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リリアーナ編
62.断罪(3)※残酷描写あり
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漸く顎の関節を戻して貰ったブラマーニ公爵が、ジュストの命乞いをするが、エドアルドの表情は凄まじい怒気を孕んだままだった。
ジュストによるクラリーチェへの発言がエドアルドをどれほど怒らせたのかがよく分かる。
「………他人の命も人生も、ブラマーニ公爵家の為に尽くしてきたフェラーラ侯爵でさえも、そなたにとっては取るに足りないものらしいが、そのような狂人の息子であっても、慈しむ気持ちは持ち合わせているのだな。………そなたの目の前で、大切らしい息子の口をこのまま貫いて、耳と鼻を削ぎ落としてから塩漬けにしてやってもいいが………それくらいでは処罰は甘いだろう。………あぁ、そうだな。先にそこの往生際が悪い中年女共にも自白剤を使ってやれ」
エドアルドは残酷な言葉を表情一つ変えずに紡ぎ出すと、手にした剣をジュストの口に更に押し込んだ。同時にジュストの口から無様な悲鳴が漏れた。
リリアーナが食らわせた渾身の一撃で腫れ上がった腔内が傷付き、ジュストの口から鮮血が滴り落ちる。
それを嘲るように口元を歪めてから、剣を引き抜くと、今度はジュストの足の甲へと突き立てた。
凄まじい絶叫が、室内に響き渡る。
それを聞いて、リリアーナは胸がすく思いだった。
これだけ残酷な場面を見せられれば、普通の令嬢なら倒れてしまうだろう。
確かに見ていて気分のいいものでは無いはずだが、それ以上にあれだけ傍若無人に振る舞ってきたジュストが、エドアルドにされるがままになっているという事実がリリアーナをそんな気分にさせるのだろう。
しかも自分が渾身の力で一矢報いてやった一撃が思いもよらぬ形でジュストに更なる痛みと恐怖を与えることになったというのも大きいのかもしれないと考える。
ふと視線を移すと、コルシーニ伯爵夫人がエドアルドの命令に従い、手慣れた様子で自白剤を流し込んでいくのが目に入った。
彼女達を待ち受ける運命も既に見えているようなものだが、それでもここまでついてきたからには最期まで見届けようとリリアーナは己を奮い立たせる。
「………さて、ブラマーニ公爵に問おう。そなたらの行いについて、申し開きすることはあるか?」
エドアルドの問いに、ブラマーニ公爵がおどおどとしながら口を開いていく。
クラリーチェの実家であるジャクウィント侯爵家をはじめとした政敵を排除するために様々な毒を作っていたこと。
それを平民や使用人で試していたこと。
まるで何かに操られたかのように虚ろな目でブラマーニ公爵は自らの罪を告白した。
「あなた方は、王位を手中に収める為に動いていたということで、間違いないのですよね?」
少し前に進み出たラファエロが小首を傾げながら尋ねた。
それによってリリアーナからは悶え苦しむジュストの姿が見えなくなる。
もしかすると残虐な光景が目に入らないように自らの体を盾にしてくれたのだろうかと考え、リリアーナは嬉しさと恥ずかしさでほんの少し俯いた。
「…………結果的には、そうなった。だが、最初から王位を狙っていた訳ではない。廃太子となった初代はともかくとして、我が父は、王家よりもいい暮らしをして、見返してやろうと考えていたらしい。幼い頃から、どんな手を使ってもいいから、沢山の財を集める努力をしろと教えられて育った。全ては金だと。始めのうちは、真っ当な手段を取っていた。だが、それではいくら努力をしても豊かにはならない。………段々と、私は不正を働くようになった。そんな時、父上が私の補佐役にと連れてきたのがロベルト・フェラーラだった。………一番手っ取り早く稼ぐには、交易での不正を行うことだ。………だが、ジャクウィントがそれを見抜いた。たかが侯爵家のくせに、名門貴族扱いをされ、名宰相を多く排出する優秀な血筋と持て囃されているのが気に食わなかった。だから腹いせに………たまたま、イズヴェルカから取り寄せた薬を試しに飲ませたのだ………まさかそれが銀の夢だとは、その時は思いもよらなかった………」
はじめのうちはすらすらと自白していた公爵だったが少しずつ、の呂律が回らなくなってきていた。
自白剤のせいなのだろうか。
リリアーナは彼等の所業がいかに卑劣だったのかを考えながらぼんやりとそんなことを思っていると、ラファエロの隣から鋭い命令が飛んだ。
「おい、少しこやつの目を覚ましてやれるように、足の裏でも火で炙ってやれ」
するとコルシーニ伯爵が、俊敏な動きでブラマーニ公爵の椅子を蹴り倒すと、宙吊り状態になった公爵の足に火のついた蝋燭を当てる。
「ああああっ!!」
熱と痛みにブラマーニ公爵が叫び声を上げる。
あの気取ったカスト・ブラマーニのものだとは到底思えない悲鳴に、リリアーナは僅かに目を細めた。
「何だ、威勢はいいな。………それだけの元気があれば、罪の対価である罰を受けることは十分可能だな」
