猫被り令嬢の恋愛結婚

玉響

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婚約編

54.恋物語

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「お二人の仲睦まじい様子を見ていると、本当に恋物語のようで、幸せですわ………」

満足げな吐息を漏らすリリアーナを、ラファエロはじっと眺める。

「そういえば、巷で流行っている恋物語を、あなたも好んで読んでいるのでしたね」
「ええ。特に『月夜の灰被り姫』というお話が大好きですの。何度読んでも堪らなくて………!」

リリアーナはまるで果実水を飲むような勢いで、グラスに注がれた葡萄酒を一気に煽り、満面の笑顔を浮かべた。
すかさず空になったグラスに、リディアが酒をそそいでいく。

「ぶっ…………、ゴホン!」

すると突然、ラファエロが妙な咳払いをした。
リリアーナは驚いて、ラファエロを凝視した。

「あの、リリアーナ?………その物語はですね…………」
「まあ!ラファエロ様もご存知でしたのね?」

ラファエロが恋物語を読む、というのは本当に意外だったが、いつもスマートな対応をしてくれるのは、恋物語を愛読しているからこそなのかもしれないと、合点のいく部分も多かった。

「知っている、といいますか………」

ラファエロにしては歯切れの悪い返事をしながら、必死に作り笑いを浮かべようとしていた。
男性でありながら、恋物語を読むということが恥ずかしいと思っているかのようだった。
もしかすると、ラファエロも少し酔いが回ってきたよかもしれなかった。

「私、あの物語を読んで、其の後にクラリーチェ様と出会って………。こんなにも素敵な方が実在するだなんて、思いもしませんでしたわ」
「……………」

ラファエロは、何も言わずにただじっと葡萄酒の入ったグラス越しに、リリアーナを見つめていた。 

「グロッシ侯爵令嬢。その物語なら、私も読んだぞ。ラファエロがしてくれた」

突然、クラリーチェに愛を囁いていたはずのエドアルドが、嬉しそうに声をかけてきた。

「へ、陛下も………ですの?」

意外な事実に、リリアーナはただ純粋に驚く。
ラファエロなら、別に恋物語を読んでいても不思議ではないが、まさかエドアルドまでとは想像もしていなかった。

「ああ。………巷でどのようなものが流行し、好まれるのかというのをしっかり見極められるようにと思ってな」
「そうでしたのね」

納得したような、しないような微妙なところだったが、リリアーナは頷いたのだった。
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