67 / 473
リリアーナ編
67.断罪(8)
しおりを挟む
それから暫く、ディアマンテはクラリーチェの母についても嫉妬心を顕わにしながら内心を吐露した。
そして、クラリーチェの両親が殺された理由が、リオネッラ妃の死の真相を知ったせいだということもはっきりと宣言した。
自分自身を愛してやまないディアマンテは、自分より優れた存在であるリオネッラ妃やクラリーチェの母という存在を目の当たりにして、凄まじい敗北感を抱いたのだろう。
だが、それを理由に彼女たちの命を奪っていいという理屈に辿り着くこと自体が異常だとリリアーナは思った。
ディアマンテが全てを白状し終わったのを待っていたかのように、エドアルドがカストとジュストの血と唾液に濡れた剣先を突き付けるのを、どこか冷めたようにリリアーナは見守る。
「ひっ………!お願い………っ………や、止めて………顔は、顔だけは………っ、傷つけないで………!」
先程エドアルドにより手の骨を踏み砕かれたとは思えない饒舌ぶりに些か感心しながら、リリアーナはラファエロが手当てをしてくれた右手にそっと左手を添えた。
そんなリリアーナの前で、ディアマンテは己の容姿を先王フィリッポが褒めてくれたことをどこか懐かしそうに口にする。
「………一度訊いてみたいと思っていたのですが………、あなたは父を愛していたのですか?」
唐突に、ラファエロがディアマンテに問い掛けた。
ディアマンテは、先王フィリッポの寵妃であることは周知の事実なのに、なぜそのようなことを訊ねるのかとリリアーナですら不思議に思う。
「当り前じゃない!私はずっと、フィリッポ様をお慕いしていたわ!」
躊躇いなど一切見せずにディアマンテは即答する。
「父を愛していながら、多くの側妃………もとい愛妾と床をともにするのを管理していたとは、何ともいじらしいことですね」
そんなディアマンテに、ラファエロが意味ありげな微笑みを浮かべて見せた。
正妃は、後宮の一切を取り仕切る権限を持っている。つまり、国王がいつ、どの妃の許を訪れたのかを全て把握し、管理しているのだ。
「当り前よ。フィリッポ様をお慕いしていたからこそ、辛い役目も務め上げられたのだわ!」
辛い役目とは、保身のために他者を切り捨てることも含まれるのだろうかということを考えながら、リリアーナは状況を見極めていた。
そんなリリアーナの様子をちらりと伺いながら微笑むラファエロに代わり、今度はエドアルドが皮肉げに口元を歪めた。
「献身的に尽くしていたそなたに、父は労いの言葉を、掛けたか?………そなたに愛を囁いたか………?」
「フィリッポ様はああいう御方ですもの。言葉でいただかなくても、たっぷりと愛して頂く事で私にはきちんと伝わっているわ………!」
今度はエドアルドの笑みが深くなるのを見て、リリアーナは何となくラファエロの質問の意図を理解した。
「そうか。………だが、母が存命中、父は母に愛していると何度も伝えていた。そして母亡き後はその墓前で同じことを呟いていた。ディアマンテよ。………そなたは一度でも言われたことがあったか?」
手負いの獣に、止めを刺すためにじわじわと追いつめるような光景だと、リリアーナは思った。
その言葉を向けられたディアマンテは、ブラマーニ家の象徴である紫暗色の瞳を限界まで見開き、真っ赤な唇を、陸に打ち上げられた魚のようにぱくぱくと動かしているだけで、言葉を紡ぐことすらできない様子だった。
だが皮肉なことに、その表情からは言葉にする以上のものが伝わってくる。
それは何とも哀れなのに、リリアーナの心には不思議と同情は湧いてこなかった。
そして、クラリーチェの両親が殺された理由が、リオネッラ妃の死の真相を知ったせいだということもはっきりと宣言した。
自分自身を愛してやまないディアマンテは、自分より優れた存在であるリオネッラ妃やクラリーチェの母という存在を目の当たりにして、凄まじい敗北感を抱いたのだろう。
だが、それを理由に彼女たちの命を奪っていいという理屈に辿り着くこと自体が異常だとリリアーナは思った。
ディアマンテが全てを白状し終わったのを待っていたかのように、エドアルドがカストとジュストの血と唾液に濡れた剣先を突き付けるのを、どこか冷めたようにリリアーナは見守る。
「ひっ………!お願い………っ………や、止めて………顔は、顔だけは………っ、傷つけないで………!」
先程エドアルドにより手の骨を踏み砕かれたとは思えない饒舌ぶりに些か感心しながら、リリアーナはラファエロが手当てをしてくれた右手にそっと左手を添えた。
そんなリリアーナの前で、ディアマンテは己の容姿を先王フィリッポが褒めてくれたことをどこか懐かしそうに口にする。
「………一度訊いてみたいと思っていたのですが………、あなたは父を愛していたのですか?」
唐突に、ラファエロがディアマンテに問い掛けた。
ディアマンテは、先王フィリッポの寵妃であることは周知の事実なのに、なぜそのようなことを訊ねるのかとリリアーナですら不思議に思う。
「当り前じゃない!私はずっと、フィリッポ様をお慕いしていたわ!」
躊躇いなど一切見せずにディアマンテは即答する。
「父を愛していながら、多くの側妃………もとい愛妾と床をともにするのを管理していたとは、何ともいじらしいことですね」
そんなディアマンテに、ラファエロが意味ありげな微笑みを浮かべて見せた。
正妃は、後宮の一切を取り仕切る権限を持っている。つまり、国王がいつ、どの妃の許を訪れたのかを全て把握し、管理しているのだ。
「当り前よ。フィリッポ様をお慕いしていたからこそ、辛い役目も務め上げられたのだわ!」
辛い役目とは、保身のために他者を切り捨てることも含まれるのだろうかということを考えながら、リリアーナは状況を見極めていた。
そんなリリアーナの様子をちらりと伺いながら微笑むラファエロに代わり、今度はエドアルドが皮肉げに口元を歪めた。
「献身的に尽くしていたそなたに、父は労いの言葉を、掛けたか?………そなたに愛を囁いたか………?」
「フィリッポ様はああいう御方ですもの。言葉でいただかなくても、たっぷりと愛して頂く事で私にはきちんと伝わっているわ………!」
今度はエドアルドの笑みが深くなるのを見て、リリアーナは何となくラファエロの質問の意図を理解した。
「そうか。………だが、母が存命中、父は母に愛していると何度も伝えていた。そして母亡き後はその墓前で同じことを呟いていた。ディアマンテよ。………そなたは一度でも言われたことがあったか?」
手負いの獣に、止めを刺すためにじわじわと追いつめるような光景だと、リリアーナは思った。
その言葉を向けられたディアマンテは、ブラマーニ家の象徴である紫暗色の瞳を限界まで見開き、真っ赤な唇を、陸に打ち上げられた魚のようにぱくぱくと動かしているだけで、言葉を紡ぐことすらできない様子だった。
だが皮肉なことに、その表情からは言葉にする以上のものが伝わってくる。
それは何とも哀れなのに、リリアーナの心には不思議と同情は湧いてこなかった。
応援ありがとうございます!
3
お気に入りに追加
786
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる