猫被り令嬢の恋愛結婚

玉響

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ラファエロ編

7.苦悩

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謁見の間に佇む銀色の髪の少女は、女嫌いのエドアルドが一目で恋に落ちたというのも納得できるような、予想していた以上の絶世の美女だった。
恐ろしいほどに整った顔立ちと、折れてしまいそうに細い体、そして儚げな印象は彼女を神秘的に見せているが、驚くほどに似合っていないドレスや宝飾品の類が痛々しかった。
後見人であり彼女の伯父であるトゥーリ伯爵はいつもどおりの無表情で俯いている。
彼が何を考えているのかを読み取るのは
そんな彼女をエドアルドは蒼褪めた顔で、瞬きもせずにじっと見つめていた。

「そのような貧相な娘は、抱く気にならん。若くて見た目は美しいが、儂はもっと豊満で色気のある娘が好きなのだ。肉付きがいいと具合がいいからな」

フィリッポのその発言は、予想だにしていないものだった。
好色王と揶揄されるほどのフィリッポが、まさか生娘を拒否するなど誰が想像しただろう。
ちらりと横にいるエドアルドに視線を移すと、その表情には僅かに安堵の色が浮かんでいた。

「………いっそのこと、このまま彼女を攫ってしまえばいいのでは?」

エドアルドにだけ聞こえるくらいの小さな声で、ラファエロは囁いた。

「莫迦を言え。そんなことが出来るのならば、とっくにやっている」

再び悔しさを滲ませるエドアルドに、ラファエロは静かに溜息をついた。

きっとエドアルドは内心、今日ほどフィリッポという存在を疎ましく思ったことは無いだろうと思えた。
政務も親としての責務も放棄し、欲望のままに生きるあの男が全てを握っているという事に理不尽ささえ覚えているのだろう。
エドアルドが、凡そ父親に向けるものとは思えない視線でフィリッポを睨んでから歯を食いしばる様子を横目で見ながら、ラファエロはぼんやりと物思いに耽った。

もし、あそこにいるのがクラリーチェではなくリリアーナだったとしたら、どうしていただろう。
無意識のうちにそんな考えが頭の片隅に浮かんできたことに気が付いて、ラファエロは口の両端を持ち上げた。
自覚するにはまだ早いと思っていたが、自分で思っているよりもずっとリリアーナという存在が大きくなっているようだった。
ゆっくりと胸のあたりに手を当てる。

リリアーナの事を考える度にそこが擽ったいような、苦しいような気持ちになったのはそういう事なのだと今更ながらに気がつく。
クラリーチェを見て抱いた感情と、リリアーナを見て抱いた感情とが全く異なるということがはっきりとその気持ちを認識させてくれた。

「私も、兄上に毒されましたかね………」

今度は誰にも聞こえないように呟きながら、女官たちに連行されていくクラリーチェの後姿をじっと見送るのだった。
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