猫被り令嬢の恋愛結婚

玉響

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結婚編

50.ラファエロとグロッシ侯爵

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「………それで、一体何事でしょうかな?いつも冷静な殿下が珍しく慌ててらっしゃるとは………良くない知らせでも?」

応接間の椅子にどっかりと腰を下ろしたグロッシ侯爵は鋭い眼光をラファエロに向ける。

「流石は侯爵ですね。………実は………、あの横暴な王女が、私に王都の案内をしろと言ってきたのです」

ラファエロは口に出すのも悍ましい、といったように、美しい顔を顰め、溜息をついた。

「なっ…………!」
「あら、まぁ………」
「………は?」
「え…………っ?!」

ラファエロ以外の四人………グロッシ侯爵家の面々の口から一斉に、それぞれの声が漏れる。
中でもリリアーナは、あまりの驚きに、声を上げたまま、固まるほかは無かった。

殆ど勝手に押しかけてきておきながら、多忙を極めるラファエロに『王都の案内をしろ』などとあの王女は一体何を考えてるのだろうか。
昨日の言動から、やや常識に欠ける部分があるのかもしれないとは思っていたが、どこまでが演技でどこまでが本省なのかすらもわからない。

「私は仕事もありますし、何よりもリリアーナという愛しい婚約者がいますから、婚約者のいない未婚の女性と行動を共にするのは気乗りしませんとお断りをしたのですが、今朝も部屋まで押しかけてきまして………」
「………なるほど。それで慌てて我が家に避難してこられたという訳ですな」

グロッシ侯爵の言葉に、ラファエロは困ったような笑みを浮かべた。
いつもは何事も動じることなく、笑顔で全てを捌いてしまうラファエロらしからぬ態度に、グロッシ侯爵もさすがに意地の悪い言葉は控えているようだった。

「………殿下らしくありませんな。普段ならば、私情を殺してでも職務を全うしようとするでしょうに………」
「私も、そう思います。………ですが、リリアーナを傷つけたり、不安に思わせるようなことは絶対にしたくありませんからね。兄にも相談してはみますが、あの王女の横暴な態度が続くようであれば、我が国の面目丸潰れですからね。………オルカーニャとの今後を、少し考えなければと思っているところです」

ラファエロは穏やかな笑顔を浮かべ直すと、まるでリリアーナを安心させるかのように、リリアーナの手を握った。

「………ほう、奇遇ですな。私も丁度、そのように考えていたところですよ」

珍しく、グロッシ侯爵がラファエロの意見に同調すると、にやりと嗤って見せたのだった。
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