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リリアーナ編
73.思惑
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「この………狂人………!ほんっとうに、どこまでも腐ってますわね!クラリーチェ様になんて事を………っ!」
リリアーナはこみ上げる怒りを全力で言葉に込め、非難の視線を向けながらジュストを罵るが、当のジュストは乾いた不気味な嗤い声を上げ続けるだけだ。
口や足の傷から血が飛び散るのも構わずに嗤い続けるジュストは異様で、何かに取り憑かれているかのようにすら見える。
「………余程、死にたいらしいな」
エドアルドの双眸にがジュストを射止めた。
「はははっ!私を殺すのか………?それもいいだろう。生きているのは退屈で仕方がない。………私を処刑した暁には、お前の治世が血塗られたものになるように、呪われたものになるように、祈ってやるさ………!」
常人には凡そ理解し難い思考回路に、エドアルドは一瞬だけ眉を顰めたように見えた。
リリアーナはそんなエドアルドの様子を見て、ふと疑問を抱いた。
もし本当に、クラリーチェがそんな目に遭っているのだとしたら、エドアルドはこんなにも落ち着いているだろうか。
エドアルドにとってクラリーチェは何よりも大切な存在であり、彼の唯一の弱点とも言える。
普通に考えればジュストを殴りつけるか斬りつけるかしてから一目散にクラリーチェの許に飛んでいくだろう。
エドアルドがそうしないのには、理由がある筈だと考えを巡らせて、そしてちらりとラファエロの方に視線を走らせる。
すると、リリアーナの視線に気がついたラファエロは意味深な微笑みを浮かべ、人差し指をすっと唇に当てて見せた。
その仕草を見て、リリアーナは全てを理解する。
ラファエロ達は、彼等の企みを初めから知っていたのだ。
そして何らかの対策を取っていたからこそ、余裕があるという事ではないだろうか。
クラリーチェに実害がないのであれば、問題はない。
怒りで乱れた呼吸を整えてから、リリアーナはラファエロに向かって徐に頷くと、微笑みを浮かべた。
「………そなたを殺すのは簡単だ。だが、それがそなたの望みだというのであれば、私はそれを叶えてやるほど優しくはない」
思いもよらないエドアルドの言葉に、ジュストは天井を仰いだまま嗤いを止めた。
そして、莫迦みたいにぽかんと血だらけの口を開けている。
「罰は、本人にとって何よりも辛いものを与えなければ意味がないだろう………?…………そなたらを裁くと決めた時、各々にとって一番大切なものを奪ってやろうと決めたのだ。カストは、名誉と身分と財産、アマンダはジュスト、ディアマンテは己の容姿。それを全て奪い去り、絶望の中で死んでいけばいいと思っていた。そなたが大切なものは、自分自身だと思っていた。だが、死を望むということは………そなたは何にも執着することが出来ないようだな。………コルシーニ伯爵の言うとおり、『出来損ない』だ」
低く、だが抑揚のない声でエドアルドは言葉を紡いでいく。その口調は穏やかなものだったが、逆にそれが恐ろしくも感じられた。
「…………ならば、そなたには………一番の苦痛を………『頼むから死なせてくれ』とそなたが懇願するような、苦しみをそなたにはくれてやろう」
ジュストは呆然とした表情で、エドアルドを見る。
そんなジュストに向かって、エドアルドは冷たい表情は保ちつつも、僅かに嗤った。
「あぁ、それからクラリーチェの件だが………はじめから、そなたらの計画は知っていた。当然、そなたがクラリーチェに良からぬモノを使おうとしていたこともな。………催淫剤入りの香とやらは、あの場では使われていない。………残念だったな」
エドアルドが勝ち誇ったように、はっきり嗤うと、対象的にジュストの顔は怒りに歪む様を見ながら、リリアーナは己の予想が的中した事に安堵するのだった。
リリアーナはこみ上げる怒りを全力で言葉に込め、非難の視線を向けながらジュストを罵るが、当のジュストは乾いた不気味な嗤い声を上げ続けるだけだ。
口や足の傷から血が飛び散るのも構わずに嗤い続けるジュストは異様で、何かに取り憑かれているかのようにすら見える。
「………余程、死にたいらしいな」
エドアルドの双眸にがジュストを射止めた。
「はははっ!私を殺すのか………?それもいいだろう。生きているのは退屈で仕方がない。………私を処刑した暁には、お前の治世が血塗られたものになるように、呪われたものになるように、祈ってやるさ………!」
常人には凡そ理解し難い思考回路に、エドアルドは一瞬だけ眉を顰めたように見えた。
リリアーナはそんなエドアルドの様子を見て、ふと疑問を抱いた。
もし本当に、クラリーチェがそんな目に遭っているのだとしたら、エドアルドはこんなにも落ち着いているだろうか。
エドアルドにとってクラリーチェは何よりも大切な存在であり、彼の唯一の弱点とも言える。
普通に考えればジュストを殴りつけるか斬りつけるかしてから一目散にクラリーチェの許に飛んでいくだろう。
エドアルドがそうしないのには、理由がある筈だと考えを巡らせて、そしてちらりとラファエロの方に視線を走らせる。
すると、リリアーナの視線に気がついたラファエロは意味深な微笑みを浮かべ、人差し指をすっと唇に当てて見せた。
その仕草を見て、リリアーナは全てを理解する。
ラファエロ達は、彼等の企みを初めから知っていたのだ。
そして何らかの対策を取っていたからこそ、余裕があるという事ではないだろうか。
クラリーチェに実害がないのであれば、問題はない。
怒りで乱れた呼吸を整えてから、リリアーナはラファエロに向かって徐に頷くと、微笑みを浮かべた。
「………そなたを殺すのは簡単だ。だが、それがそなたの望みだというのであれば、私はそれを叶えてやるほど優しくはない」
思いもよらないエドアルドの言葉に、ジュストは天井を仰いだまま嗤いを止めた。
そして、莫迦みたいにぽかんと血だらけの口を開けている。
「罰は、本人にとって何よりも辛いものを与えなければ意味がないだろう………?…………そなたらを裁くと決めた時、各々にとって一番大切なものを奪ってやろうと決めたのだ。カストは、名誉と身分と財産、アマンダはジュスト、ディアマンテは己の容姿。それを全て奪い去り、絶望の中で死んでいけばいいと思っていた。そなたが大切なものは、自分自身だと思っていた。だが、死を望むということは………そなたは何にも執着することが出来ないようだな。………コルシーニ伯爵の言うとおり、『出来損ない』だ」
低く、だが抑揚のない声でエドアルドは言葉を紡いでいく。その口調は穏やかなものだったが、逆にそれが恐ろしくも感じられた。
「…………ならば、そなたには………一番の苦痛を………『頼むから死なせてくれ』とそなたが懇願するような、苦しみをそなたにはくれてやろう」
ジュストは呆然とした表情で、エドアルドを見る。
そんなジュストに向かって、エドアルドは冷たい表情は保ちつつも、僅かに嗤った。
「あぁ、それからクラリーチェの件だが………はじめから、そなたらの計画は知っていた。当然、そなたがクラリーチェに良からぬモノを使おうとしていたこともな。………催淫剤入りの香とやらは、あの場では使われていない。………残念だったな」
エドアルドが勝ち誇ったように、はっきり嗤うと、対象的にジュストの顔は怒りに歪む様を見ながら、リリアーナは己の予想が的中した事に安堵するのだった。
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