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爆発の後、休憩所に置かれた簡易ベッドに横になったベンジャミンの枕元に立つウォルター。
「ステファンは隠したがっているようだが、東国へ抜ける山道の集落にルイーザ王女がいる」
ベンジャミンは小声で言うと、少し離れた所にあるベッドにうつ伏せで寝ていたラウルが腕を立てて上半身を起こした。
「姉上が!?…っ痛」
肋骨が折れているラウルが顔を歪めてベッドに突っ伏す。
「ルイーザ王女が?」
ラウルを横目で見ながらウォルターが首を傾げると、ベンジャミンは頷いた。
「ああ」
「なっ…俺さえ知らない姉上の居場所を、何故ベンジャミン殿下やステファン殿下が知っているんだ?」
ラウルが痛みに眉を顰めつつ顔だけをウォルターたちの方へ向けて言う。
「東国ではルイーザ王女をほとんど捜索していないでしょう?ステファンは探した。それだけの事です」
ベンジャミンが言うと、ラウルは視線を逸らした。
「確かに、そうだな」
「何故探さなかったんですか?」
ベンジャミンが言う。
「…姉上は男と出奔した。連れ戻した所でじゃあまたステファン殿下と婚姻を、とはいかないだろう?」
「つまり、政略結婚の役に立たなくなったから捨て置いたと言う事ですか?」
「違う!姉上にとってその方が幸せならばそっとしておいた方が良いと考えた」
ラウルの言葉にベンジャミンは苦笑した。
「綺麗事を」
「何!?」
ウォルターは言い争いになりそうなベンジャミンもラウルとの間に立つ。
「そういう話しは後にしてください。それで、そのルイーザ王女の居る場所に、ヴィクトリアも居るという事ですか?」
苛立ちを含んだ口調でウォルターが言うと、ベンジャミンは気を取り直して頷いた。
「おそらく。私としては、この爆発もヴィクトリア嬢の拐引も、ステファンが仕組んだ事だと思う」
何故?
いや今はそれもどうでも良い。
「東国へ抜ける山道途中の集落ですね?」
「ああ」
ウォルターは踵を返すと跛行しながら厨房の方へと行く。
こんな時に碌に走れもしないなんて…
ウォルターは唇を噛むと、厨房にいたデリックとケイシーに声を掛けた。
「デリック、僕の足首をしっかり固定してくれ。それから馬を」
「はっ!」
「ケイシーは安静にして待っていて」
「……はい」
ケイシーは不満そうな表情を浮かべる。
しかし、自分が付いて行っても足手まといになるだけと理解して、渋々ながらも頷いた。
-----
ウォルターに抱きしめられたままのアイリスは、ステファンの言葉を頭の中で反芻する。
「ヴィクトリアがウォルターとの婚約を破棄できるように、この事件を起こしたんだが…」
お姉様が婚約を破棄できるように?
晩餐会でステファン殿下と話した時にも思ったけど、お姉様とステファン殿下って婚約破棄みたいな個人的な事に踏み込むくらい親しいの?
「婚約破棄…?兄上はヴィクトリアとそのような話をできるほどの仲なのですか?」
やっぱりウォルター殿下もそう感じてるんだわ。
…それにしても、ウォルター殿下の力が強すぎて苦しい。ううん。この抱きしめられてるって状況が…胸が苦しい。心臓がバクバクして、頭に血が上って、頬が熱くて…のぼせそう。
ああ…でも、ステファン殿下の言い分ではお姉様が婚約破棄したがってるみたいだけど、ウォルター殿下はお姉様の事…好きなのよね…?傷付いてないかな…?
