陽キャ転生〜N oと言える日本人なので魔王討伐はいたしません〜

彩根梨愛

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一章

9.腕試し

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街歩きから数日、一度今の自分がどれだけの実力があるのか王都周辺の森で腕試しをすることにした。
とはいえせいぜい初心者向けに毛が生えた程度の魔物しか居ないので陽貴には自分の実力を図る指標にはならなかった。


「アイスソード」


「……なんて芸術品のように美しい剣」


水属性の上級魔法である氷魔法で出した剣を使い、防御ひとつすることなく単身突っ込んでいく陽貴にその場にいたシュオウもただその美しさに呑まれた。
颯爽と走り距離を詰めると岩を蹴り空中で一回転を見せ軽々と飛び、傾斜のある地面に居たそれに、しなやかに振り下ろす。
ただそれだけの洗練された命を刈取るための舞。



「…………知ってるな……やっぱり」



陽貴はそう小さく呟くと微笑んで作り出したアイスソードを粉砕して小さなナイフに作り替えた。
それをシュオウに向けて投げると、そのナイフは彼の横をすり抜けて十メートルほど後ろにいた魔物を貫いた。


「お見事ですハルキ様」

「ありがとう」

「とても剣を扱い出して数週間の方とは思えません」

「まぁ、実際そうじゃないのかもしれないしね」


飄々とそう告げると陽貴は動きを止めた。
シュオウも魔法銃を取り出すと二人は同じ方向に視線を向けた。
そこにはこの場所に不釣り合いなゴーレム。
それも当然である。
このゴーレムは自分でここに来たのではなく、召喚されたのだから。
でなければなんの気配もなく現れたりしない。
しかし通常召喚魔法は魔法陣を用いた手法をとるのでこの場に来た段階で分かるはずなのだ。
腑に落ちない思いを抱えながらも気持ちを切り替え再度アイスソードを創り出した。


「俺がやるからシュオウはそこで待ってて」

「承知しました」

「ウォーターウォール」


弱点など分かりもしないが土や鉱石なんかで出来ているのなら効くのでは無いかと作ったウォーターウォールを、ゴーレムに向けてぶっぱなすとその衝撃にゴーレムは背後に倒れこんだ。
それに追い打ちをかけるようアイスソードで切りかかるが強度に負け折れたソレを消すと、新しく、今度は大量の鋭い氷柱に変え打ち付ける。
木々の隙間から差し込む光が大量の氷柱に反射して陽貴を照らす。


「参ったな硬い」


怒涛の攻撃にも関わらずかすり傷しかついていなさそうなゴーレムに、陽貴はそう呟くと少しゴーレムから距離を取った。


「ーーっ!ハルキ様っ!!かっこ良すぎませんか!!」


二十メートルほど離れているはずなのにかなりの大音量で聞こえてくるシュオウの応援ならぬラブコールに思わず陽貴は笑ってしまう。


「ありがとう。でも一応ゴーレムの事気にしといてね、シュオウには大きなお世話かもしれないけど怪我しないように」

「はいご主人様!」


ご主人様と言われたがいつから陽貴はシュオウのご主人様になったのか。
確かに勇者に仕える従僕と考えればご主人様で間違ってはいなさそうではあるが少し気恥しい。
なんせ元の世界ではご主人様なんてフレーズはメイドカフェなる物にあるらしい位の常用する言葉ではないからだ。
高校の学園祭では執事服を着て言う側だったので反対となると免疫がない。
しかも陽貴が対応するのは大抵がお嬢様ではあったのでご主人様は馴染みがない。


「……うーん、硬度のある剣を持ってないからな……やっぱり買うべきかもしれない」


ぎこちない動きで立ち上がったゴーレムはその巨体を活かして腕らしき部位で地面を殴りつけると大きく足場が揺れる。
ミシミシと嫌な音を立てて亀裂が入っていく大地に陽貴は急ぎ未だ練習中の魔法唱える。


「サンダー」


その瞬間天には暗雲が立ちこめ、帯電したそれが大きな塊となってゴーレムに突き刺さった。


「っ!!」


耳が痛いほどの轟音と爆風。
距離のあるシュオウですら風圧で目を開けるのが困難なほどの爆風に思わず腕で目を覆い風を避けた。
風が止んだ時そこにあったのはで爆風でひしゃげた木々。
鬱蒼としていたはずの森は陽貴の魔法を受けた半径五メートルほどが木々のひしゃげた荒野と化していた。
ゴーレムのいたはずのそこには黒焦げになった大地があるだけになっている。


