猫被り令嬢の恋愛結婚

結婚編

97.王女の謀略

「わたくし、お父様に知らせを送りましたの。ラファエロ様との婚姻を結ぶために、オルカーニャ正教会の司祭をこちらに送っていただきたいという内容ですわ」

俄には信じられない話に、リリアーナは思わず口元を手で覆った。
ほぼ同時に、クラリーチェも同じ仕草をしているのが目に入る。

オルカーニャ正教会。
それはオルカーニャとその周辺国で信仰されている宗教の名称で、キエザ周辺で信仰されている宗教と、神は同じだが、戒律などが異なるものだった。
中でも有名なものは、重婚の禁止だ。
様々な戒律において、厳しいことで知られるオルカーニャ正教会だが、殊に重婚に関しては死罪を科すほどに固く禁じられている。
勿論離縁も、浮気など、パートナー以外と関係を持つことも当然禁じられており、一度婚姻を結べば、夫婦のどちらかが死ぬ以外は再婚すら出来ないのだ。

しかし、ラファエロはラヴィニアとの婚姻をはっきりと拒否したし、そもそもラファエロにはリリアーナ自分という婚約者がおり、そもそも国王であるエドアルドがラファエロとラヴィニアの婚姻を承諾していないのだから、ラファエロと婚姻を結ぶなど、どう考えても不可能なはずだ。

考えれば考えるほどに、頭の中が混乱していく。

「………私はリリアーナ以外とは結婚しないと、何度も伝えているはずですが？」
「その女と、そちらの野蛮な侯爵にどんな弱みを握られているのか知りませんけれど………。ラファエロ様を救って差し上げるには、こうするしかなかったのです」

その言葉を聞いて、リリアーナは最早ラヴィニアの思考を探ろうとするのを、放棄した。
彼女には法も、正論も、全く通じないのだ。
彼女にとっては、彼女の中の「正義」と「理屈」だけが正しく、全てが彼女の中にある理論で動いているから、誰にも理解ができないのだ。

「なるほど………。重婚を禁止するオルカーニャ正教会の司祭の前で誓いを立てれば、確かにあなた以外の女性を妃には迎えられませんね」

ラファエロは納得したように呟きながら微笑んでいる。

「きっとあなたのことだ。私がどんなに拒絶しても、その事実を無理矢理でも歪曲した上で、自分に都合よく解釈をするのですから………何を言っても無駄なのでしょうね。…………ならば、私にも考えがあります」

ラヴィニアに向かって宣言をすると、ラファエロは突然リリアーナの体を横抱きに抱え上げたのだった。