ある日、私は事故で死んだ───はずなのに、目が覚めたら事故の日の朝なんですけど!?

ねーさん

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「ウォルターはアイリスが好きなんだろう?」
 ………ん?
 ステファン殿下、今何て?
 
「!?」
 アイリスが何かを言うため顔を上げようとすると、ウォルターはアイリスをますます強く抱きしめた。
「ええ。そうです」
 ウォルターの胸に押し付けられたアイリスの耳に、ウォルターの声が小さな振動と共に届く。
「僕はずっと…ずっとアイリスの事が好きなんです」

 ドクンッ。
 と大きく脈打った心臓が、ウォルターのものなのか、それとも自分のものなのか、アイリスにはわからなくなった。
 今、ウォルター殿下が、私の事、好きって…言ったの?
「…ウォルター殿下」
「……」
 アイリスが顔を上げると、ウォルターは眉を顰めて苦し気な表情でアイリスを見た。
「ごめんね。アイリス」
「え…?」
 何でそんな表情かおを?
「アイリスにはジェイドがいるから、僕の気持ちなど知らせるつもりはなかったんだ…だからごめん」
 苦渋の表情で腕の中のアイリスの肩に手を掛け、自分の身体から離すウォルター。
「え?ジェイド?」
 ジェイドが何?

「ジェイドとはヴィクトリアの家の執事の息子だな?」
 ステファンが何かに気付いたように言う。
「そうです」
 ウォルターが答える。
 ステファン殿下が我が家の執事見習いの名前まで知ってるのは、お姉様との会話にジェイドの名前が出て来たって事よね?
「そのジェイドだ。ヴィクトリアが本当に好きな男は」

 ……………は?

「兄上、そこまでご存じなんですか」
 ウォルターが驚いた様子で言った。

「え?」
 えええ!?
 ウォルター殿下がそう言うって事は本当なの!?
 お姉様には「本当に好きな男」がいて、それがジェイド!?
 それで、ウォルター殿下もそれを知ってたの!?
「しかしジェイドはアイリスと結婚してガードナー伯爵家を継ぐんです。それにジェイドとアイリスは想い合っている」
「ちょっ!ちょっと待って!」
 アイリスは思わず声を上げる。

「アイリス?」
 アイリスの肩に手を置いたままのウォルターが首を傾げてアイリスを見た。
「…ちょっと待ってください。情報過多で頭が追いつきません」
「アイリス」
 アイリスはウォルターを見上げる。
「とにかく!まずこれだけは言っておきます」
「うん?」
 首を傾げるウォルターをキッと見据えてアイリスは言った。
「私が好きなのはウォルター殿下です!」

-----

 ルイーザの住む家の玄関を出ると、馬小屋や馬を運動させる広場、馬車を停める広場と、その周りを取り囲むようにルイーザの住む家と同じようなこじんまりとした家が何軒か見える。
 奥に見える山の方へ行く道は入口は広いがすぐに狭くなるらしい。手前にある麓の方へ続く道は馬車がすれ違える程に広かった。
 眼帯をしたアイリスは玄関前に停めた馬車に乗り込もうとしているウォルターの前に手を後ろで組んで立つ。
「…まだ信じられない」
「私もです」
 ウォルターが呟くように言うと、アイリスも俯いて唇を尖らせた。

「だからと言ってすぐにどうこうなる訳ではないけど…」
 そう言いながらアイリスに握手を求めるように手を差し出すウォルター。
「そうですね」
 アイリスも頷きながらウォルターの手に触れる。
 ウォルターはギュッとアイリスの手を握った。
「……」
「……」
 黙って見つめ合う。

 麓からの道から馬車が近付いて来る音がして、ウォルターとアイリスは手を離した。
 ルイーザの家から少し離れた所に停まった馬車の扉が勢いよく開き、ケイシーが飛び出すように降りて来る。その後ろからデリックも馬車から降りた。

「ケイシー」
「ア…お嬢様!」
 駆けて来たケイシーがアイリスに抱きつく。
 心配と安心と入り混じった表情で、目尻に涙を浮かべたケイシー。頭には包帯が巻かれていた。
「ケイシー傷は大丈夫なの?」
「私の事など!それよりお嬢様がご無事で本当に良かったです」

「語り合うのは後ほど。人払いしてあるとは言え屋外です。どこから見られているかわかりませんから」
 デリックがケイシーの肩をトントンと叩く。
 アイリスとケイシーは頷いた。
 ケイシーが控えるようにアイリスの後方へと立つと、デリックはルイーザの家の前に停めてあった馬車の扉の横に立つ。
「名残惜しいのは重々承知していますが、人払いしてあるとは言え屋外ですからね」
 デリックはウォルターの方へ視線をやりながら言った。
「そう何度も言わなくてもわかっている」
 ウォルターは恨めしそうにデリックを見ると、アイリスの方へ身体を向ける。
「それじゃあ行くよ」
 ウォルターは少し微笑んでアイリスを見た。
「はい」
 アイリスも少し微笑んでウォルターを見る。
「待っていて。…アイリス」
 声を絞ってアイリスを呼ぶと、アイリスは小さく頷いた。



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