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第1話・どこへ帰る

【雨のバラード】

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あれは、1971年9月21日の午後1時過ぎであった。

ところ変わって、越智郡玉川町の鈍川温泉郷《にぶかわおんせん》にて…

事件は、温泉街からうんと離れた場所にある料亭で発生した。

この付近では、雷を伴って1時間に100ミリに相当するし烈な雨が降っていた。

事件は、料亭内の大広間で発生した。

料亭の大宴会場では、結婚披露宴が執りおこなわれる予定であった。

この時、男《チンピラ》たち50人が大宴会場に乱入した。

宴会場は、シュラバと化した。

ことの発端《ほったん》は、新郎さんの大叔父《おおおじ》が男《チンピラ》のひとりを刃物で斬《き》りつけて殺したことであった。

そのまた原因は、新郎さんの大叔父《おおおじ》は、2日ほど前に50人の男《チンピラ》たちと花札《ふだ》をしていた時にイカサマしたことであった。

新郎さんの大叔父《おおおじ》に殺された男《チンピラ》は、大叔父《おおおじ》に対して『イカサマしやがったな!!』と言いがかりをつけた。

ブチ切れた大叔父《おおおじ》は、刃物で男《チンピラ》を刺し殺した…

…という事であった。

50人の男《チンピラ》たちは、殺された仲間のカタキ討《う》ちをするために料亭《ここ》へなだれ込んだ。

(ズドーン!!ズドーン!!ギャーッ!!)

大宴会場に、銃声と親族たちのけたたましい悲鳴が響いた。

そんな中であった。

純白の文金高島田《はなよめいしょう》姿の花嫁さんが100人の子守女さんたちに護《まも》られながら料亭から脱出した。

花嫁さんは、100人の子守女さんたちと一緒に現場から300メートル先に停車している白のニッサンキャラバン(ワゴン車)へ向かった。

花嫁さんは、私の実母のきょうこ(当時19歳)であった。

この時、私・イワマツは実母の胎内《なか》にいた。

「時間がないわよ!!急いで!!」

ワゴン車に乗っている女性は、花嫁姿の実母を護《まも》っている子守女さんたちに呼びかけた。

子守女さんに呼びかけた女性は、私の育てのマァマ(パク・ジナ~当時26歳)であった。

文金高島田《はなよめ》姿の実母は、子守女さんたちと一緒にワゴン車に乗り込んだ。

「大丈夫?」
「くすんくすんくすん…」

文金高島田《はなよめ》姿の実母は、車に乗り込んだあとマァマに抱きついてくすんくすんくすんと泣いた。

(ブーッ!!ブーッ!!ブーッ!!ブーッ!!)

