

「成程成程」

 私は邪悪な笑みを浮かべてやった。
 どうしてこう輩はペラペラと無駄話をしてくれるのだろうか?
 ありがたい事に色々と情報が得られると言うのに。
 相手に情報を与えると言う事は、そこから性格などが読み取れると言う事。

 ちょっとした復讐気分で戦っていたけど、こいつは別だ。
 ガチの対人戦だと思わないと、負けてしまう。
 怪我をしても回復は出来る。
 だけど、出来ないモノも存在する。

「戦えるさ」

 正直、それが正しいか分からない。
 分からないけど、これが一番効果的だ。
 私の記憶に無くても、奴がそう思うなら、そこを広げてやれば良い。
 相手の嫌な部分を突いて、煽れば、人は、生物は、簡単に怒る。

「滝宮くんに一緒に告白したら、お前は負けんだろ?」

 誰かは不明だが、使わせて貰うよ。
 もしも会う機会があるならば、お礼を述べたいと思う。

「何? それで僕を煽ってるつもり?」

「あの人は言ってたよ。花美って奴はブスで性格も悪いから関わりたくないゴミだって!」

 花美は女の私が見ても、顔立ちは良い。
 性格が悪いのは確かだ。

「それを僕が信じるとでも?」

「その腐り曇った目で見て来たんじゃないの? 私と滝宮くんの関係を、さ」

「⋯⋯」

「もしもきっと彼がこの光景を見たらこう言うさ。『お前みたいなゴミが世羅に近づいて欲しくない』って!」

 しかし、このセリフにより花美から徐々に出て来た苛立ちが消えた。

 何故だろうか? なにか間違えたのだろうか?
 いや、こう言う奴にはこう言うのが効果的だと思ったのだが⋯⋯事実途中まで順調だった。

「あははははは!」

 急に笑いだした。

「ばーか。滝宮くんはお前の事、『世羅ちゃん』って言うんだよ!」

 あー、滝宮くんってあの男か。
 それは⋯⋯ミスったな。

「よ、良く観察してるね。あはは」

「僕を騙そうって、そうはいかないよ!」

「まぁでも、滝宮くんに関しては、お前は私の足元にも及ばないよね?」

「あぁん?」

「だって、(元)一緒に登下校してるし、(元)家は隣同士だし、昔は良く遊んだ幼馴染(多分)。家族ぐるみで仲が良かった(多分)お前の勝ち目はゼロ、諦めて身の丈に合った男を探せよ。ざーこ」

 左手の中指を天に向かって伸ばし、今の気持ちを顔に表した。
 相手の額に青筋が浮かぶ。

「あーウザ。もう、手加減しないから。【光加速】」

 一瞬光り、私の斜め後ろには花美が立っている。
 そして、視界には鮮血が舞っていた。頬から流れる血。
 横目で見れば、刃物を取り出している花美の姿が映った。銀色の刃からは真っ赤な血が垂れている。

「顔だけじゃなくて、体全体切り刻んでやるよ。ざーこ」

 中指をビンビンに立てている花美が私を嘲笑っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~

ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。 休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。 啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。 異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。 これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした

有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。

鑑定持ちの荷物番。英雄たちの「弱点」をこっそり塞いでいたら、彼女たちが俺から離れなくなった

仙道
ファンタジー
異世界の冒険者パーティで荷物番を務める俺は、名前もないようなMOBとして生きている。だが、俺には他者には扱えない「鑑定」スキルがあった。俺は自分の平穏な雇用を守るため、雇い主である女性冒険者たちの装備の致命的な欠陥や、本人すら気づかない体調の異変を「鑑定」で見抜き、誰にもバレずに密かに対処し続けていた。英雄になるつもりも、感謝されるつもりもない。あくまで業務の一環だ。しかし、致命的な危機を未然に回避され続けた彼女たちは、俺の完璧な管理なしでは生きていけないほどに依存し始めていた。剣聖、魔術師、聖女、ギルド職員。気付けば俺は、最強の美女たちに囲まれて逃げ場を失っていた。

処理中です...