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ラファエロ編
2.笑顔
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「なるほど、ブラマーニの嫡男の婚約者ですか………」
あの令嬢がグロッシ侯爵家の令嬢リリアーナであると知り、ラファエロはグロッシ侯爵家との不思議な縁のようなものを感じた。
………そう。ラファエロとエドアルドの教育係だったソニアは前グロッシ侯爵の娘、つまり現侯爵の姉であり、リリアーナから見たら伯母に当たる人物なのだ。
尤もソニアは訪問先のオズヴァルドの有力貴族であるドロエット公爵家の嫡男に見初められてそのままオズヴァルドに留まる事になったため、オズヴァルドを出てからは殆ど顔を合わせていないが、現在は公爵夫人としてその見事な手腕を発揮していると聞いていた。
「この間の舞踏会以降、やけに熱心に調べものをされているようですね。気になる事でもあったのですか?」
じっと書類を眺めるラファエロにお茶を差し出しながら、侍女のマリカがそっと声を掛けた。
「あぁ………大したことではないのですが、この間の舞踏会でデビュタントを迎えたばかりのご令嬢が面白い方でしたので、少し調べていただけですよ」
成人してから丸三年。
兄エドアルド同様に浮いた噂の全くない主の思いがけない言葉に、マリカは驚いたように目を瞑った。
だが、それは本当に一瞬で、マリカはすぐに冷静さを取り戻すと、全く関心のなさそうな顔をしして部屋を出ていく。
「あまり根を詰めるのはよくありませんよ」
「解っています」
まるで乳母のように注意をするマリカに微笑んで見せると、ラファエロは溜息をついた。
「グロッシ侯爵の事ですから、実際にジュストとの結婚が成立することはないでしょうが………」
マリカがいなくなったことを確認すると、ラファエロはまた書類に目を落とした。
自分が笑顔という武装をしているのには理由があるように、彼女にもきっと理由がある筈だ。
グロッシ侯爵は豪胆で破天荒だが、闇雲に行動を起こしたり、感情に流されるような人物ではない。
そんな彼の娘だからこそ、というのもあるかもしれないが、とにかくリリアーナのあの清々しい程の作り笑いはラファエロの心に深く刻まれていた。
「挨拶を交わしただけだというのに、私にこんなにも興味を抱かせるとは………大したご令嬢だ」
誰に話しかける訳でもなく、独りそう呟くと、ラファエロは立ち上がった。
窓辺へと歩み寄ると、よく磨かれた硝子にふわりと微笑みを浮かべた己の顔が写っているのが目に入る。
彼女は今もああして作り笑いを浮かべているのだろうか。
ラファエロはそんな事を考えながら静かに思いを馳せるのだった。
あの令嬢がグロッシ侯爵家の令嬢リリアーナであると知り、ラファエロはグロッシ侯爵家との不思議な縁のようなものを感じた。
………そう。ラファエロとエドアルドの教育係だったソニアは前グロッシ侯爵の娘、つまり現侯爵の姉であり、リリアーナから見たら伯母に当たる人物なのだ。
尤もソニアは訪問先のオズヴァルドの有力貴族であるドロエット公爵家の嫡男に見初められてそのままオズヴァルドに留まる事になったため、オズヴァルドを出てからは殆ど顔を合わせていないが、現在は公爵夫人としてその見事な手腕を発揮していると聞いていた。
「この間の舞踏会以降、やけに熱心に調べものをされているようですね。気になる事でもあったのですか?」
じっと書類を眺めるラファエロにお茶を差し出しながら、侍女のマリカがそっと声を掛けた。
「あぁ………大したことではないのですが、この間の舞踏会でデビュタントを迎えたばかりのご令嬢が面白い方でしたので、少し調べていただけですよ」
成人してから丸三年。
兄エドアルド同様に浮いた噂の全くない主の思いがけない言葉に、マリカは驚いたように目を瞑った。
だが、それは本当に一瞬で、マリカはすぐに冷静さを取り戻すと、全く関心のなさそうな顔をしして部屋を出ていく。
「あまり根を詰めるのはよくありませんよ」
「解っています」
まるで乳母のように注意をするマリカに微笑んで見せると、ラファエロは溜息をついた。
「グロッシ侯爵の事ですから、実際にジュストとの結婚が成立することはないでしょうが………」
マリカがいなくなったことを確認すると、ラファエロはまた書類に目を落とした。
自分が笑顔という武装をしているのには理由があるように、彼女にもきっと理由がある筈だ。
グロッシ侯爵は豪胆で破天荒だが、闇雲に行動を起こしたり、感情に流されるような人物ではない。
そんな彼の娘だからこそ、というのもあるかもしれないが、とにかくリリアーナのあの清々しい程の作り笑いはラファエロの心に深く刻まれていた。
「挨拶を交わしただけだというのに、私にこんなにも興味を抱かせるとは………大したご令嬢だ」
誰に話しかける訳でもなく、独りそう呟くと、ラファエロは立ち上がった。
窓辺へと歩み寄ると、よく磨かれた硝子にふわりと微笑みを浮かべた己の顔が写っているのが目に入る。
彼女は今もああして作り笑いを浮かべているのだろうか。
ラファエロはそんな事を考えながら静かに思いを馳せるのだった。
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