その時であった。

より強烈なブザー音が遠くから響いた。

ブザー音は、ダムの緊急操作《きんきゅうそうさ》開始を知らせる合図であった。

玉川ダムの上流で、1時間に300ミリのし烈な雨が断続的に降った。

ダム湖の水位が急激に上昇したことに伴って、蒼社川《かわ》がハンランする危険《リスク》が高まった。

この時、実母とマァマが乗っているワゴン車の前に停車していた黒のニッサンパッカードの後ろの席の窓がひらいた。

窓の中から、焼きソバヘアで黒のサングラスをかけている男が顔を出した。

男は、南予の喜多郡の薬問屋『溝端屋』の番頭《ばんと》はん・竹宮豊国であった。

番頭《ばんと》はんは、子守女さんたちに『早くしろ!!』と怒鳴りつけた。

子守女さんたちは、実母とマァマが乗っているワゴン車の前後に停車している20台のワゴン車にそれぞれ分乗した。

その後、合計22台の車両《くるま》は事件現場《げんば》から一斉に出発した。

車22台は、鈍川温泉郷《にぶかわおんせん》から出発したあと国道317号線~県道北条玉川線を通って北条市へ抜けた。

その後、国道196号線を通って松山市中心部へ向かった。

時は、夜7時半頃であった…

実母とマァマたちが乗っている22台の車両《くるま》が道後温泉《どうご》の伊佐彌坂《いさにわざか》にある置屋の前に到着した。

置屋は、マァマの妹さんのドナさん(以後、ドナ姐《ねえ》はんと表記する)が経営している。

置屋には、80人の芸妓《げいこ》はんとコンパニオンさんが在籍していた。

通りのスピーカーから、湯原昌幸さんの歌で『雨のバラード』が聞こえていた。

ところ変わって、置屋のあがり口にて…

あがり口付近にある6畳の居間に、水色のふりそでときらびやかな名古屋帯の和服姿のドナ姐《ねえ》はんがいた

ドナ姐《ねえ》はんは、温泉街にある旅館や料亭へ向かう芸鼓《げいこ》はんたちのお見送りをしていた。

おしろい顔で髪の毛にキラキラのかんざしをつけている和服姿の芸妓《げいこ》はん2人は、ドナ姐《ねえ》はんに声をかけた。

「ほな姐《ねえ》はん、行ってまいりやす。」
「きばっていっといで~」

2人の芸妓《げいこ》はんは、ドナ姐《ねえ》はんにあいさつをしたあと派遣先の旅館へ向かった。

それから2分後であった。

マァマたち一行が置屋に到着した。

「ドナ、いま着いたわよ。」
「あっ、姐《ねえ》はん。」
「溝端屋《みぞはたや》のダンナたちは、どこにいるの?」
「溝端屋《みぞはたや》のダンナたちは、奥道後のホテルに宿泊しているわ…ホテルまでの道順を書いた地図を姐《ねえ》はんに渡しとくね。」

ドナ姐《ねえ》はんは、マァマに溝端屋《みぞはたや》のダンナたちが宿泊している奥道後のホテルまでのルートを記載したメモ用紙を手渡した。

その後、一行は22台の車両《くるま》に分乗して奥道後へ向かった。

時は、夜8時過ぎであった…

ところ変わって、ホテル奥道後の20畳の和室の宴会場にて…

宴会場には、溝端屋《みぞはたや》のダンナたちがコンパニオンさんたちがいた。

お膳で囲まれているスペースで、コンパニオンさんと男性客と三味線《しゃみ》を演奏している和服姿の芸鼓《げいこ》はんたちがいた。

お膳で囲まれているスペースでは、四国松山が発祥の『野球拳踊り』が繰り広げられていた。

掛け軸がかざられているかべの側に、溝端屋《みぞはたや》のダンナ・溝端源五郎《みぞはたげんごろう》と今治にある長府組《ちょうふぐみ》の系列のやくざ組織・田嶋組《たじまぐみ》の組長の田嶋竜興《たじまたつおき》(以後、田嶋組長と表記)とナンバーツーの男・小林順慶《こばやしじゅんけい》(以後、小林と表記)と元組員の男で、愛媛県議会議員の山岡重秀《やまおかしげひで》(以後、山岡と表記)の4人がお膳をならべて座っていた。

周囲の席に座っている30人のドスケベジジイどもは、溝端屋《みぞはたや》と取り引きをしている卸問屋《とんや》の社長さんたちであった。

三味線《しゃみ》の演奏に合わせて踊ったあと、最初でグーのじゃんけんをする。

じゃんけんで負けた方が大きめのマスに入っているヤマタン正宗(日本酒・激辛風味の酒である)を一気にのみほす。

この時、負けてばかりいたジジイがひどく酔った勢いで叫んだ。

「ワシ…酒なんぞいらん!!…脱ぎの野球拳に変えろ!!」

それを聞いた周囲のドスケベジジイどもがチョーシに乗った。

「おお、ええなぁ~」
「わしも脱ぎがええ~」

ドスケベジジイどもは、酔った勢いでコンパニオンさんに脱ぎの野球拳おどりを強要した。

コンパニオンさんは、脱ぎの野球拳おどりをイヤイヤ引き受けた。

その後、野球拳おどりが再開された。

三味線《しゃみ》の演奏に合わせて踊ったあと、最初でグーのじゃんけんをした。

この時、コンパニオンさんはじゃんけんに負けてばかりいた。

それから60分後であった。

コンパニオンさんは、白のレースのレギュラーショーツ1枚の姿になった。

コンパニオンさんは、最初はグーじゃんけんに全部負けたので最後まで残っていたレギュラーショーツをドスケベジジイどもの前で脱いだ。

それを見てコーフンしたドスケベジジイどもが、チョーシに乗ってねまきを脱いだ。

その後、お膳に囲まれているスペースに上がり込んだあとコンパニオンさんの身体を押さえつけた。

「イヤ…イヤ…」
「おお、Mカップのものすごくおっきなおっぱいだぁ…」
「ワシもほちい…」

ドスケベジジイどもは、コンパニオンさんのMカップのふくよか過ぎる乳房をむさぼり始めた。

「イヤー!!やめてぇー!!」
「ハア~、長生きできる~…ありがたやありがたや~」
「コラ!!タキノヤ!!ワシにも乳すわせろ!!」
「イヤや~」
「そんなに乳吸いたいのであればセガレの嫁にたのめ!!」
「嫁、冷たいねん~」
「タキノヤ!!ひとり占めするんじゃねえよ!!」
「そういうミズタヤも、セガレの嫁にたのめや!!」
「おいタキノヤ!!ワシにも乳よこせ!!」