エドアルドが満面の笑みを浮かべると、それに従うかのようにラファエロが笑う。
リリアーナはそんなラファエロを見て思わず微笑んだのだった。
ジュストによるクラリーチェへの発言がエドアルドをどれほど怒らせたのかがよく分かる。
「………他人の命も人生も、ブラマーニ公爵家の為に尽くしてきたフェラーラ侯爵でさえも、そなたにとっては取るに足りないものらしいが、そのような狂人の息子であっても、慈しむ気持ちは持ち合わせているのだな。………そなたの目の前で、大切らしい息子の口をこのまま貫いて、耳と鼻を削ぎ落としてから塩漬けにしてやってもいいが………それくらいでは処罰は甘いだろう。………あぁ、そうだな。先にそこの往生際が悪い中年女共にも自白剤を使ってやれ」
エドアルドは残酷な言葉を表情一つ変えずに紡ぎ出すと、手にした剣をジュストの口に更に押し込んだ。同時にジュストの口から無様な悲鳴が漏れた。
リリアーナが食らわせた渾身の一撃で腫れ上がった腔内が傷付き、ジュストの口から鮮血が滴り落ちる。
それを嘲るように口元を歪めてから、剣を引き抜くと、今度はジュストの足の甲へと突き立てた。
凄まじい絶叫が、室内に響き渡る。
それを聞いて、リリアーナは胸がすく思いだった。
これだけ残酷な場面を見せられれば、普通の令嬢なら倒れてしまうだろう。
確かに見ていて気分のいいものでは無いはずだが、それ以上にあれだけ傍若無人に振る舞ってきたジュストが、エドアルドにされるがままになっているという事実がリリアーナをそんな気分にさせるのだろう。
しかも自分が渾身の力で一矢報いてやった一撃が思いもよらぬ形でジュストに更なる痛みと恐怖を与えることになったというのも大きいのかもしれないと考える。
ふと視線を移すと、コルシーニ伯爵夫人がエドアルドの命令に従い、手慣れた様子で自白剤を流し込んでいくのが目に入った。
彼女達を待ち受ける運命も既に見えているようなものだが、それでもここまでついてきたからには最期まで見届けようとリリアーナは己を奮い立たせる。
「………さて、ブラマーニ公爵に問おう。そなたらの行いについて、申し開きすることはあるか?」
エドアルドの問いに、ブラマーニ公爵がおどおどとしながら口を開いていく。
クラリーチェの実家であるジャクウィント侯爵家をはじめとした政敵を排除するために様々な毒を作っていたこと。
それを平民や使用人で試していたこと。
まるで何かに操られたかのように虚ろな目でブラマーニ公爵は自らの罪を告白した。
「あなた方は、王位を手中に収める為に動いていたということで、間違いないのですよね?」
少し前に進み出たラファエロが小首を傾げながら尋ねた。
それによってリリアーナからは悶え苦しむジュストの姿が見えなくなる。
もしかすると残虐な光景が目に入らないように自らの体を盾にしてくれたのだろうかと考え、リリアーナは嬉しさと恥ずかしさでほんの少し俯いた。
「…………結果的には、そうなった。だが、最初から王位を狙っていた訳ではない。廃太子となった初代はともかくとして、我が父は、王家よりもいい暮らしをして、見返してやろうと考えていたらしい。幼い頃から、どんな手を使ってもいいから、沢山の財を集める努力をしろと教えられて育った。全ては金だと。始めのうちは、真っ当な手段を取っていた。だが、それではいくら努力をしても豊かにはならない。………段々と、私は不正を働くようになった。そんな時、父上が私の補佐役にと連れてきたのがロベルト・フェラーラだった。………一番手っ取り早く稼ぐには、交易での不正を行うことだ。………だが、ジャクウィントがそれを見抜いた。たかが侯爵家のくせに、名門貴族扱いをされ、名宰相を多く排出する優秀な血筋と持て囃されているのが気に食わなかった。だから腹いせに………たまたま、イズヴェルカから取り寄せた薬を試しに飲ませたのだ………まさかそれが銀の夢だとは、その時は思いもよらなかった………」
はじめのうちはすらすらと自白していた公爵だったが少しずつ、の呂律が回らなくなってきていた。
自白剤のせいなのだろうか。
リリアーナは彼等の所業がいかに卑劣だったのかを考えながらぼんやりとそんなことを思っていると、ラファエロの隣から鋭い命令が飛んだ。
「おい、少しこやつの目を覚ましてやれるように、足の裏でも火で炙ってやれ」
するとコルシーニ伯爵が、俊敏な動きでブラマーニ公爵の椅子を蹴り倒すと、宙吊り状態になった公爵の足に火のついた蝋燭を当てる。
「ああああっ!!」
熱と痛みにブラマーニ公爵が叫び声を上げる。
あの気取ったカスト・ブラマーニのものだとは到底思えない悲鳴に、リリアーナは僅かに目を細めた。
「何だ、威勢はいいな。………それだけの元気があれば、罪の対価である罰を受けることは十分可能だな」
エドアルドが満面の笑みを浮かべると、それに従うかのようにラファエロが笑う。
リリアーナはそんなラファエロを見て思わず微笑んだのだった。
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