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ラファエロ編
6.絶望
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ところがその翌日、件の令嬢クラリーチェ・ジャクウィントが父フィリッポの側妃として後宮入りをするという情報が飛び込んできて、ラファエロは愕然とした。
「兄上!どういうことですか?」
エドアルドの私室を訪れると、エドアルドはいつになく険しい表情を浮かべていた。
「………それは、私のほうが訊きたい」
どうやら昨晩エドアルドと出会った彼女は、トゥーリ伯爵夫人とその娘からの虐待に耐えかねて逃げ出してきたようだ。そしてそれが理由で今回の事態に発展したということらしいが、その知らせが齎された時にはすでに、ジャクウィント侯爵令嬢の後宮入りの決定がなされた後だった。
「宰相………サヴィーニ侯爵と、フェラーラ侯爵の仕業でしょうね。彼らが『ジャクウィント』の名を受け継ぐ令状を放っておくはずがありません。後宮はディアマンテの支配下ですからね。監視下に入れて、適当に処分するつもりなのでしょう」
「………くそっ!」
下品とも言われかねない悪態をつくと、苛立った様子のエドアルドは机を叩いた。
ようやく巡り合った運命の相手が、目の前で実の父に横取りされ、危険にさらされようとしているのだから、エドアルドの反応は当然だろう。
では、出会う前から既に婚約者がおり、その婚約者に邪険にされているリリアーナに対して抱くこの不思議な感情は、ただの同情なのだろうか、それともただの純粋な興味なのかとラファエロはふと考えた。
「とりあえず、後宮に潜入しているリディアに連絡を取ります。打てる手は全て打っておいたほうがいいでしょうね」
「………ああ、頼んだ」
苦し気に呻いたエドアルドを見ながら、ラファエロは苦々し気な笑顔を浮かべた。
こんな時にも、浮かんでくるのは笑顔なのだということに気が付き、内心で自分を密かに嘲った。
その翌日に、クラリーチェが輿入れの為に王宮へ来たと聞いて、ラファエロは更に蒼褪めた。
いくら何でも、早すぎる。通常であれば短くても一か月程の期間が輿入れの準備期間として与えられるはずなのだが、手続きの翌日に輿入れするだなど、聞いたことがなかった。
「あの老獪な狸達に出し抜かれたというのが、気に入りませんね。まさか、自分たちが目をつけていた令嬢を兄上が見初めただなどとは思いもよらないでしょうが………」
自分のことではないのに、こんなにも胸が苦しくなるのはきっと、兄に感情移入をしているせいなのだと自分に言い聞かせながら小さく溜息をつくと、ラファエロは軍服の襟を正し、重い足取りで謁見の間へと向かったのだった。
「兄上!どういうことですか?」
エドアルドの私室を訪れると、エドアルドはいつになく険しい表情を浮かべていた。
「………それは、私のほうが訊きたい」
どうやら昨晩エドアルドと出会った彼女は、トゥーリ伯爵夫人とその娘からの虐待に耐えかねて逃げ出してきたようだ。そしてそれが理由で今回の事態に発展したということらしいが、その知らせが齎された時にはすでに、ジャクウィント侯爵令嬢の後宮入りの決定がなされた後だった。
「宰相………サヴィーニ侯爵と、フェラーラ侯爵の仕業でしょうね。彼らが『ジャクウィント』の名を受け継ぐ令状を放っておくはずがありません。後宮はディアマンテの支配下ですからね。監視下に入れて、適当に処分するつもりなのでしょう」
「………くそっ!」
下品とも言われかねない悪態をつくと、苛立った様子のエドアルドは机を叩いた。
ようやく巡り合った運命の相手が、目の前で実の父に横取りされ、危険にさらされようとしているのだから、エドアルドの反応は当然だろう。
では、出会う前から既に婚約者がおり、その婚約者に邪険にされているリリアーナに対して抱くこの不思議な感情は、ただの同情なのだろうか、それともただの純粋な興味なのかとラファエロはふと考えた。
「とりあえず、後宮に潜入しているリディアに連絡を取ります。打てる手は全て打っておいたほうがいいでしょうね」
「………ああ、頼んだ」
苦し気に呻いたエドアルドを見ながら、ラファエロは苦々し気な笑顔を浮かべた。
こんな時にも、浮かんでくるのは笑顔なのだということに気が付き、内心で自分を密かに嘲った。
その翌日に、クラリーチェが輿入れの為に王宮へ来たと聞いて、ラファエロは更に蒼褪めた。
いくら何でも、早すぎる。通常であれば短くても一か月程の期間が輿入れの準備期間として与えられるはずなのだが、手続きの翌日に輿入れするだなど、聞いたことがなかった。
「あの老獪な狸達に出し抜かれたというのが、気に入りませんね。まさか、自分たちが目をつけていた令嬢を兄上が見初めただなどとは思いもよらないでしょうが………」
自分のことではないのに、こんなにも胸が苦しくなるのはきっと、兄に感情移入をしているせいなのだと自分に言い聞かせながら小さく溜息をつくと、ラファエロは軍服の襟を正し、重い足取りで謁見の間へと向かったのだった。
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