ドスケベジジイどもは、コンパニオンさんひとりをめぐって大ゲンカをくり広げた。

その時であった。

ももけた(ぼろぼろの)腹巻き姿の番頭《ばんと》はんが溝端屋のダンナのもとにやって来た。

番頭《ばんと》はんは、溝端屋のダンナの耳もとでマァマたちが到着したことを伝えた。

「ああ、さよか…ほな、行くわ…」

このあと、溝端屋のダンナと田嶋と小林と山岡は、番頭はんと一緒に宴会場を出た。

ところ変わって、溝端屋のダンナが宿泊している部屋にて…

10畳ひと間の部屋に、溝端屋の大番頭《おおばんと》はんの君波誠一郎《きみなみせいいちろう》(以後、大番頭はんと表記)と五十崎《いかざき》の公証役場の事務長はんの守口是清《もりぐちこれきよ》(以後、事務長はんと表記する)と会社経営者の宮出勝利《みやでかつとし》(以後、宮出さんと表記する)とマァマが30人の付き人軍団の男たちと一緒にいた。

(ガラッ…)

しばらくして、入り口のふすまが開いた。

ふすまが開いたあと、番頭はんの案内で溝端屋のダンナと田嶋と小林と山岡が部屋に入った。

その後、付き人の男がふすまをしめた。

「あっ、だんなさま。」
「ああみなさま、待たせてすまなんだのう。」

溝端屋のダンナたちは、ざぶとんの上にどっかりと腰を下ろしたあと、あぐらをかいた。

部屋にいる付き人軍団の男たちは、窓のカーテンをしめたあと、まくら元で使うスタンドの灯りをつけた。

そして、天井に吊り下げている蛍光灯を消した。

その後、密談《かいぎ》が始まった。

「ほな、ぼちぼち始めまひょか?」
「へえっ…」

溝端屋のダンナは、宮出さんの横に座っているマァマに声をかけた。

「ジナはん。」
「だんなさま。」
「きょうこちゃんの様子はどないや?」
「はい…女性スタッフさん5人と一緒にとなりの部屋で休んでいます。」
「あっ、さよか…きょうこちゃんの胎内にいる赤ちゃんは(女の子か男の子の)どっちや?」
「男の子です…出産予定日は11月の終わり頃です…」
「ああ、さよか…よし、ほな今のうちに問題を解決させよう。」

溝端屋のダンナは、事務長はんに『例のアレはどうなっているのか?』とたずねた。

「守口。」
「へえっ…」
「例のアレは、どないなってんねん?」
「へえっ、コリンチャンスイワマツキザエモンセヴァスチャンの遺言書とイワマツグループとイワマツ家の財産書は、アメリカ・カリフォルニア州の弁護士さんのケントさんご夫妻が預かってます…ケントさんご夫妻は、アイスランドのアークレイリの大聖堂にて付き人軍団の男たち300人と一緒に待機してます。」
「よし分かった…君波、守口、宮出…きょうこちゃんとジナはんたちを連れて今すぐに旅立て…」
「へえっ…」

このあと、実母とマァマたちは大番頭《おおばんと》はんたちと一緒に再び旅に出た。

(ボーッ、ボーッ…)

一行は、翌日の深夜2時頃に三津浜港を出発した防予汽船のフェリーに乗って旅に出た。

それから2時間半後に、一行が乗っているフェリーが柳井港に到着した。

その後、車に乗りかえて国鉄下松駅へ向かった。

(ピーッ、ゴトンゴトンゴトン…)

明け方6時過ぎ、一行は国鉄下松駅から寝台特急あさかぜに乗り換えて博多駅へ向かった。

(ゴーッ)

一行は、その日の午後1時過ぎに福岡空港からソウルキンポ空港行きの大韓航空機に乗って日本から出国した。

そして、韓国から第三国のフィリピンを経由してどこかの国へ向かった。

胎内に私を宿している実母は、ものすごく不安な表情を浮かべていた。

マァマは、実母の肩を抱きながら『大丈夫よ大丈夫よ』と呼びかけていた。

胎内にいる私も、ものすごく不安な気持ちに置かれていた。

心から安心して暮らすことができる国へ行きたい…

心から安心して暮らせる国は…

どこにあるのか…
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