猫被り令嬢の恋愛結婚

玉響

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結婚編

6.作戦

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ラファエロは平然とした様子でリリアーナをエスコートしたまま、自分の執務室へと誘導していく。
そんな彼に手を引かれるリリアーナは、緊張のせいか指先が冷たくなっていくのを感じた。

「………どうか、しましたか?」

リリアーナは何も答えず、ただじっとラファエロを見つめる。
リリアーナのほんの僅かな変化にも敏感にこれほどまでに反応するラファエロが、リリアーナの陰鬱な気持ちに気がついていないはずがないのに、それについては全く触れないのも不思議だった。

「………ラファエロ様」

ラファエロが執務室の扉を開けるのと同時に、リリアーナは静かに彼の名を呼んだ。
すると、ラファエロは一瞬リリアーナを見つめてからふわりと微笑んだ。

「仕事は後回しにして、少し話をしましょうか」

それは、まるでリリアーナを慰めるかのような優しい声色だった。
リリアーナははっとして、それからゆっくりと頷く。

ラファエロはリリアーナを椅子に座らせると、自分はその正面へと回って、腰を下ろした。

「………それで、一体どうしたと言うのですか?」

俯いたままで何も喋ろうとしないリリアーナに、ラファエロは先程と同様優しく声を掛けた。

「………それは、私の台詞です」

リリアーナは両手を膝の上でぎゅっと握り、精一杯冷静さを装って声を絞った。

「私が、結婚式について具体的に考えていないと言ったのがそんなに腹立たしかったのですかっ………?」

しかし次いで出てきたのは、ずっとしまい込んでいた言葉だった。
感情的になってしまえば、抑えが利かなくなり、本当に喧嘩になってしまうと思っていたのに、口を開いた途端に押さえ込んでいた感情が湧き出してきてしまう。

ラファエロはそんなリリアーナに、驚いたように目を瞠り、それから優しく微笑んだ。

「ええ、怒っていましたよ。………正確には、怒りよりも落胆に近い気持ちでしょうか。………私はいつもあなたのことを、狂おしい程に想っているというのに、あなたはそうでもないのだと言われたようで傷付きました」

室内でもはっきりと分かる、美しいエメラルド色の双眸が真っ直ぐにリリアーナへと向けられた。

「………ですから、どうしたらあなたがもっと私のことを考えてくれるかと考えて、敢えて少し距離を置いてみたのですが………どうやら私の作戦は効果があったみたいですね」

そう言って満足げに微笑んだラファエロの言っている意味が理解できず、リリアーナは呆然とし、そして何回か目を瞬いたのだった。
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