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23砂漠の悪魔
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次の日から、シルビアとロダンはラクダにのった隊商の人たちと一緒に歩き出した。
ラクダは砂漠の船と呼ばれていた。他国で売ろうと思っている品物を積み、隊員たちの食べる物などもラクダの背にのせていたからだ。それなのに、サソリに二頭のラクダが殺されてしまっている。本来ならば、ラクダの背にのることができたのに、のらずに歩いている隊員もいた。
隊商の人たちは、シルビアとロダンにラクダの背にのるように言ってくれたのだが、二人はそれを断っていた。昔のシルビアならば、砂漠を歩き続けられなかっただろうが、冒険者として、魔物を退治し、野山を歩き廻っていたことが、普通の王女にはない体力をシルビアにつけさせていたのだ。
突然、慌ただしい足音が聞こえてきた。シルビアが音をした方を見た。そこは砂煙がたっていた。
「ラクダが走っているわ」
「野生のラクダですよ」と一緒に歩いていた隊員が教えてくれた。
「ご覧ください。この辺りの砂漠には芝が生えているでしょう。彼らは、それを食べている。食べた後、ここで糞をする。糞を分解する虫たちがいて、それが肥料になって砂漠に芝が増え出していく。ラクダは自分が生きていけるように砂漠を変えているんですよ」
「そうなのですか」
シルビアが持っていた砂漠やラクダの記憶は果歩の時に得たものだ。それとは、まったく違うものだと気づき始め、自分の中に不安感も生まれ出していた。
その不安が現実のものとなったのは、隊商と一緒になって歩き出して二日目のことだった。
野生のラクダたちが隊商のわきを並列するように走り抜けていた。だが、突然、甘い匂いがし出すと目の前から突然ラクダが消えたのだ。
「とまるんだ」とアブトの大声が飛んだ。隊商のラクダたちは足をとめた。だが、足元の砂はさらさらと音を出して流れていく。やがて、隊商のラクダたちの中からも流れる砂にのせられていくものがでていた。流砂は大きな渦をつくり、その渦の中に先ほど見えなくなっていた野生のラクダがいたのだ。
「どうなっているのよ?」
「シルビアさま、砂漠の悪魔が現れたのです。あまい匂いは悪魔が自分の体から出している。それにはラクダたちを呼びよせる力がある」と、ロダンがかすれた声を出していた。
「砂漠の悪魔?」
「話では聞いていたが、本物を見るのは、私も初めてですよ」
シルビアが砂の渦をじっと見ているとそれは円錐形にへこんですり鉢になっていた。落ち出したラクダたちはすり鉢の真ん中にむかっていた。すると、へこんだ処から、ハサミの先が現れたのだ。二つのむかい合うハサミの刃には細かい毛がはえていて、落ちてきたラクダをしっかりと咥えていた。ラクダは、それから逃れようとして体を何度もよじった。だがラクダはハサミから抜け出すことはできない。
シルビアの中にある果歩の記憶がしっかりと蘇ってきた。
住んでいたアパートの庭にすり鉢状の穴ができていた。そこはウスバカゲロウの幼虫の狩場だ。幼虫と言っても、まるで毛虫のようでハサミのような口を持ち、それを穴の底から突き出している。そして、その穴に落ちてきた蟻やいろんな昆虫をハサミの口ではさみ、体からでてきた液を吸っていたのだ。
蟻地獄、それと同じだわ。
ラクダの体から流れ出した血は、ハサミの間にある口の中に落ちていった。だが果歩の記憶と違うのは、その口が赤い口紅をぬった人の口にそっくりだったことだ。
続いて、隊商たちのラクダが隊員と一緒にハサミにむかって落ちていく。それを見たとたん、シルビアは果歩の時から今に戻っていた。
「助けてあげなければ」
シルビアは、崩れ出した砂際に立ち指輪をハサミの方にむけた。そして、雷の力、電光を発したのだ。いまのシルビアは雷力の強さを調節ができるのだ。細い線を垂らすような稲光りをハサミの上に落としていた。
ハサミは震え、それまではさんでいた野生のラクダを放すと砂の中にもぐっていった。
「キムト、ありがとう。すぐに縄をおろして、落ちた仲間を救いあげるんだ」
アブトは隊員たちに指示を出していた。隊員たちはラクダに載せていた荷物の中からロープを取り出すと、ロープを穴にたらした。隊員たちはロープを体にまきつけ、たらしたロープの端をつかみながら、穴の中におりていった。ロープの先をラクダに積んであった荷物に縛り付けると、それを先にひきあげた。もう一本ロープをおろさせると二本のロープを使ってラクダの体をしばりつけ、ラクダを穴の中からひきあげさせたのだった。
それに砂漠の悪魔に食べられそうになっていた野生のラクダもロープを使い救い出してやった。穴からでた野生のラクダは穴から救い上げられたことが信じられない顔をしていた。だが、遠くにいる仲間を見つけると、野生のラクダは彼らにむかって走り出していった。
最後に隊員たちは自分の体にロープをまきつけ、穴の上にいる隊員たちにひきあげてもらった。
