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 勢いよく病室に飛び込んで来た女騎士は、ベッドの上に座るシャーロットを認めると
「ロッテ様!!」
 と必死の形相でベッドへ近付いて来た。

「え?誰?」
「何?誰!?」
 マリアがシャーロットを背中へ庇い手を広げると、ルーカスは無言で立ち上がり、シャーロットとマリアの前に立ち、女騎士との間に入る。
「貴様、何者だ?」
 ルーカスが女騎士を睨み付けると、女騎士は少し怯んだ様に立ち止まった。

「バネッサ!」
 開いたままの扉から慌てて駆け込んで来たのは、グリフだ。

「グリフ様?」
「グリフ様?」
「グリフ様!」
「グリフ!?この女は何者だ」
 シャーロット、マリア、女騎士、ルーカスが同時に声を発する。

 バネッサってどこかで聞いたような…
「あ!」
 シャーロットが声を上げると、その場にいた全員の視線がシャーロットに集まる。

「バネッサ…さんって…お手紙に書いてあった、グリフ様の結婚相手、ですよね?」
 シャーロットがおずおずと言うと、マリアとルーカスが
「「はあ!?」」
 と声を揃えて言った。

-----

「グリフ、どう言う事か、聞かせろ」
 ルーカスが無表情で言う。
「ああ。説明する」
 グリフがバツの悪そうな表情で片手で額を押さえて言うと、ルーカスはバネッサと呼ばれた女騎士を一瞥する。
「別室へ行こう。貴女も来てください。妹の傍へ見知らぬ人間を置きたくない」
「わかった」
 ルーカスが冷静に言い、バネッサは素直に頷いてグリフに続いて病室を出て行く。

 グリフとバネッサが出て行くのを確認した後、ルーカスはシャーロットに話し掛けた。
「ロッテ、さっきの『手紙に書いてあった』とは、グリフからの?」
「はい。昨日届いて」
「そうか。とにかくグリフの口から事情を聞いてくるから。マリア、ロッテを頼む」
 ルーカスはシャーロットの肩をポンポンと叩くと、そのままマリアの頭に手を乗せ、ポンと軽く叩いてから病室を出て行く。

 マリアはシャーロットと二人だけになると、改めて椅子に座り直した。
「ねえ、マリア、バネッサさんって背も高いし、スタイル良いし、迫力美人!って感じよね」
 シャーロットはベッドの上でマリアの方へ身を乗り出すようにして目を輝かせて言う。
「え?まあ…そうね」
「もしかしてもしかすると私より背が高いかな!?」
 眼をキラキラさせながら言った。
「…まあ…さっきルーカス様とグリフ様と並んでたのを見る限りでは、ロッテよりちょっと高いかもね…」
 マリアは眉を寄せてシャーロットを見る。
「うわあ。並んで立ってみたいなあ」
「…ロッテ?」
 マリアが訝し気にシャーロットを呼ぶと、シャーロットは
「ん?」
 ときょとんとした表情でマリアを見た。

「えーと…あの、ね、グリフ様からの視察に出発前する前の手紙に書いてあった『見合いを勧められるかも知れないが断るから』ってお見合いの相手が…あの女騎士なの?」
 探るように聞くマリアに、シャーロットはかぶりを振る。
「ううん」
「違うの!?じゃあ結婚相手って何?どういう事!?」
 思わず立ち上がるマリア。座っていた椅子がガタンッと後ろに倒れた。
「お、落ち着いてマリア」
「いやむしろロッテこそ、何でそんなに落ち着いてるのよ!?」
 そう言いながらマリアは椅子を起こす。
「何でって…」
 答えは簡単。ショックじゃないから。
 むしろお兄様やマリアの方がショック受けてるように見えるけど…
 起こした椅子にドスンと座るマリア。
「とりあえず、あの女騎士は何者なのかから教えて」
 不機嫌そうに言う。

「バネッサさんは、お父様が辺境伯騎士団の幹部で、グリフ様が学園に入って王都に来るまで兄妹みたいに一緒に育ったらしいわ」
「幼なじみなの?」
「そうね。でもグリフ様的には弟みたいな感じだったらしいけど」
「何歳なの?」
「十七。私たちより一つ上でフェリさんと同い年ね」
「一つ上…という事はグリフ様と五歳差…グリフ様が学園へ入った時、九歳くらい?」
 ぶつぶつと言うマリア。
「バネッサさん、近衛騎士になりたいんだって」
「近衛?」
 シャーロットは頷いた後「あ」と言う。
「正確には、次の王の近衛ね」
「つまりユリウス殿下の護衛騎士になりたい?」
「うん。王族の護衛騎士の入団テストって学園をそれなりの成績で卒業してないと受けられないらしいわ。それで、来年の春から学園へ編入する事にしたんだって」
「じゃあ編入試験のために王都へ?」
「うん」
「それはわかったけど…グリフ様の結婚相手って、どういう事なの?」
 シャーロットは人差し指を顎に当てて言葉を探す。

「うーん、つまりね、八年ぶり?に会ったバネッサさんが、グリフ様の『どストライク』だったんだって」



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