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第14話・いっそセレナーデ

【歌人】

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時は、1975年8月18日の夜7時20分頃であった。

ところ変わって、水俣市汐見町《みなまたしおみちょう》にある大型公園のグラウンドにて…

グラウンドでは、地区の盆踊り大会がひらかれていた。

大きなやぐらのまわりに、住民のみなさまガキのたくさん集まっていた。

やぐらのまわりにいる住民のみなさまは、地区の民謡の音楽に合わせて踊っていた。

この時、私はグラウンドにあるベンチに座って盆踊りを見つめていた。

小番頭《こばんと》はんは、バザーをひらいているテントの横で啖呵売《しょうばい》をしていた。

小番頭《こばんと》はんは、溝端屋をやめたあと北九州の門司で出会ったバナナのたたき売りの啖呵売人《おやぶん》の弟子になった。

3年間、啖呵売人《おやぶん》のもとで武者修行をつんだあと、テキ屋を始めた。

小番頭《こばんと》はんは、店の前に集まった住民のみなさまの前で『1回100円でくじ引きをして、あたりが出たら高価な品物をプレゼントするよ…』と言うた。

このあと、さくらの男がくじをひいた。

さくらの男があたりをひいたので、住民のみなさまは『わたしも』『わたしも』と言いながらくじ引きをした。

しかし、くじは全部ハズレがつづいた。

さくらの男は、一体誰なんだろうか?

溝端屋で丁稚奉公していた男か?

それとも…

小番頭《こばんと》はんのシャテイの男か?

どっちか分からなかった…

時は、夜10時頃であった。

ところ変わって、国鉄(今は肥薩おれんじ鉄道の)水俣駅の近くにある宿屋にて…

3つの私は、小番頭《こばんと》はんとシャテイの男と一緒の部屋にいた。

部屋は、8畳ふたまになっていた。

私は、テレビが置かれている部屋でテレビを見ていた。

テレビの画面は、テレビ熊本が映っていた。

この時間は『夜のヒットスタジオ』が放送されていた。

小番頭《こばんと》はんは、向かいにあるテレビのない部屋にいた。

テーブルの上には、魚介類のお造りが並んでいた。

小番頭《こばんと》はんは、腕組みした状態で考えごとをしていた。

そこへ、シャテイの男が薩摩切子《いろとりどりのきりこ》の徳利《とくり》に入っている冷酒2合を持って部屋に入った。

「アニキ、おかわり持って来やした。」
「(しんどい声で)おおきに…」

シャテイの男は、テレビを見ている私をちらっと見てから小番頭《こばんと》はんに言うた。

「アニキ。」
「なんぞぉ~」
「いいのですか?」
「いいのですかって…」
「親もとへ帰した方がええんとちゃいまっか?」
「あの子に親はいねえよ。」
「いてへんって…」
「オレは溝端屋のダンナに頼まれているんだよ。」
「溝端屋のダンナに頼まれているって?」
「声が大きいんだよドアホ!!」
「すんまへん。」

(ガラッ…)

そこへ、宿屋の仲居《なかいはん》が部屋にやって来た。

仲居《なかいはん》は、小番頭《こばんと》はんに面会を申し出ている人がいますと言うた。

「磯村はん。」
「おお…」
「下の階の部屋に宿泊している男性の方がお話をしたいと言うてますが…」
「分かった…行く…おい。」
「なんぞぉ~」
「オドレも一緒に行くぞ。」
「なんでおれも行くねん?」
「つべこべ言うな!!」
「すんまへん。」

このあと、小番頭《こばんと》はんとシャテイの男は下の階へ行った。

ところ変わって、下の階にある部屋にて…

下の階の部屋には、溝端屋のダンナと番頭《ばんと》はんと田嶋組長と小林と山岡が宿泊していた。

小番頭《こばんと》はんとシャテイの男は、溝端屋のダンナに呼び出されてここへ来た。

溝端屋のダンナは、小番頭《こばんと》はんに私の様子を聞いた。

「磯村。」
「へえ。」
「グラマシーちゃんは、西鹿児島駅までどうやって来たんぞ?」
「信州から逃げ出したあと、北陸ルートで大阪方面へ逃げました…そこから寝台特急なはに乗って来ました。」
「そうか…磯村…しばらくの間、グラマシーちゃんのメンドー見たってーな。」
「へえ、かしこまりました。」

小番頭《こばんと》はんは、溝端屋のダンナの前で深々と頭を下げた。

一方、上の階の部屋にいる私は『夜のヒットスタジオ』が終わったあともテレビを見ていた。

この日は、深夜0時半にとこについた。
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