61 / 98
60
しおりを挟む
60
「ごめんなさい」
「済まない」
王城の医療棟の病室でシャーロットが目が覚めた途端に、ベッドの傍らの椅子に座っていたマリアとルーカスが揃って立ち上がり、揃って頭を下げた。
「え?何?」
シャーロットは困惑しながら身体を起こす。
右の前腕部に包帯が巻いてある。
「だって、私、またロッテに助けられて…」
マリアの眼に涙が浮かぶ。
「マリアが無事で良かったわ」
「今度こそ私がロッテを助ける筈だったのにぃ」
ポロポロと涙が溢れる。
「泣くなマリア。謝るべきなのは私なんだから」
ルーカスがマリアの肩を抱く。
…ん?今までにない距離感。ってお兄様が謝るべきって、何で?
「ロッテ、済まない。私は絶対にロッテを守ると誓っていたのに、肝心な時に守れなかった」
頭を下げるルーカス。
「え?何で?誓うなんて大袈裟な…」
「大袈裟ではない」
ルーカスは真っ直ぐにシャーロットを見た。
「私は…あのビル工事の責任者だったんだ」
…え?「あのビル工事」って…もしかして前世の?
「あの、鉄板の…ビル工事?」
「そうだ」
ルーカスは厳しい表情で頷く。
えーと、それって…
「え?責任者?あ、待って!それってお兄様も生まれ変わったって事ですか?」
「そうだ」
「それで、前世はあのビルの工事の責任者だった…?」
「そうだ。責任者…所謂現場監督。聞いた事あるだろう?」
「はい」
私の前世も今世も高校生ほどの浅い知識では、現場監督って工事現場の事、全ての責任者よね?くらいのものだけど…
ルーカスは、前世では中堅総合建設業の社員で、現場責任者、施工管理技士などの資格を持ち、工事の工程管理、品質管理、安全管理などをしていたのだと話す。
「あのビルは下請け、孫請け会社が施工していて安全管理が不十分だった。…私の責任だ」
あの事故の後、前世のルーカスは会社を辞めて田舎に帰り、小さな地元の建設会社で事務方として働いていたそうだ。
「お兄様が小さい頃から自分の事『私』って言うの、前世のせいですか?」
シャーロットがそう聞くと、ルーカスは苦笑いを浮かべる。
「そこ、気になるか?でもまあそうだな。例え前世でもそこそこの年齢の記憶があると自分を『僕』とか『俺』とは呼び辛い」
「お兄様、前世では何歳まで…?」
「さあ?私の前世の記憶は、あの事故の少し前から、地元の建設会社で働き始めるまでの数年分しかないんだ。事故当時は三十六歳だった」
三十六…それはしっかり大人だわ。
「そうなんですか…私は前世で子供だった頃の事も思い出しましたけど、結構個人差があるんですね」
「私の場合はあの事故辺りが一番鮮明で、そこから過去へ行く程、未来へ行く程記憶が薄くなっていく様な感じです」
マリアが人差し指で放物線を顔の前に描く。
「山みたいな?ふもとから盛り上がって、頂上を通って、下りてまたふもと、みたいな」
「そうそう」
「ふむ。本当にこの辺りは人それぞれなんだな」
ルーカスが感心した様に言った。
「マリアは、お兄様も転生者だって知ってたの?」
「うん。私が前世を思い出した時、ルーカス様へ『今度こそロッテを守るために私はここに生まれ変わったんです。だからロッテとずっと一緒にいられるようにしてください。それとロッテに強くて優しくてカッコいい旦那様を探してください』って直訴したのよ」
ええ…「強くて優しくて」はわかるけど「カッコいい」は必要かなあ?
「そうしたらルーカス様が『私もロッテを守るためにここにいるんだ』って言われたの」
「えーと、じゃあ私がその事故で死んだ子だって云うのは何でわかったの?」
「『わかった』んじゃなくて…上手く言えないけど、ロッテがその子だって、最初から知ってたって感じ」
「そうなんだ…お兄様も?」
「ああ。私はロッテが生まれた時から『この子を絶対に守らなくては』と強く思っていて、あの事故の事を思い出した時、そうか、だからか、と納得した」
そう言ったルーカスは、俯くと、自分の手をぐっと握りしめた。
「私は…ロッテを守るために生まれ変わって来たと言うのに…」
「肝心な時にってお兄様言われましたけど、今回の事故は学園で起こったんだから、仕方ないですよね?」
だってお兄様は学園生じゃないんだから、学園の行事での事故だと助けるのは物理的に無理だよね。
「いや、あの時、私は学園に…ロッテのすぐ近くにいたんだ。ユリウス殿下に火急の知らせがあって」
ユリウス殿下。
気を失う寸前に紫色の影が見えた、気がしたけど…
「それなのに、私は」
バアンッ!