「ハルキさま?」


魔法を使った本人の姿が見当たらない。
これほど密集した森の中でゴーレムだけに当てる的確なコントロールで本人が巻き込まれているはずがない。
そうは思うものの陽貴の姿が見当たらないのにたまらずシュオウは駆け出した。


「いってて……げほっ、背中、打った」

「ハルキ様!!!」


声が聞こえた方に向かって駆け寄り自らの服が汚れるのも厭わず陽貴の身体を支えるシュオウ。
数メートル吹き飛ばされた挙句大木に背中をうちつけた様で苦しそうに陽貴は咳き込んでいる。
何度か止まらぬ咳をした後ヘラりと気の抜ける笑顔で陽貴を支えている腕をぽんぽんと叩いた。


「ありがとう、大丈夫。大したことないよ。ちょっとうっかり詠唱間違えちゃって予想よりだいぶ凄い威力になった」

「多分ちょっとやそっと詠唱を間違えたくらいであのゴーレムが跡形もなく消えて大地が凹んだりしません」

「……ちょっと、やる気出しすぎちゃったみたい」


歴代最高と言われる魔力は伊達じゃなく初級魔法も陽貴にかかれば災害になりかねない威力を発揮する。
それは本人も困り果てているのでなるべく直接対象物に作用する魔法は使わないつもりでいたのだが今回は魔法攻撃の耐性があるゴーレムだった上に物理攻撃用の装備もなかったので仕方がない。
本当は雷の初級魔法にしようと思っていたが詠唱を忘れて‘’サンダー‘’を発動させてしまった為このような惨状になったわけである。
つまりは至近距離で中級魔法を使った挙句気合いが入って力加減を間違えてしまったので、この痛みも自業自得な訳である。


「焦りました……まさかご自身の魔法に巻き込まれたのではないかと」

「そう思うよね、ほんとごめん……魔力制御頑張るよ」


さすがに自分の魔法に殺された勇者というのは前代未聞すぎるので勘弁して欲しいと陽貴も思う。


「骨折れていたりしませんか?」

「今のところ打撲的な痛みしかないよ」

「時間が経って痛みが出ることもあるのでおかしなことがあったら教えてくださいね。念の為確認させてください」

「ああ……よろしく」


そう言って着ていたシャツを脱ぐと背中をシュオウに向けた。


「んん……」

「どう?大丈夫そ?」

「あ~……やっぱ赤くなってるので痣にはなりそうですね」

「仕方ないね……勉強代だよ」


その時背中に慣れない何かの感触が触れた。
何か、なんて考えるまでもないシュオウの手の指である。


「っん…!な、なに!?」

「ご主人様の背中……」

「ご?」

「いいな……」


そう言って指を滑らせ手背中を撫でる感触がゾワゾワとするもので反射的に陽貴は振り返った。


「…シュオウ、シュオウ。なに?……シュオウ?」

「はっ」


ご主人様とは、と聞きたい気持ちと今すぐ正気に戻したい気持ち、どちらも先行した結果シュオウと、何、しか発言できなかった。
子供でももう少しまともに質問出来るかもしれない。


「すみませんこの手が勝手に……ohぴ……」

「ぴ?」

「……oh…」

「シュオウ?」


何やら言葉にならない言葉だけを零すシュオウに陽貴は首を傾げながらも、いつまでも半裸でいる意味もないのでキッチリシャツを着込む。
いくら過ごしやすい気候の国とは言っても日陰でこれだけ密度のある森だと裸は寒い。


「シュオウ、大丈夫?」

「ご主人様、この駄犬にお仕置をしてください……」


だけんとは一体なんのことだろうか。
何にしても背中を触ったくらいで怒る理由もないし、そもそも自分が痛がったのが原因なのだから怒るのも筋違いだ。
とにかく何故かイタズラを怒られた犬のように落ち込んで俯いているシュオウに、陽貴の世話好きの本能が刺激されて思わずその頭を撫でた。


「ふ、あはは、こらこら。変な遊びしないの。ほら立って、帰ろう」

「んんぅ!好き!」

「俺もだよ」

「あーーーー!!!!好き!!!」

「さすがに耳元でその声量はやめてね」


耳元というよりも眼前ではあるがそんなもの微々たる誤差である、と言うほど凄まじい声量で思わずそう諌めた。


「はい!!!!」


だが興奮しきった様子のシュオウの声量は全く変わらなかったので無駄な労力に終わったのだった。
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