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24オアシス都市オラタル国

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 地平線に光っている物がシルビアにも見え出した。そこだけ何かの力で覆われているようだった。
「魔獣がいるのかしら?」
「いえ、違います。キムト。あそこがオアシス都市オラタル国のある場所ですよ」と、アブトが教えてくれた。   
 隊商がだんだんとオラタル国に近づいていくと 国の周りにはたくさんの木々があって、そこから突き出したように塔が見えていたのだ。塔は日を受けてきらきらと光るクリスタルでできていた。
「あれがオラタル国なのね。でも、こんな砂漠の中にどうして国なんかできたのかしら?」 
「理由は二つあると思いますよ。一つはあそこには、地質のおかげか、水が溜まっている場所だからです。遠くに高い山が見えているでしょう。周りに比較するものがないから判らないかもしれませんが山脈にある山々よりも高い山なのですよ。だから、あの山の上には、一年中雪が降っている。ふった雪は解けて地下水になり、地中に潜ってしまう。その地下水がオラタル国のくぼ地に噴き出して池を作っているのですよ。そこに鳥たちがやってきて植物の種を運び、いつの間にか木々が育ってしまった。もう一つは、アシュラ砂漠を横断して商品を運ぶ商人たちがいたことですよ。商人たちは隊商を組んで砂漠を越えていこうとした。だが人には水が必要です。隊商たちは必ずここに寄り出すようになり、ここで商品の取引をすれば、砂漠を越えて行かなくてもいいことが分かり出し、ここで取引をする人たちが市場を作ってしまった。それに付随するホテル、商店ができてくると、都市を管理する国もできあがったということですよ」
 アブトが話をしていると、アブトの隊商とは別の隊商がオラタル国にむかっているのが見えた。その隊商の後を追うようにアブトの隊商も木々の中に入っていった。

 木々で囲まれた場所は広く。まるでスーパーマーケットの駐車場のような敷地を柵で囲んだ所がいくつもあったのだ。駐車場との違いは、下は芝生のある地面にラクダたちが置かれテントも張られていることだ。そのテントの周りには隊商の人たちがたたずんでいる。
 柵で囲まれた出入口には、小屋が建てられていた。小屋に窓があって、そこから番人だと思える男が顔を出していた。その小屋の一つにアブトは近づいていった。男としばらくの間、話をして、その後、男に五枚の銅貨を渡していた。それで借りる約束ができたのだろう。アブトは自分の隊員たちにむかって手をあげた。隊員たちは、柵の中にラクダをひいていき、ラクダの背に積んでいた荷物をおろしていた。その後、テントを張り出したのだ。
 アブトがシルビアたちに近づいてきた。
「あなた方はどうされるかな? もし、私たちと同じでよければテントの一画をお貸ししますが」
 ロダンは、シルビアの方に顔をむけた。これまで、砂埃をあび、汗をかいても、そのままにし続けてきている。さすがに、シルビアは思いっきり水につかり体を洗いたくなっていたのだ。だから、顔をしかめてみせた。
「ここで、ゆっくりと、個室に泊まれるホテルはございませんかな?」
 ロダンはアブトに尋ねた。
「ありますよ。だが、ここよりは高いお代を要求されますが」
「かまいませんぞ」
「そうですか」
 そう言ったアブトは、手をあげて街の方を指さした。
 クリスタルの塔を持つ城の前に家並みができていたのだ。その中にアブトに指さされた二階建てと思える建物があった。
「それでは、そちらの方に行ってみますよ」
 ロダンはそう言って、アブトに頭をさげた。アブトがシルビアたちの懐具合まで心配をしてくれたことに感謝をしてシルビアも頭をさげていた。柵そばの小屋を離れてアブトたちが見えなくなると、「ホテルに泊まれるほどのお金を持っているの?」とシルビアは改めてロダンに聞いていた。
「そうですな。懐に財布を入れていたのですが、砂嵐の時に、財布は風に奪われてしまいましたよ」と言って、ロダンは笑い声をたてた。
「じゃ、どうするの?」
 すると、ロダンはシルビアに手を見せた。指にダイヤのついた指輪をはめていたのだ。さらに袖をめくると腕に腕輪をつけていて、そこにたくさんのダイヤが升目状にはめられていた。
「これらを代金がわりに置いてくるつもりですよ。ダイヤは一つだけでもおそらく一月は宿泊できるはずですが」
「さすが、ロダン。その手があったわね」
 思わず、シルビアは微笑んでいた。
 二人は街に近づき並んでいる店の中を歩いていると砂漠の中にいると思えなくなる。やがてレンガで作られた赤茶色のホテルが見えてきた。レンガがあるということは、この辺りには水を通さない粘土がとれて、それを焼いて作ったのに相違なかった。
「ここですな。アブトが指差していたホテルは」
 二人はホテルの中に入った。受付カウンターが右に見え、左は小さなレストランになっていて、四つほどのテーブルが置かれていた。
 シルビアたちがカウンターに近づくと、「いらっしゃいませ」と言ってマスターが不機嫌そうに二人をみつめてきた。
「一泊ですか?」
「当分の間、泊まりたいと思っているのだが」
「当分? ともかくお代は前金として先に頂くことになっておりますよ」
「これで、どうですかな?」

