猫被り令嬢の恋愛結婚

玉響

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婚約編

2.複雑な親心

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貴族たちの粛清が終わり、ようやく滞っていた政が順調に進みだした頃、国を揺るがす大事件に発展した開港祭の再開催が告知された。

キエザの、国を挙げての祭典である開港祭があのような形で台無しになってしまった為に、仕切り直しをエドアルドとクラリーチェが提案したらしい。
沈んでしまった祝祭船ブチントーロが手配出来れば、問題がないらしい。

「今度は、殿下と一緒に船に乗るのか?」

一家揃っての晩餐の席で開港祭の話題が出た途端、ウルバーノが含みのある笑みをリリアーナに向けてきた。

「まだ殿下とリリアーナの婚約は決まっていない。殿下の祝祭船ブチントーロに同乗するわけないだろう」

何故か不機嫌そうに、グロッシ侯爵がきっぱりと言い放つ。

「あなた、往生際が悪いですわよ」
「………む………」

柔和な笑みを浮かべたグロッシ侯爵夫人がそんな夫を窘める。
母の表情は笑っているのに、目が笑っていないことにリリアーナは気が付いた。
母がそういう表情をする時は、決まって怒っている時だ。

豪胆で怖いもの知らずの父と嫋やかで控えめな母。
どちらが強いかと十人の人に問えば、間違いなく十人全員が口を揃えて父だと答えるだろう。
だが、グロッシ家を仕切っていると言っても過言ではない。
常に暴走しがちな父を、母がああして優しく窘めながら制御しているのだ。

何故あの父が、母の言うことを大人しく聞くのか甚だ疑問だったが、今なら何となくその理由が分かる気がした。

「『許す』といったのはあなたなのですから、きちんと言葉に責任を持ってくださらないと、子供たちに示しがつきませんよ?」

あくまでも口調は穏やかなまま、侯爵夫人は夫に向かってもう一度微笑んだ。
そんな妻に頭の上がらないグロッシ侯爵は、何か言いたげな表情こそ浮かべたが、それ以上は何も口に出さなかった。

「………リリアーナ。あなた、表情がとても豊かになったわね」

そんな父の様子を尻目に、母が艶やかな笑顔を浮かべ直してリリアーナに視線を向ける。

「そう、でしょうか?自分では………特に意識はしておりませんが………」

突然母に指摘されて、リリアーナは焦ったように両手で頬をおおい隠した。

「無意識に、明るい顔になるということは、心が満たされている証拠ですからね。………あなた、今とても幸せそうな顔をしているわ」

優しい笑顔を向けられて、リリアーナは何だか温かな気持ちに満たされていくようだった。

「お母様………」

母の指摘通り、本当に幸せな気持ちで、リリアーナの胸は満たされている。
願わくば、この幸せがずっと続きますように………。
リリアーナは強くそう願うのだった。
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