【本編完結】農民と浄化の神子を並べてはいけない

ナナメ

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第一章 異世界に来ちゃった

特技:誘拐される事

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 事の起こりはつい数時間前……。俺は魔力訓練を終えて意気揚々と騎士団の大浴場に向かっていた。だって大浴場って、源泉かけ流し温泉なんだよ!温泉好きとしては是非毎日でも入りたいじゃん!
 ローゼンやティエは

「神子が大浴場に行くなんて……ありえません!殿下の言う通り王宮の浴室をお使いください!」

 とか

「そんなオオカミの群れに子羊を放り投げるような真似を……」

 なんてかなり反対してたけど、ちょっと大袈裟で過保護過ぎると思う。周りに美形がいるのにわざわざ俺みたいな髪と目の色が珍しいだけの平凡な男に誰が変な気を起こすっていうんだ。
 ……いや、まぁ……この世界での俺は地球でいうところの“女”にあたるらしいから……心配はごもっともかも知れないけど……、今のところ言い寄って来るヤツなんていないし平和なもんだ。
 それに王宮の浴室、最初に言われて行ってみたけど……石造りのだだっ広い湯船に薔薇は浮いてるわ、王宮のいわゆるメイドさん的な役割の侍従達に寄ってたかって丸洗いされるわ、いい匂いのする油をこれでもかと塗りたくられるわ……庶民にはとてもじゃないけど毎日行きたくなるような場所じゃなくてですね。畏れ多いと言いますか。落ち着かないと言いますか。だってあの人達……いいって言ってるのに尻の割れ目とか玉の裏とかまで丁寧に洗うんですよ……。羞恥でまた吐くかと思ったよ。
 そんなわけで騎士団の大浴場が落ち着くからこっちがいいんです。パーピュアも他の騎士達が来る前に風呂を済ませろと早めに訓練を切り上げてくれるし、本当にありがたい。
 …ちなみにパーピュアは王子の婚約者という立場上あの王宮の浴室を使っているそう。だからあんなに爪の先までぴっかぴかなんだろうなぁ。王子の婚約者って大変なんだな。

「あー……っ、今日もいい湯……」

 ガッシガシと体やら頭やら洗って浸かった温泉は熱過ぎずぬる過ぎず丁度いい。しかもこの時間ってまだ誰もいなくてほとんど貸切状態なんだ。
 始めの頃は他のみんなと同じ時間に来てたんだけど……騎士のみんなは風呂より飯!って感じなのか、うわーーー!と洗ってざばーーー!!っと入ってあっという間にいなくなってしまうから、俺は長湯したいのにいたたまれなくて同じようにサッと上がるしかなかった。だからこうやって早い時間に入れるの、みんなには申し訳ないけどありがたいんだよな。
 んー、それにしてもホントいい湯。今日も疲れたし、眠たくなってきた。そう言えば今日ローゼンは休みだからご馳走作って待ってるって言ってたなぁ。
 結局未だにローゼンの部屋に居候してるけど良いのかな?騎士団寮のどこかの部屋が空いてたらそこを貸して欲しいって頼んだら物凄い勢いで却下されたんだけど、ローゼンだって部屋に俺みたいな奴がいつまでも居座ってたら迷惑だろうし。
 鼻歌交じりにしばらく浸かって、逆上せる前に上がったつもりだったんだけどちょっと逆上せ気味になったから騎士団寮から少し出て入り口辺りをプラプラ歩いてたんだ。玄関前には青系のグラデーションがかかった小さな花が植えてあって、昨日庭師の人があと4日くらいで満開になるって教えてくれたから、楽しみにしてる。
 風が冷たくて気持ちいいし、遠くの方からは騎士さん達の訓練の声とか鳥の声とか聞こえてて、大分日が傾いてきたな~、なんて思ってた――――その瞬間。
 背後から口元に布を押し当てられ、驚いてる間に建物裏手の滅多に人が来ない所に引きずり込まれた。人間驚きすぎると固まるってホントなんだな。明らかに叫んで助けを呼んだ方が良いのはわかってるのに脳ミソが指令を出してくれない。
 その時間的には1分にも満たない僅かな時間で俺はまたも縛り上げられ、ご丁寧に猿轡までされて、今度は麻袋的な物に詰め込まれ米俵のように担ぎ上げられたのでした。


 そして今に至る。この揺れとこの音はまた荷馬車的な物に乗せられてるな……、とどこか冷静な部分が分析してるけど、内心では結構焦ってる。
 何でって?手足を縛られた状態では意味ないかもだけど、まずパーピュアの薬を持ってない。最近はつい時間を忘れがちな俺に代わり常にパーピュアが管理してて、夜の分は失くしたら大変だからと部屋に置いてある。さっき風呂上がりに水を一杯飲んだけどこの世界の物を口にしたのはそれが最後だ。しかも魔力訓練をした後で、多少なりとも消費してる。
 つまり、魂が引っ張られるピンチだというのに俺は見知らぬオッサン達に誘拐され中なのである。

(うわーー!!どうするんだよ!)

 幸いなのは前回捕まった時と違って手足を縛っているのが普通の縄だと言うことか?万が一の時は覚えたての魔法で相手を怯ませて走って逃げられる。
 でも、だ。まだ俺の魂は定着してない。魔力も安定してない。訓練のあと水しか飲んでない。その状態で魔法を使って果たして倒れずにいられるだろうか。
 うん。ピンチだ。
 ガッタン、と馬車が止まる。耳を澄ませば馬の嘶きや虫の声、ザザザー、と大きな木が揺れて葉っぱが擦れ合う音がする。また森か……?

「確かに神子なんだろうな?」

 急に聞こえた声に俺の心臓はぎゅぅ、と縮こまった。
 この声は。
 ゴソゴソと麻袋を開けてカンテラの灯りを向けてきたそいつは。

「ふむ。確かに神子のようだ」

 あの時のクソ眼鏡……!!!!


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