 ロダンは指からダイヤのついた指輪をはずしてカウンターの上においた。マスターは指輪を手にすると目を細めダイヤをしばらくの間、見つめていた。やがて笑いながら顔をあげた。
「いい品物ですな。これで半月分の宿泊代として受け取らせていただきます。それに三食もその料金の中に入れておきますので、好きな物を好きな時に頼んでいただいてけっこうですよ」
「それでいいのね?」とシルビアが訊ねていた。
「もちろん、食事は、私どものサービスですよ。こう見えても、私は宝石の鑑定に自信がある。あなた方と同じに宿泊代として宝石を出すお客さまは結構おられますのでね」
「それでだが、部屋は別々に泊まれるように二部屋お願いしたい。それから、できればバスつきにして貰いたいのだが」と、ロダンが注文を出した。
「ええ、いいですよ。ここはオアシス。水は十分にある所ですから、どの部屋にもバスつきになっていますよ」
 その後、マスターは壁にかかっていた鍵を二つとり、それぞれ一つずつシルビアとロダンに渡していた。
「鍵につけられた木ふだに書かれた番号があなた方の部屋番号になっている。そこの階段をあがって、その番号の部屋に入ってください」
 言われた通り、二人は階段をあがってそれぞれの番号の部屋に入った。すぐにシルビアはバスタブに水をため、そこに入り体を洗い一年分の汚れを落とした気分になることができた。服はよごれたままだが、しかたがない。新しい服を買うことができたら、ホテルに洗濯を頼もうと思っていた。
 そんな時にドアがノックされた。
「シルビアさま、夕食の時間ですぞ。まず食事をとることにいたしましょう」
 ロダンに言われて、昼も食べていないことに気がついた。部屋のドアを開けるとロダンが部屋の前で待っていた。ロダンの後について、階段をおりた。ホテルについているレストランに行き、テーブルを前に開いている席にすわった。
 女の給仕がやってきた。
「なんにしますか?」
「どんなのがあるのかしら?」と、シルビアは首をかしげる。
「お任せにしてもらえば、ありがたいわ。手に入れた良い材料を出すことができますよ」
「お任せにすると、出てくる物は肉料理ばかりだよ」と、近くのテーブルにすわっていた男が声をかけてきた。
「肉だけですか?」と言って、シルビアは男のほうに顔をむけた。
「ラクダ、羊、豚だね」
「ちゃんと、野菜もつけていますよ。それにスープもある」と言って、給仕は怒った目を男にむけていた。
「悪い、悪い。じゃまをするきはなかったんだが。美しい女性には美容にいい食べ物を食べて貰いたいと思ってしまってね」
 そう言った男は挨拶がわりに赤ワインを入れたグラスをあげていた。
 シルビアは羊、ロダンはラクダの肉を頼み、当然のように野菜添えを頼んだ。運ばれた料理を食べるシルビアたちを面白そうに見ていた男は二人が食事を終えると、話しかけてきた。
「老人と若い女性の冒険者は珍しい組み合わせだね。それに、ここには冒険者が退治するような魔獣はいないはずだが」
「あなたは剣士。あなたこそ、冒険者ではないのですか?」
「そうですよ。だが、いまはどのパーティーにも属してはいない。私はシーザー。ここには紫石花を分けてもらいにきたのだが、国王にいくら頼んでも紫石花を分けてはくれない」
「えっ」とシルビアは声をあげた。シルビアと同じ目的でここにきていたからだ。
「それは、国王が欲しいだけのお金をあげないからではないですか?」
「いや、そうではないね。国王が望んでいる物がなんなのか分からず、探しているところなのですよ」
 その話が聞こえたのか、給仕の顔が強張り出していた。カウンターにいるマスターも顔色が青くなっていた。このホテルにくる者たちの中には紫石花を手にいれたくてきた者がかなりいたのだ。だが、その目的で泊まったお客でホテルに戻ってきた者はほとんどいなかった。その時のシルビアたちは、そのことをまだ知らない。だが、違和感だけは感じ出していた。
「シルビアさま、その話はこの辺でやめておきましょう。私どもはこの国のことはまだ知らなすぎる。ここにいる人たちに私らの目的を知られないほうがいいのかもしれませんよ」
 ロダンにそう言われたので、シルビアはその話を続けるのをやめることにした。その代わり、シルビアは新しい服を買うにどうすればいいのか、話を始めた。マスターの話から、服を売る店がどこにあるか知ることができた。さらに、宝石をコインに変えてくれる店があることも分ったのだ。
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