その間、シルビアは穴をのぞき込み、砂漠の悪魔がもし現れたら、ふたたび雷を落とさなければならないと考え、指輪をはめた左手だけは、穴にむけ続けていたのだった。そしてシルビアが砂漠の悪魔の本当の姿を見ることができるのは、まだまだ先のことであった。
ラクダは砂漠の船と呼ばれていた。他国で売ろうと思っている品物を積み、隊員たちの食べる物などもラクダの背にのせていたからだ。それなのに、サソリに二頭のラクダが殺されてしまっている。本来ならば、ラクダの背にのることができたのに、のらずに歩いている隊員もいた。
隊商の人たちは、シルビアとロダンにラクダの背にのるように言ってくれたのだが、二人はそれを断っていた。昔のシルビアならば、砂漠を歩き続けられなかっただろうが、冒険者として、魔物を退治し、野山を歩き廻っていたことが、普通の王女にはない体力をシルビアにつけさせていたのだ。
突然、慌ただしい足音が聞こえてきた。シルビアが音をした方を見た。そこは砂煙がたっていた。
「ラクダが走っているわ」
「野生のラクダですよ」と一緒に歩いていた隊員が教えてくれた。
「ご覧ください。この辺りの砂漠には芝が生えているでしょう。彼らは、それを食べている。食べた後、ここで糞をする。糞を分解する虫たちがいて、それが肥料になって砂漠に芝が増え出していく。ラクダは自分が生きていけるように砂漠を変えているんですよ」
「そうなのですか」
シルビアが持っていた砂漠やラクダの記憶は果歩の時に得たものだ。それとは、まったく違うものだと気づき始め、自分の中に不安感も生まれ出していた。
その不安が現実のものとなったのは、隊商と一緒になって歩き出して二日目のことだった。
野生のラクダたちが隊商のわきを並列するように走り抜けていた。だが、突然、甘い匂いがし出すと目の前から突然ラクダが消えたのだ。
「とまるんだ」とアブトの大声が飛んだ。隊商のラクダたちは足をとめた。だが、足元の砂はさらさらと音を出して流れていく。やがて、隊商のラクダたちの中からも流れる砂にのせられていくものがでていた。流砂は大きな渦をつくり、その渦の中に先ほど見えなくなっていた野生のラクダがいたのだ。
「どうなっているのよ?」
「シルビアさま、砂漠の悪魔が現れたのです。あまい匂いは悪魔が自分の体から出している。それにはラクダたちを呼びよせる力がある」と、ロダンがかすれた声を出していた。
「砂漠の悪魔?」
「話では聞いていたが、本物を見るのは、私も初めてですよ」
シルビアが砂の渦をじっと見ているとそれは円錐形にへこんですり鉢になっていた。落ち出したラクダたちはすり鉢の真ん中にむかっていた。すると、へこんだ処から、ハサミの先が現れたのだ。二つのむかい合うハサミの刃には細かい毛がはえていて、落ちてきたラクダをしっかりと咥えていた。ラクダは、それから逃れようとして体を何度もよじった。だがラクダはハサミから抜け出すことはできない。
シルビアの中にある果歩の記憶がしっかりと蘇ってきた。
住んでいたアパートの庭にすり鉢状の穴ができていた。そこはウスバカゲロウの幼虫の狩場だ。幼虫と言っても、まるで毛虫のようでハサミのような口を持ち、それを穴の底から突き出している。そして、その穴に落ちてきた蟻やいろんな昆虫をハサミの口ではさみ、体からでてきた液を吸っていたのだ。
蟻地獄、それと同じだわ。
ラクダの体から流れ出した血は、ハサミの間にある口の中に落ちていった。だが果歩の記憶と違うのは、その口が赤い口紅をぬった人の口にそっくりだったことだ。
続いて、隊商たちのラクダが隊員と一緒にハサミにむかって落ちていく。それを見たとたん、シルビアは果歩の時から今に戻っていた。
「助けてあげなければ」
シルビアは、崩れ出した砂際に立ち指輪をハサミの方にむけた。そして、雷の力、電光を発したのだ。いまのシルビアは雷力の強さを調節ができるのだ。細い線を垂らすような稲光りをハサミの上に落としていた。
ハサミは震え、それまではさんでいた野生のラクダを放すと砂の中にもぐっていった。
「キムト、ありがとう。すぐに縄をおろして、落ちた仲間を救いあげるんだ」
アブトは隊員たちに指示を出していた。隊員たちはラクダに載せていた荷物の中からロープを取り出すと、ロープを穴にたらした。隊員たちはロープを体にまきつけ、たらしたロープの端をつかみながら、穴の中におりていった。ロープの先をラクダに積んであった荷物に縛り付けると、それを先にひきあげた。もう一本ロープをおろさせると二本のロープを使ってラクダの体をしばりつけ、ラクダを穴の中からひきあげさせたのだった。
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最後に隊員たちは自分の体にロープをまきつけ、穴の上にいる隊員たちにひきあげてもらった。
その間、シルビアは穴をのぞき込み、砂漠の悪魔がもし現れたら、ふたたび雷を落とさなければならないと考え、指輪をはめた左手だけは、穴にむけ続けていたのだった。そしてシルビアが砂漠の悪魔の本当の姿を見ることができるのは、まだまだ先のことであった。
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