猫被り令嬢の恋愛結婚

玉響

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ラファエロ編

3.グロッシ侯爵

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それから暫くの間、エドアルドの政務を手伝いながら、リリアーナとジュストの関係を探る位しかラファエロに出来る事はなかった。

父が殆ど全ての仕事を放り出して淫蕩に耽っている為、本来国王がすべき仕事は全てエドアルドの元へ回ってきており、その他にも王太子の仕事も熟している。
そんな兄の負担を減らすべく、ラファエロも奮闘していた。

「他の王子方も王太子殿下とラファエロ殿下を見倣って頂きたいものですな」

深い溜息をつきながら、カンチェラーラ侯爵が呟くのを聞いて、グロッシ侯爵が嘲笑う。

「莫迦を言うな、レナート。よく考えてみろ……石ころはどんなに磨いても金にならないではないか」

それが瞬時に何を言わんとしているのか理解し、ラファエロは笑みを深くした。
フィリッポ王に九十人程の側妃との間に、は三十人の王子と四十二人の王女を設けたが、いずれも国政には全く口を挟まなかった。
妾腹な上に、自堕落な生活を送っている彼らのことを、揶揄しているのだ。

普通なら、王族に対する侮辱で投獄されてもおかしくはない状況だ。
だが、そんなことを気にする素振りすらも見せないグロッシ侯爵は、流石に肝が据わっているようだとラファエロは感心した。

やはり、リリアーナを見たときに感じたあのひたむきな強さは、父親譲りなのだろう。

「あのなぁ………オネスト、口を慎め」

呆れたように、カンチェラーラ侯爵が嗜めるが、グロッシ侯爵は全く聞いていなかった。

「性根の腐った人間は、自分の愚かさに気が付かない限りは進歩しない。尤も、その愚かさに気がつけるものならばとっくにまともになっているだろうさ」

ははは、と豪快に笑い声を上げるグロッシ侯爵を、ラファエロはじっと観察する。
紺碧色の瞳からは確かな強い意志が宿っており、それはやはりリリアーナとよく似ていた。

彼ほどの人間が何故、愛娘とジュストクズを婚約させたのだろうという疑問が首を擡げる。
名目上は、穏健派と急進派の衝突を防ぐためとされているが、本音はどうなのだろうか。

「………そのクズ、という中には当然ご息女の婚約者殿も含まれているんですよね?」

ラファエロは穏やかな表情で、ゆっくりと微笑んだ。

「もちろんですとも。あれだけの人物は中々見つからない逸材だと思います」

ふふふ、と笑ったグロッシ侯爵は、まるでラファエロの考えを全て解っているかのように見えた。

それでもラファエロは、グロッシ侯爵の表情の中に、彼が何をしようとしているのか、一瞬垣間見えた気がして、幾分安心したのだった。
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