「ヴィクトリアの友人にアルドリッジ伯爵家の娘がいるだろう?」
「ええ。ドリアーヌ・アルドリッジ嬢ですね」
ステファンが言い、ウォルターが頷く。
「その娘が今俺の婚約者候補だ。候補だから表立って交流はしていないが、時々は面会交流しなければならない。ドリアーヌも俺も婚約は望んでいないので、義務的な茶会などの機会には俺が侍従を同席させたり、ドリアーヌが友人を伴ったりで、二人きりでは会わないようにしている」
ドリアーヌ様って舞踏会の時「賭けに負けたのね」って私に…と言うかお姉様に言った人よね。
ステファン殿下も「賭け」って言ってたのは、ステファン殿下とドリアーヌ様の面会交流に同席したお姉様が二人とそのような話をした、と言う事か。
「なるほど、その場でヴィクトリアが僕との婚約を破棄したいと言ったのですね」
案外冷静な口調のウォルターをアイリスは視線だけで窺い見た。
ウォルターの表情に特に怒りや悲しみの感情は見えない。
「もちろん俺に対してそうはっきり言葉にして言った訳ではないが、ドリアーヌには色々話していたようだな」
「ドリアーヌ嬢とは特に仲が良いようでしたから。それで兄上『僕のためにもなった』とはどういう意味ですか?」
そうウォルターが言うと、ステファンは軽く口角を上げた。
「ウォルターはアイリスが好きなんだろう?」
爆発の後、休憩所に置かれた簡易ベッドに横になったベンジャミンの枕元に立つウォルター。
「ステファンは隠したがっているようだが、東国へ抜ける山道の集落にルイーザ王女がいる」
ベンジャミンは小声で言うと、少し離れた所にあるベッドにうつ伏せで寝ていたラウルが腕を立てて上半身を起こした。
「姉上が!?…っ痛」
肋骨が折れているラウルが顔を歪めてベッドに突っ伏す。
「ルイーザ王女が?」
ラウルを横目で見ながらウォルターが首を傾げると、ベンジャミンは頷いた。
「ああ」
「なっ…俺さえ知らない姉上の居場所を、何故ベンジャミン殿下やステファン殿下が知っているんだ?」
ラウルが痛みに眉を顰めつつ顔だけをウォルターたちの方へ向けて言う。
「東国ではルイーザ王女をほとんど捜索していないでしょう?ステファンは探した。それだけの事です」
ベンジャミンが言うと、ラウルは視線を逸らした。
「確かに、そうだな」
「何故探さなかったんですか?」
ベンジャミンが言う。
「…姉上は男と出奔した。連れ戻した所でじゃあまたステファン殿下と婚姻を、とはいかないだろう?」
「つまり、政略結婚の役に立たなくなったから捨て置いたと言う事ですか?」
「違う!姉上にとってその方が幸せならばそっとしておいた方が良いと考えた」
ラウルの言葉にベンジャミンは苦笑した。
「綺麗事を」
「何!?」
ウォルターは言い争いになりそうなベンジャミンもラウルとの間に立つ。
「そういう話しは後にしてください。それで、そのルイーザ王女の居る場所に、ヴィクトリアも居るという事ですか?」
苛立ちを含んだ口調でウォルターが言うと、ベンジャミンは気を取り直して頷いた。
「おそらく。私としては、この爆発もヴィクトリア嬢の拐引も、ステファンが仕組んだ事だと思う」
何故?
いや今はそれもどうでも良い。
「東国へ抜ける山道途中の集落ですね?」
「ああ」
ウォルターは踵を返すと跛行しながら厨房の方へと行く。
こんな時に碌に走れもしないなんて…
ウォルターは唇を噛むと、厨房にいたデリックとケイシーに声を掛けた。
「デリック、僕の足首をしっかり固定してくれ。それから馬を」
「はっ!」
「ケイシーは安静にして待っていて」
「……はい」
ケイシーは不満そうな表情を浮かべる。
しかし、自分が付いて行っても足手まといになるだけと理解して、渋々ながらも頷いた。
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ウォルターに抱きしめられたままのアイリスは、ステファンの言葉を頭の中で反芻する。
「ヴィクトリアがウォルターとの婚約を破棄できるように、この事件を起こしたんだが…」
お姉様が婚約を破棄できるように?
晩餐会でステファン殿下と話した時にも思ったけど、お姉様とステファン殿下って婚約破棄みたいな個人的な事に踏み込むくらい親しいの?
「婚約破棄…?兄上はヴィクトリアとそのような話をできるほどの仲なのですか?」
やっぱりウォルター殿下もそう感じてるんだわ。
…それにしても、ウォルター殿下の力が強すぎて苦しい。ううん。この抱きしめられてるって状況が…胸が苦しい。心臓がバクバクして、頭に血が上って、頬が熱くて…のぼせそう。
ああ…でも、ステファン殿下の言い分ではお姉様が婚約破棄したがってるみたいだけど、ウォルター殿下はお姉様の事…好きなのよね…?傷付いてないかな…?
「ヴィクトリアの友人にアルドリッジ伯爵家の娘がいるだろう?」
「ええ。ドリアーヌ・アルドリッジ嬢ですね」
ステファンが言い、ウォルターが頷く。
「その娘が今俺の婚約者候補だ。候補だから表立って交流はしていないが、時々は面会交流しなければならない。ドリアーヌも俺も婚約は望んでいないので、義務的な茶会などの機会には俺が侍従を同席させたり、ドリアーヌが友人を伴ったりで、二人きりでは会わないようにしている」
ドリアーヌ様って舞踏会の時「賭けに負けたのね」って私に…と言うかお姉様に言った人よね。
ステファン殿下も「賭け」って言ってたのは、ステファン殿下とドリアーヌ様の面会交流に同席したお姉様が二人とそのような話をした、と言う事か。
「なるほど、その場でヴィクトリアが僕との婚約を破棄したいと言ったのですね」
案外冷静な口調のウォルターをアイリスは視線だけで窺い見た。
ウォルターの表情に特に怒りや悲しみの感情は見えない。
「もちろん俺に対してそうはっきり言葉にして言った訳ではないが、ドリアーヌには色々話していたようだな」
「ドリアーヌ嬢とは特に仲が良いようでしたから。それで兄上『僕のためにもなった』とはどういう意味ですか?」
そうウォルターが言うと、ステファンは軽く口角を上げた。
「ウォルターはアイリスが好きなんだろう?」
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