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一章
⒍三人目の仲間
しおりを挟む「帰れ!」
魔導書庫に足を踏み入れて数秒、その本の多さに感嘆する間もなく小さな青年に罵声を浴びせられ思わず足を止めた。
「…うーん?」
年は陽貴より三つ四つ小さいだろうか。
先ほどは青年と思ったが少年と表記するか青年と表記するかは微妙な年齢に見える。
厳かで私語厳禁と言わんばかりの静寂の中このような声量で話しかけるのはいかがなものかと考えた陽貴は困ったように笑って少年に向かい人差し指を立てると、『しー』と囁いた。
「公共の場では静かにしような」
「子供扱いするな!私は十九だ!」
少年の言葉に意表を突かれた陽貴だったが持ち前の切り替えの速さで、この国で学んだマナーを披露し頭を下げる。
「年上?それは失礼しました。お若いんですね」
「…ふ、ふん。ちゃんと口の聞き方を知っているようだね!」
「お褒めに預かり光栄です。それでえっと…お名前は?」
「スズだ」
「すずさん。美しい名前ですね。俺のいた国では鈴という装飾品につけられる部品があるんですよ。小さな鈴は綺麗で可愛らしい音が鳴り、大きな鈴は深みのある音が鳴るんです」
「へぇ…そんな装飾品は聞いた事ないな。やはり異世界ではこの国にはないものがたくさんあるんだろうな」
スズは感慨深そうにそう呟いて鈴の形状などを詳しく聞きたがった。
自然と場所を移り紙に形状などの絵を描きながら丁寧に説明していると、突然に我に帰ったように机を両手でたたき立ち上がった。
「な…な…なぜ私は呑気にスズについて勇者と世間話をしているんだ!」
「ん?俺のこと知ってるんですか?」
「知っていなければ開口一番帰れなんていうものか!私はそんな非常識ではない!」
スズの言葉にノヴァーリスは眉を顰め吐き捨てるように呟く。
「十分非常識だと思いますが」
「うるさい!私を馬鹿にしているのか!」
「まあまあ落ち着いてスズさん。ノヴァは少しツンデレのけがありますから言葉がきついんです。話してみればいい子ですよ」
憤った様子のスズに陽貴はその背を撫でてやるとスズの死角からノヴァーリスに静かにするようジェスチャーをする。
それにノヴァーリスは顔色ひとつ変えることなく沈黙すると小さく息を吐いた。
司書の女性は困ったように落ち着きがなくソワソワしているのが見える。
他の利用者も同様こちらの様子を伺っているようだった。
「つんでれ…」
「つんでれ」
2人して未知の言葉に戸惑うような表情を浮かべていて陽貴はこんな状況にも関わらず笑ってしまった。
「ツンデレは普段は凛として人と距離を置いて接している人が、親しくなると不器用ながらに近寄って甘えてきてくれたり、ツンツンしてみたりする…そうだな。猫みたいな人ですよ」
「は…ハルキ!!」
「ぶっ…ふ…ははは!!!む、無理…ノヴァーリスが猫…つんでれ…」
「この人は適当なことを言っているんです!まさか信じたりしませんよね!?こんな言葉を信じるなんて馬鹿の極みですよ!」
「そうかにゃ~?ノヴァーリス大佐は不器用ながらに人に甘えて、実は寂しがりで構わないと拗ねる猫ちゃんなのかな~」
もしかしなくてもスズは猫が好きなのだろうか。
そんなことを考えつつヒートアップしていく口論にどう止めようか思案していた陽貴はこの二人が意外と似たもの同士であるのではないかと気がついていた。
方向性の違うタイプの、ノヴァーリスはクールだが慣れてくると尻尾を摺り寄せてくるタイプ、撫でさせてくれるかは気分次第。
スズは慣れるまで人には近づかないが、慣れれば人間を僕だと思っていてパソコンの上に乗ってきたりするタイプのお猫様タイプの猫。
まるで猫の喧嘩のようで少し微笑ましく陽貴は思っているが、当人たちがそれを知れば全く見当違いだと怒っているところだろう。
「ーー…そんなわけないでしょう。あなたのほうこそいつも他人を威嚇して猫みたいですよ。承認欲求の塊で被害妄想ばかりするくせに他人に認めてほしい人間なんでしょう」
「はあ!?想像で勝手なことを言うな!私は私の価値を理解しない愚鈍な人間を愚かに思っているだけだ!あ~気分が悪い。お前も猫のように愛くるしい見た目に生まれ変われば少しは価値があるのに、妾腹の子が愚かにも貴族の末席にいるなんて反吐がで…」
「そこまで。すずさん、それは人として恥ずかしい非常識ですよ」
「はぁ!?」
陽貴の鋭い言葉にスズは彼を睨みつけたがその冷たい表情にそれ以上の言葉を飲み込んだ。
静まり返る魔導書庫内に構うことなく普段の穏やかな空気はなりを潜めただ冷たく見下ろした。
「子供は親を選ぶことは出来ません。そしてまた人は生まれてくるところを選ぶことは出来ないのです。貴族の血が尊いと言うのならそれも良いでしょう。狭い貴族社会で生きていくならあなたが正解なのかも知れません」
「そうだ。僕は公爵家でそれだけで尊い!」
「そうですか。
