猫被り令嬢の恋愛結婚

玉響

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婚約編

55.微酔と羞恥

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「私もリリアーナ様にお借りして読みましたけれど、とても素敵なお話でしたね。確かに男性主人公の王様はエドアルド様に似ている気がしました」

三人の会話を静かに聞いていたクラリーチェが、ふわりと微笑んだ。

「ク、クラリーチェ嬢も読んだのですか………っ?」

いつも落ち着いているラファエロが、珍しく声を裏返した。

「ラファエロ様………?」

リリアーナが不思議そうにラファエロを見つめると、ラファエロははっと我に返った様子を見せてから、小さく咳払いをした。

「………少し、酔ったみたいです」

ラファエロは小さく呟いたが、ほんのり頬が赤い他は変化はないように見えた。
以前ラファエロが酒を飲んでいる時よりも、ペースが早いのは確かだが、量としてはさほど変わらないだろう。

「大丈夫ですの?お水でも………」

リリアーナが慌ててリディアに目配せをするが、途端にリリアーナの体はラファエロの腕の中に囚われていた。

「ラ、ラファエロ様…………っ?」
「酔ったせいか、あなたに甘えたくなってしまいました」

耳元で囁く声がやけに甘くて、リリアーナは瞬時に頬が熱くなるのを感じた。
グラッパならばともかく、たかだか葡萄酒一本程度では酔いもしないというのに、酔いが回ってきたかのように高揚感と浮遊感が同時にリリアーナを襲った。

エドアルドは大きく目を見開き、クラリーチェは「まあ………」と小さく感嘆してからすっと目を逸したのが見えて、明らかに気を遣われているのがわかってしまう。

それが、ラファエロの照れ隠し故の言動だということを知らないリリアーナは、恥ずかしさと居た堪れなさから、咄嗟に口を開いた。

「あ、あの………ラファエロ様と私は、少し夜風に当たって酔いを覚ましてまいりますわ………っ」

そう口走ってから、リリアーナははたと気がつく。
これではまるで、『ラファエロと二人きりになりたい』と言っているようなものではないか。

「そうですね、そうしましょう」

やけにはっきりとした口ぶりで、すかさずラファエロが同調した。

「あ、あの…………っ」

そんなつもりではなかったと、弁明しようと思ったが、だったらどんなつもりだったのかと言うことも説明出来ないことに気がついて、リリアーナはぐっと言葉を飲み込んだ。

「………では、兄上たちもごゆっくりお過ごしください」

リリアーナを抱え上げながら立ち上がるラファエロは、嫣然と微笑んだのだった。
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