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待ち受け画面
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私はね、今、幸せなんだ。
だって、彼と、山本拓哉君と、誰にも邪魔されずに一緒にいられるから。
この部屋から外に出る必要もない。スマホの待ち受け画面で壊れた人形のように横たわる彼の姿を見てるだけで、私は幸せなの。
不思議ね。彼を見てると、お腹さえ減らないんだよ? 彼への愛が私を、人間を超えたものに変えてくれたんだろうなって思うの。
ああ、<愛>って素晴らしいね。本当に奇跡を起こすんだね。
素敵。私の愛は、こんなにも力があるんだ。
満たされて、満たされて、もう何も必要ない。
愛してる…
愛してる……
愛してる、拓哉君……
永遠に私と一緒よ……
消息を絶っていた伊折游里香が、ある廃ホテルの一室で衰弱死した姿で発見されたのは、彼女と連絡が取れなくなってから一ヶ月が過ぎてからだった。
彼女が親しかった山本拓哉が目の前で歩道橋から転落し、何台もの自動車に轢かれて亡くなったのを目の当たりにしたことで精神面の心配をされていたのだが、その予感が不幸にも当たってしまった形となった。
ただ、廃ホテルに肝試しに訪れて彼女を発見したカップルは、このように証言している。
「最初見た時、てっきり生きてると思ったんだ。まさか人がいるなんて思ってなかったからビビったけど、スマホの画面を見ながらなんか嬉しそうに笑ってるから、そいつも心霊スポットマニアか何かで、目的の場所にこれたのを喜んでたのかなと思ったんだ」
「綺麗な子だなって思った。スマホのライトに照らされて、人形みたいにも見えたな」
と。
しかしそのカップルが彼女の姿を見た時には既に亡くなってから二週間以上が経過していたはずである。
だからその証言は、肝試しを目的に恐ろしげな廃ホテルに侵入した際の異様な精神状態の中で遺体を見付けてしまったことによる、ある種の錯乱状態だったと見做された。
とは言え、発見された時、彼女は確かにスマホの画面を見詰めたままの姿で死亡しており、これには検視官すら首を捻ったという。
また、不可解なことに、彼女が所持していたスマホは、充電されていなかった筈にも拘らず、警察が現場に駆け付けていた時にはまだバッテリーが上がっていない状態だったのも事実だった。
さりとてその辺りについてはあまり重要視されず、伊折游里香の死は、精神的なショックからくる、<消極的な自殺>として処理された。
なお、彼女が手にしていたスマホは、警官がそこに写っていた山本拓哉の轢死体を確認した途端に電源が落ち、二度と起動することはなかったそうである。
FIN~
だって、彼と、山本拓哉君と、誰にも邪魔されずに一緒にいられるから。
この部屋から外に出る必要もない。スマホの待ち受け画面で壊れた人形のように横たわる彼の姿を見てるだけで、私は幸せなの。
不思議ね。彼を見てると、お腹さえ減らないんだよ? 彼への愛が私を、人間を超えたものに変えてくれたんだろうなって思うの。
ああ、<愛>って素晴らしいね。本当に奇跡を起こすんだね。
素敵。私の愛は、こんなにも力があるんだ。
満たされて、満たされて、もう何も必要ない。
愛してる…
愛してる……
愛してる、拓哉君……
永遠に私と一緒よ……
消息を絶っていた伊折游里香が、ある廃ホテルの一室で衰弱死した姿で発見されたのは、彼女と連絡が取れなくなってから一ヶ月が過ぎてからだった。
彼女が親しかった山本拓哉が目の前で歩道橋から転落し、何台もの自動車に轢かれて亡くなったのを目の当たりにしたことで精神面の心配をされていたのだが、その予感が不幸にも当たってしまった形となった。
ただ、廃ホテルに肝試しに訪れて彼女を発見したカップルは、このように証言している。
「最初見た時、てっきり生きてると思ったんだ。まさか人がいるなんて思ってなかったからビビったけど、スマホの画面を見ながらなんか嬉しそうに笑ってるから、そいつも心霊スポットマニアか何かで、目的の場所にこれたのを喜んでたのかなと思ったんだ」
「綺麗な子だなって思った。スマホのライトに照らされて、人形みたいにも見えたな」
と。
しかしそのカップルが彼女の姿を見た時には既に亡くなってから二週間以上が経過していたはずである。
だからその証言は、肝試しを目的に恐ろしげな廃ホテルに侵入した際の異様な精神状態の中で遺体を見付けてしまったことによる、ある種の錯乱状態だったと見做された。
とは言え、発見された時、彼女は確かにスマホの画面を見詰めたままの姿で死亡しており、これには検視官すら首を捻ったという。
また、不可解なことに、彼女が所持していたスマホは、充電されていなかった筈にも拘らず、警察が現場に駆け付けていた時にはまだバッテリーが上がっていない状態だったのも事実だった。
さりとてその辺りについてはあまり重要視されず、伊折游里香の死は、精神的なショックからくる、<消極的な自殺>として処理された。
なお、彼女が手にしていたスマホは、警官がそこに写っていた山本拓哉の轢死体を確認した途端に電源が落ち、二度と起動することはなかったそうである。
FIN~
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