猫被り令嬢の恋愛結婚

玉響

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リリアーナ編

44.無能な貴族

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怯え切った船頭たちの口から、開港祭前夜に船に細工を施し、壊れた船を沖に沈めるようにフェラーラ侯爵から指示された事が明かされたが、フェラーラ侯爵は当然のようにそれを否定した。………彼等が平民であることを理由に、彼等の言葉には耳を傾ける価値すらもないと言って。
そして、夫を援護しようと口を出してきたフェラーラ侯爵夫人の口から彼等を「下賤の民」と蔑む言葉が飛び出した瞬間、エドアルドの顔から一切の表情は消え、冷然とした空気が漂ったのを見て、フェラーラ侯爵の表情が歪んだ。
彼の爬虫類の如き赤い瞳は、怒りと恐れに揺らいだようにリリアーナの目には映ったが、それはほんの一瞬のことだった。

「………我が国を支える民を、そなたは下賤の者と蔑むのだな?」
「え………?」

エドアルドの凍てつくような声が、フェラーラ侯爵夫人へと襲いかかるのを、リリアーナは冷めた目で見つめていた。

「よく覚えておくがいい。国とは、土地と、民と、統治する者で成り立っている。そのどれが欠けても、国は成り立たぬ。………その礎の一つである民を、そなたは自分本位の考えで、侮辱した。………そなたの方がよっぽど卑しい心を持った、下賤の者であろう。………貴族の身分など、そなたには分不相応だ」

口元にだけ笑みを浮かべてフェラーラ侯爵夫人を一瞥する様子は、魔王さながらの恐ろしさすらも感じさせた。

「本当に愚か者はどこまでも愚かです。兄上の神経を逆撫でするような事をわざわざ口にしなくてもいいのに、と思いませんか?そんなに死にたいのでしょうか………」

恐れ慄くフェラーラ侯爵夫人を眺めるラファエロの表情はいつもどおり穏やかなのに、エメラルド色の瞳はエドアルド同様に澆薄で、ラファエロが彼女を心から軽蔑していることを伺わせた。
心なしか彼の纏う空気も、微かな冷気を含んでいるように感じる。

「無能な貴族程、己の果たすべき役割を忘れ、深い欲を満たすために奔走するものです。………全く、滑稽ですよね。貴族というだけで、何をしても許されると思っているのでしょうか?」
「あの程度の頭の出来なら、そう考えていてもおかしくないかもしれませんわよ?」
「ふふ、中々言いますね。………以前から貴女とは話が合うような気がしていたんですよ。どうやら私の見込みは間違っていなかったようですね」
「あら、奇遇ですわね。私もそう思っていましたの」

ラファエロの言葉に、リリアーナは周囲に気が付かれないように口元を緩めた。
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