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リリアーナ編
35.演説
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大広間に到着すると、既に多くの貴族達が集まっていた。
「ジャクウィント女侯爵をお連れいたしました」
大袈裟なほどに声を張り上げ、ジュストがクラリーチェの到着を宣言する。
すると一斉に、クラリーチェに貴族達の視線が集中した。
哀れみと同情、そして何か別の思惑が入り混じった好奇に近い視線を不躾に浴びせられるクラリーチェは、酷く不安そうに見えた。
「………ご無事な様子で、安堵いたしました」
妙に耳に残るような耳障りな声が響いて、リリアーナははっと広間の正面………玉座のほうを向いた。
そこには、本来あるべき人物の姿はなく、代わりにジュストの父ブラマーニ公爵の姿があった。
ジュストは父の姿を認めると、その口元に酷薄な笑みを浮かべながらクラリーチェを引き摺り、父のほうへと歩いていく。
「クラリーチェ様……っ」
されるがままのクラリーチェを引き留めることは出来ないと分かってはいても、何とか彼女を助けたくて、縋るように名を呼ぶが、クラリーチェは諦めた様に僅かに頭を振るだけだった。
少しでもクラリーチェの側にいれば、自分の中で渦巻く様々な気持ちが落ち着くような気がして、リリアーナは広間に犇めき合う貴族達を掻き分けながらクラリーチェを追った。
「………国を挙げて祝う開港祭の最中に、信じられない事故が起きてしまった」
クラリーチェとジュストが前に進み出てくるのを確認して、公爵は徐に演説を始めた。
「皆様にお集まり頂いたのは、他でもない。我が国は今、存続の危機に立たされております。何しろ国王陛下とそれに次ぐ王弟殿下が共に事故死され、大勢いたはずの王子方はすでに王位継承権を失っておられる。つまり現在………王位は空席だ。………間違いありませんかな、宰相殿?」
「………はい」
突然話を振られた宰相・カンチェラーラ侯爵が苦虫を噛みつぶしたような表情を浮かべ、消え入りそうなほど小さな声で返事をする。
カンチェラーラ侯爵も、この状況に困惑と、不安、そして絶望を感じているに違いなかった。
おそらく内心、ブラマーニ公爵に何か言い返してやりたい気持ちなのだろう。
カンチェラーラ侯爵の心中を慮り、リリアーナは溜息をつきたくなった。
「………王位を継承する者が途絶えるなど、前代未聞の出来事です。しかし、我々はこの難局を、乗り越えていかなければならない………この国を守るために」
ブラマーニ公爵はその顔に、悲壮な表情を浮かべる。
まるで心底この国の行く末を案じているかのように振舞っているようだが、芝居がかったその言動が酷く滑稽に見えて、リリアーナは冷たい視線を向けた。
「ジャクウィント女侯爵をお連れいたしました」
大袈裟なほどに声を張り上げ、ジュストがクラリーチェの到着を宣言する。
すると一斉に、クラリーチェに貴族達の視線が集中した。
哀れみと同情、そして何か別の思惑が入り混じった好奇に近い視線を不躾に浴びせられるクラリーチェは、酷く不安そうに見えた。
「………ご無事な様子で、安堵いたしました」
妙に耳に残るような耳障りな声が響いて、リリアーナははっと広間の正面………玉座のほうを向いた。
そこには、本来あるべき人物の姿はなく、代わりにジュストの父ブラマーニ公爵の姿があった。
ジュストは父の姿を認めると、その口元に酷薄な笑みを浮かべながらクラリーチェを引き摺り、父のほうへと歩いていく。
「クラリーチェ様……っ」
されるがままのクラリーチェを引き留めることは出来ないと分かってはいても、何とか彼女を助けたくて、縋るように名を呼ぶが、クラリーチェは諦めた様に僅かに頭を振るだけだった。
少しでもクラリーチェの側にいれば、自分の中で渦巻く様々な気持ちが落ち着くような気がして、リリアーナは広間に犇めき合う貴族達を掻き分けながらクラリーチェを追った。
「………国を挙げて祝う開港祭の最中に、信じられない事故が起きてしまった」
クラリーチェとジュストが前に進み出てくるのを確認して、公爵は徐に演説を始めた。
「皆様にお集まり頂いたのは、他でもない。我が国は今、存続の危機に立たされております。何しろ国王陛下とそれに次ぐ王弟殿下が共に事故死され、大勢いたはずの王子方はすでに王位継承権を失っておられる。つまり現在………王位は空席だ。………間違いありませんかな、宰相殿?」
「………はい」
突然話を振られた宰相・カンチェラーラ侯爵が苦虫を噛みつぶしたような表情を浮かべ、消え入りそうなほど小さな声で返事をする。
カンチェラーラ侯爵も、この状況に困惑と、不安、そして絶望を感じているに違いなかった。
おそらく内心、ブラマーニ公爵に何か言い返してやりたい気持ちなのだろう。
カンチェラーラ侯爵の心中を慮り、リリアーナは溜息をつきたくなった。
「………王位を継承する者が途絶えるなど、前代未聞の出来事です。しかし、我々はこの難局を、乗り越えていかなければならない………この国を守るために」
ブラマーニ公爵はその顔に、悲壮な表情を浮かべる。
まるで心底この国の行く末を案じているかのように振舞っているようだが、芝居がかったその言動が酷く滑稽に見えて、リリアーナは冷たい視線を向けた。
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