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293.必然

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暗くて冷たい、地下へと続く石の階段を踏みしめる度に、靴音が不気味なくらいに響いた。

「………地下牢はこのようになっていたのですわね」

螺旋状に連なった階段を降りながら、アリーチェはしみじみと呟いた。
ティルゲルが閉じ込められているのは、カヴァニス王城の地下にある石牢だった。

アリーチェ達が居住空間として利用していた城の上層部は焼け落ちてしまっていたが、幸いにも地下牢の部分は何とか使用できる状態だったらしい。

「陽の光が届かないせいか、クスターの東の塔よりも更に暗いのですね」

石牢を見ると、否応なしにセヴランにより幽閉された牢の事が思い起こされる。
しかしそれを自ら口に出来るほどに、心の傷は回復してきているようだった。
しかしルドヴィクはそう思っていないらしく、心配そうにアリーチェを振り返ると、ゆっくりと首を振った。

「ブロンザルドでの事は、思い出す必要はない」

素っ気ないが、ルドヴィクなりの優しさの籠もった言葉に、アリーチェは微かに微笑み、頷いた。

「………しかし、何の罪もないアリーチェを牢に幽閉するとは、ブロンザルドの先王はどこまでも腐った人間だったのだな」

最後尾を歩くアンジェロが、憤る。
若干歩みが遅く、ルドヴィクとアリーチェから僅かに遅れてこそいたが、つい先日までは重体だった人間とは思えなくほどのしっかりとした足取りだった。

「兄様、もう過ぎた事ですから…………。それに、あの事件があったからこそ、パトリス様は助かり、これ以上魔石のせいで苦しむ人がいなくなったのですもの。………全ては、…………そう、全てバラの必然だったのですわ」

魔石さえなければ、と思ったことは幾度もあった。
しかし魔石があったからこそ、ティルゲルとセヴランの断罪を行うコトができたのだし、瀕死状態だったアンジェロの生命を救ったのもまた魔石なのだと思うと、複雑な気持ちになるのもまた、事実だった。 
『諸刃の剣』とは言うものの、魔石に関しては、そのような言葉で括られるほどの単純なものではない気がした。

「………必然、か……………」

アンジェロが、まるで噛みしめるように呟いた。

「「………そうだな」」

アンジェロと、先頭を歩くルドヴィクが、殆ど同時に頷いたのだった。
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