ですがそんなもの人間の価値を図る指標にはなりません。あなたが身一つで生きていけばその貴族の血を証明するものは一つもないのです。そうなれば人はその人の中身で勝負するしかないんです。あなたはそんな外の世界を知らないまま、尊い貴族として生きていかれれば良いのではないでしょうか。俺は否定しません。ただ愚かだと思いますが」
「~っ歴代最速で魔導士長に就任した僕にそんな口を聞いていいと思っているのか!僕は強い!僕は、僕は『ラン』がいなくても最強の魔導士なんだ!!」
「…ではその魔導士長就任はあなたの実力だけでできるのでしょうか。あなたの中に流れる尊い公爵家の血があなたを魔導士長にしてくれたのではないでしょうか」
静寂を切り裂く殴打の音。
それは陽貴の頬をスズの掌が張り倒した音であった。
張られた頬を気にかける様子もなく陽貴は静かにスズを見つめた。
それは彼の怒りをさらに助長させたのか、その幼い顔を忌々しげに変貌させている。
「うるさい!!!うるさい!!魔王討伐に恐れを成した腑抜けの癖に偉そうに!勇者だからなんなんだ!!腰抜け野郎が僕を侮辱するな!!」
「あなたが言ったんだろ。ノヴァーリスは妾腹の子だから下賤で、自分は尊い貴族の血、公爵家というだけで価値があると。自分の言葉には責任をもて。良いではありませんか。尊い公爵家だから最年少の魔導士長になった。何も間違っていない。スズは全て正しい」
陽貴の言葉はスズの何かを突き刺す鋭利なナイフ。
何も言い返せない。
確かにそれは自分が言った言葉であったから。
スズが信じてきた言い聞かせてきた自己を肯定するための言葉に今深く傷つけられたのだ。
返す言葉のないスズを横目に陽貴は彼から視線を外すと彼に背を向けた。
「ノヴァ、行こう」
「…は」
先ほどまでの冷徹さなど微塵も感じさせない柔らかい声でノヴァを促し魔導書を探すべく本棚に向かった。
ノヴァーリスもおとなしく従い三歩程度下がりついていくと、本棚の前で止まった陽貴に近づいて囁くように小さな声で問いかける。
「どうされたんですかハルキらしくない。私は慣れていますので今後は無視してください。……ちょっと頭に血が上って言い返してしまいましたが、気にしていません。言いたいなら好きなだけ言わせておけば良いのです」
「……胸のあたりがモヤモヤして息苦しかった。そしたら自分でもびっくりするような言葉が無意識に出たんだ」
「無意識に?」
「これはなんなんだろう。気持ち悪い。もっと上手く流せるはずなのに、おかしいな」
困ったように眉を下げながら魔導書の棚に目を通す陽貴。
それを静かに見つめるノヴァーリスの表情から感情は読み取れない。
「ハルキは…」
「…ん?」
ノヴァーリスの言葉が不自然に切れてハルキは催促するように声を上げたがその言葉が続くことはなかった。
数分後完全に落ち着きを取り戻すと、陽貴はあれだけ目の敵にしていたスズがこのことでさらにノヴァーリスに突っかかる可能性があることに思い至り謝罪をした。
自分が対象になるはしょうがないがこのことでなんらかの被害を被る可能性が高いのはノヴァーリスだ。
なんせあれだけ爵位や血にこだわるのであれば彼の家族などに抗議や権力を使った抑圧などがされる可能性がある。
「もし俺のせいでまた何か言われたら本当にごめん。その時は俺にできること全力でするから」
「大丈夫です。いくら彼が公爵家の跡取りだとしても仮にも外王族には何も出来ないでしょう」
「外王族?」
「継承権は返上致しましたので今はただの近衛です」
育ちがいいことは薄々感じていたがまさか王族であったなんてあいた口が塞がらない。
「そうは言っても外王族って…えっと王族なんだよな?ってちょっとアホっぽい質問で恥ずかしいんだけど」
「ええ。父が現皇帝の弟になります。まあ三番目の弟で今は公爵の家に婿入りしているのですが」
「…親戚なのに全く似ていないんだな皇帝とは」
「そうですね。父は亡くなった皇后様似と聞いておりますのでそのせいかと」
ノヴァーリスはそういうと本棚から二冊取り出すと陽貴に差し出した。
「ハルキ、これなどいかがでしょうか。水魔法の適性があると聞いていましたので…中級魔法の基礎と応用の本です」
「ありがとう。じゃあこれに目を通してみるよ」
「ハルキの適性は水以外にもあるのですか?」
「闇魔法以外の全適性があると聞いてるよ」
「まさか」
大きく目を見開いて驚いてみせるノヴァーリスに陽貴は困ったように薄く微笑むと本を抱え直す。
「ほんとだよ。まあ1番は光魔法が強いみたいだけどね」
「そう、ですか。しかし光魔法の適性があって闇魔法の適性がないなんてさすがは勇者様ということなのでしょうか」
「珍しいみたいだね」
「珍しいなんてものではありませんよ。おそらく歴史上初です」
陽貴は興味なさげに『そうなんだ』と言葉を返して快活に笑う。
「じゃあ部屋に戻ろうか」
「そうなんだって…本当にハルキは大物ですね」
先程の騒動があるので様子を伺いながら出口に向かうと、そこにスズの姿はなかった。
2人はそのことに安堵しながら無事貸出手続きを行なってその場を後にした。
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