ルーカスが真剣な面持ちで言い掛けた時、病室の扉が勢い良く開いた。
「ロッテ様!ご無事か!?」
扉を開けた勢いのまま病室に飛び込んで来たのは、簡易的な鎧を身に付け、大ぶりな剣を腰から下げた…
女騎士だった。
「ごめんなさい」
「済まない」
王城の医療棟の病室でシャーロットが目が覚めた途端に、ベッドの傍らの椅子に座っていたマリアとルーカスが揃って立ち上がり、揃って頭を下げた。
「え?何?」
シャーロットは困惑しながら身体を起こす。
右の前腕部に包帯が巻いてある。
「だって、私、またロッテに助けられて…」
マリアの眼に涙が浮かぶ。
「マリアが無事で良かったわ」
「今度こそ私がロッテを助ける筈だったのにぃ」
ポロポロと涙が溢れる。
「泣くなマリア。謝るべきなのは私なんだから」
ルーカスがマリアの肩を抱く。
…ん?今までにない距離感。ってお兄様が謝るべきって、何で?
「ロッテ、済まない。私は絶対にロッテを守ると誓っていたのに、肝心な時に守れなかった」
頭を下げるルーカス。
「え?何で?誓うなんて大袈裟な…」
「大袈裟ではない」
ルーカスは真っ直ぐにシャーロットを見た。
「私は…あのビル工事の責任者だったんだ」
…え?「あのビル工事」って…もしかして前世の?
「あの、鉄板の…ビル工事?」
「そうだ」
ルーカスは厳しい表情で頷く。
えーと、それって…
「え?責任者?あ、待って!それってお兄様も生まれ変わったって事ですか?」
「そうだ」
「それで、前世はあのビルの工事の責任者だった…?」
「そうだ。責任者…所謂現場監督。聞いた事あるだろう?」
「はい」
私の前世も今世も高校生ほどの浅い知識では、現場監督って工事現場の事、全ての責任者よね?くらいのものだけど…
ルーカスは、前世では中堅総合建設業の社員で、現場責任者、施工管理技士などの資格を持ち、工事の工程管理、品質管理、安全管理などをしていたのだと話す。
「あのビルは下請け、孫請け会社が施工していて安全管理が不十分だった。…私の責任だ」
あの事故の後、前世のルーカスは会社を辞めて田舎に帰り、小さな地元の建設会社で事務方として働いていたそうだ。
「お兄様が小さい頃から自分の事『私』って言うの、前世のせいですか?」
シャーロットがそう聞くと、ルーカスは苦笑いを浮かべる。
「そこ、気になるか?でもまあそうだな。例え前世でもそこそこの年齢の記憶があると自分を『僕』とか『俺』とは呼び辛い」
「お兄様、前世では何歳まで…?」
「さあ?私の前世の記憶は、あの事故の少し前から、地元の建設会社で働き始めるまでの数年分しかないんだ。事故当時は三十六歳だった」
三十六…それはしっかり大人だわ。
「そうなんですか…私は前世で子供だった頃の事も思い出しましたけど、結構個人差があるんですね」
「私の場合はあの事故辺りが一番鮮明で、そこから過去へ行く程、未来へ行く程記憶が薄くなっていく様な感じです」
マリアが人差し指で放物線を顔の前に描く。
「山みたいな?ふもとから盛り上がって、頂上を通って、下りてまたふもと、みたいな」
「そうそう」
「ふむ。本当にこの辺りは人それぞれなんだな」
ルーカスが感心した様に言った。
「マリアは、お兄様も転生者だって知ってたの?」
「うん。私が前世を思い出した時、ルーカス様へ『今度こそロッテを守るために私はここに生まれ変わったんです。だからロッテとずっと一緒にいられるようにしてください。それとロッテに強くて優しくてカッコいい旦那様を探してください』って直訴したのよ」
ええ…「強くて優しくて」はわかるけど「カッコいい」は必要かなあ?
