猫被り令嬢の恋愛結婚

玉響

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新婚編

26.弁明

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「きゃ………っ!」

いくら座ったままの体勢とはいえ、地面に倒れ込むのは避けられないと覚悟したリリアーナは、ぎゅっと目を瞑った。
たが、その瞬間はいつまで経っても訪れず、代わりに身体を優しく抱き留める、温かくて大きな手の感触を感じ取った。

「危ないですよ、リリアーナ」

リリアーナのすぐ頭上から、柔らかな声が降ってきて、リリアーナはおそるおそる目を開けてみた。
そこにはつい先程突き放したはずのラファエロの麗しい顔があって、心配そうにこちらを見つめていた。

「ら、ラファエロ様…………ありがとうございます………」

抱き止められた恥ずかしさと、突き放した気まずさから、リリアーナは顔を真っ赤に染め上げた。

「あなたが怪我をするのも、あなたに突き放されるのも私にとってはとても辛くて悲しい事なんです。よく、覚えておいてくださいね」

あでやかと表現するのが相応しいほどの笑顔のラファエロが、リリアーナの額に己の額をそっと押し当てる。
一瞬見惚れてしまうような美しい笑顔だったが、エメラルド色の瞳は全く笑っていないことに気がつき、リリアーナは全身から血の気が引いていくのを感じた。

(ラファエロ様は私が口付けを拒んで突っ撥ねたのを怒っていらっしゃるんだわ………!)

咄嗟に取ってしまった行動だったが、ラファエロが嫌で拒否した訳では無い。
だが、言葉でも反論しているせいでラファエロに勘違いをさせてしまったのだろう。
焦ったリリアーナは、ラファエロの上着をぎゅっと掴んだ。

「違うのです…………っ。ラファエロ様が嫌で離れた訳ではありませんの………!その………子供達の見ている前で口付けをするのは良くありませんし、恥ずかしくて………」

何と説明すれば良いのか分からず、リリアーナは必死になって弁明の言葉を紡ぎ出す。
ただラファエロに自分の気持ちを分かって欲しい、その一心だった。
祈るように、両目をぎゅっと強く瞑ると、すぐにラファエロの声が耳に届いた。

「リリアーナ………私は別に、口付けなどしようとしていませんよ?」
「……………、………へっ?」

予想を全く裏切るラファエロの返答に、リリアーナは令嬢らしからぬ間抜けな声が口から零れたことにすら気が付かないほどに、茫然とした。
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