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本気

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「し、心配………?」

 親に愛情を全力で注ぎ込まれ、あり得ないほど生意気に育ってしまった僕という弟。ただでさえ他所に迷惑をかけているというのに王子様という自分の友達にすら手を出された兄からすれば僕は憎しみの対象で嫌っていても可笑しくはないはずなのだが。
 そんな僕を心配しているだと?

「僕、てっきりお兄様には嫌われているのかと。」
「嫌ってなどいないっ!………あんな一方的なことをされては説得力に欠けるとは思うけれど。」

 確かにあれはヤバかった。特に目が本気だったし、あの時は本気で殺されると思った。だから今になってそんな切実な瞳を向けられるなんて想像にもしていなかったのだ。

「私は君が間違った行いをしていると教えたかっただけだ。それにルーヴェンこそ私が嫌いだろう?私は不安なだけだよ。変わろうとした君の気持ちまで折れてしまうことになるんじゃないかって。」
「……っ。」
「分かってくれ、ルーヴェン。他の道を探そう。」

 あぁ、こうして両親以外に純粋に心配されたのは今世でこれが初めてなんだ。
 胸が温かくなるのを感じる。
 僕はちゃんとこの人に伝えたい。

「お兄様。心配してくださってありがとうございます。でも大丈夫です!」
「………ルーヴェン。」
「僕が騎士になりたいと思った一番のきっかけはお兄様の、貴方の剣を振るう姿があまりに美しくて憧れを抱いてしまったからなんです。僕は次男だ。だから騎士を目指せる。他の道なんて必要ない。」
「──っ、」
「僕、お兄様の事が大好きですっ!」
「!!」

 兄は肩をプルプル震わせながら「本気か?」と、問うた。

「はい。僕は本気でお兄様に憧れています。」
「な?!あのなぁ~~~っ!私の実力は騎士の中だと全然下だからな?!まったく!」

 お、これはっ!

「お、お兄様っ?」
「……本気なんだな?ルーヴェン。」
「はい!だから今も敬語なんですっ!」
「は、はぁ?ッ、だからそんな堅苦しかったのかっ。辞めてくれ、ハハハッ!」
「っ!わ、笑わないでくださいよ!お兄様っ!」
「あー、くくっ、すまない。夢を追う君を笑うのは失礼だったな。」
「ふん、まだ笑ってますよ!」

 兄はそうしてひとしきり笑ったあと、はぶてる僕の頭をなで嬉しそうに微笑んだ。

「分かった。認めよう。今度私の方からレインさんに話をつけておく。正式に話が進むまではあの人達には内緒にしておくから君もそのつもりでな。」
「~~~~っ!分かりました!」

 やばい、嬉しすぎるっ!これで僕もようやく一歩踏み出せたんだ!
 先程までの不機嫌なんてなんのその。
 顔が緩みすぎて絶対に不細工なのが分かるけど引き締めるは無理そうだ。なによりこれを言ってもらえたのがあの両親じゃないってだけで感動する。

「………しかし心配になってきた。騎士になるのはいいが、君に変な虫がつくんじゃないかって。」

 えー?そんな心配するかぁ?普通。

「そんな、僕のこと好きになる人なんているわけないじゃないですか!」

 僕だぞ?悪評ばかり広がり良いイメージなんて誰一人持っていないだろう。それに顔は断然兄のほうが整っているし。好きになってもらえる要素がない。
 それなのにこの兄は一体何を心配しているんだろう。

「……ルーヴェン。約束してくれ。仲のいい子ができたら真っ先に私に見せると。見定めてやる。」
「何を??」
「わかったな!ルーヴェン!」
「だから何を?!」

 よく分からないがこの時の兄は今までで一番本気な顔をしていた。



 ………………………本当になんでだ?




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