猫被り令嬢の恋愛結婚

玉響

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ラファエロ編

12.上辺だけの笑み

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城下町に行くと、ラファエロは街の中央にある広場ピアッツァへと向かった。
キエザ港と王宮を結ぶ丁度中心にあるこの広場は、大陸で最も美しい広場とさえ称される場所だ。

よく知られている場所であるからこそ、多くの人が訪れる事をラファエロは知っていた。

「ねぇ、君たち。ちょっといいかな?」

ぐるりと周囲を見渡したラファエロは、広場の隅に置かれたベンチで楽しそうに話している二人の若い娘に歩み寄り、声を掛けた。
そして得意の甘い微笑みを浮かべて見せる。

普段とは異なる、砕けた言い回しをするのは慣れないが、この場で上品な言葉遣いをすれば却って目立ってしまうだろう。
少なくともこの程度では絶対にボロは出ないという自信はあった。

「はい?」

近くで見たところ、年齢はリリアーナと同じくらいだろうか。
鳶色の髪の娘がほんのり頬を染めながらラファエロを見つめてきた。
彼女たちの、媚びるような表情を見て思わず浮かんだほんの少しの嫌悪感を呑み込んで、
どちらも髪の色程度しか違いが分からないような群像程度にしか思えない少女たちに向けて、出来るだけ優しく声を掛けた。

「僕、こう見えても作家を目指していてね。良かったら協力してくれないかな?」
「協力、ですか………?」

もう一人の、黒髪の少女が首を傾げた。

「そう。僕の物語に足りないのは、女のコがときめくようなロマンチックな描写だとおもうんだ。女のコの気持ちや女のコが恋に持つ憧れは、女のコに聞くのが一番だと思い立って、アテもなくここに来たんだけれど………君たちみたいなかわいい子に会えてラッキーだったな」

そう言ってもう一度微笑んで見せながら腹の中で、我ながらよくここまで思ってもない事を口にできるものだと感心する。

元々言い寄ってくる令嬢を躱すのに、適当な褒め言葉を振りまいて拒絶し、誰にも気がないということを知らしめるのは得意だった。
エドアルドのように周囲を寄せ付けないような、恐ろしい雰囲気を漂わせて冷たい態度を取るよりも、誰にでも優しく、しかし一定の距離を取る事で穏便かつ確実に、興味のない女を遠ざける事が出来る。

「君たちさえ良ければあっちのカフェで、君たちの話を聞かせてよ?恋愛話は、好きでしょ?」
「は………はいっ!私達で良ければ喜んで!」

少女たちはこくこくと頷くと元気よく立ち上がった。

「ありがとう。助かるよ」

上辺だけの綺麗な笑みを浮かべると、ラファエロは少女達と一緒に広場に面したカフェへと向かったのだった。
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