「そうしたらルーカス様が『私もロッテを守るためにここにいるんだ』って言われたの」
「えーと、じゃあ私がその事故で死んだ子だって云うのは何でわかったの?」
「『わかった』んじゃなくて…上手く言えないけど、ロッテがその子だって、最初から知ってたって感じ」
「そうなんだ…お兄様も?」
「ああ。私はロッテが生まれた時から『この子を絶対に守らなくては』と強く思っていて、あの事故の事を思い出した時、そうか、だからか、と納得した」
そう言ったルーカスは、俯くと、自分の手をぐっと握りしめた。
「私は…ロッテを守るために生まれ変わって来たと言うのに…」
「肝心な時にってお兄様言われましたけど、今回の事故は学園で起こったんだから、仕方ないですよね?」
だってお兄様は学園生じゃないんだから、学園の行事での事故だと助けるのは物理的に無理だよね。
「いや、あの時、私は学園に…ロッテのすぐ近くにいたんだ。ユリウス殿下に火急の知らせがあって」
ユリウス殿下。
気を失う寸前に紫色の影が見えた、気がしたけど…
「それなのに、私は」
バアンッ!
ルーカスが真剣な面持ちで言い掛けた時、病室の扉が勢い良く開いた。
「ロッテ様!ご無事か!?」
扉を開けた勢いのまま病室に飛び込んで来たのは、簡易的な鎧を身に付け、大ぶりな剣を腰から下げた…
女騎士だった。
0
お気に入りに追加
61
あなたにおすすめの小説
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
【完結】烏公爵の後妻〜旦那様は亡き前妻を想い、一生喪に服すらしい〜
七瀬菜々
恋愛
------ウィンターソン公爵の元に嫁ぎなさい。
ある日突然、兄がそう言った。
魔力がなく魔術師にもなれなければ、女というだけで父と同じ医者にもなれないシャロンは『自分にできることは家のためになる結婚をすること』と、日々婚活を頑張っていた。
しかし、表情を作ることが苦手な彼女の婚活はそううまくいくはずも無く…。
そろそろ諦めて修道院にで入ろうかと思っていた矢先、突然にウィンターソン公爵との縁談が持ち上がる。
ウィンターソン公爵といえば、亡き妻エミリアのことが忘れられず、5年間ずっと喪に服したままで有名な男だ。
前妻を今でも愛している公爵は、シャロンに対して予め『自分に愛されないことを受け入れろ』という誓約書を書かせるほどに徹底していた。
これはそんなウィンターソン公爵の後妻シャロンの愛されないはずの結婚の物語である。
※基本的にちょっと残念な夫婦のお話です
前略、旦那様……幼馴染と幸せにお過ごし下さい【完結】
迷い人
恋愛
私、シア・エムリスは英知の塔で知識を蓄えた、賢者。
ある日、賢者の天敵に襲われたところを、人獣族のランディに救われ一目惚れ。
自らの有能さを盾に婚姻をしたのだけど……夫であるはずのランディは、私よりも幼馴染が大切らしい。
「だから、王様!! この婚姻無効にしてください!!」
「My天使の願いなら仕方ないなぁ~(*´ω`*)」
※表現には実際と違う場合があります。
そうして、私は婚姻が完全に成立する前に、離婚を成立させたのだったのだけど……。
私を可愛がる国王夫婦は、私を妻に迎えた者に国を譲ると言い出すのだった。
※AIイラスト、キャラ紹介、裏設定を『作品のオマケ』で掲載しています。
※私の我儘で、イチャイチャどまりのR18→R15への変更になりました。 ごめんなさい。
伝える前に振られてしまった私の恋
メカ喜楽直人
恋愛
母に連れられて行った王妃様とのお茶会の席を、ひとり抜け出したアーリーンは、幼馴染みと友人たちが歓談する場に出くわす。
そこで、ひとりの令息が婚約をしたのだと話し出した。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
殿下、側妃とお幸せに! 正妃をやめたら溺愛されました
まるねこ
恋愛
旧題:お飾り妃になってしまいました
第15回アルファポリス恋愛大賞で奨励賞を頂きました⭐︎読者の皆様お読み頂きありがとうございます!
結婚式1月前に突然告白される。相手は男爵令嬢ですか、婚約破棄ですね。分かりました。えっ?違うの?嫌です。お飾り妃なんてなりたくありません。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる