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第24話
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国立城杜大学 ロボット研究所(ラボ)電算室
「あー、やっと会えたわ、村主章生調査官」
章生が部屋に入るなり蓼丸論里が声を上げた。
「えーと、あなたは‥」
「わたしの双子の妹、ロンリです」
綾可が答える。
「と言う事は、あなたが綾可さんですね」
「はい」
「押し掛けてしまって申し訳ありません、昨日の件で訊きたい事が‥」
「何故わたしがディープスペース内のあの場所にいたのか、ですね?わたしも伝えなければならないと思っていました」
「私にも関係がある事だって言われて来たのだけど?」
大本律華が訊く。
「はい、あなたもこの話を知りたいと思ってた筈です」
綾可は過去の出来事について静かに話し始めた、
「自動開発システムADSはご存知ですか」
「知っています。桐生森雄博士が発明したロボットの制御プログラムを開発するAIですね」
章生が答えた。
「そのADSはスーパーコンピューター『HAL-0』上で稼働していましたが、そのHAL-0を開発したのは共に研究者だったわたし達の父と母なのです。博士と両親は城杜大学の同僚で友人でもありました」
「それでは桐生博士とは面識があったわけですね」
「ただ、その頃のわたし達は幼くて博士に関する記憶は殆どありませんでした‥あの事故が起こるまでは‥」
「あの事故とは、モーターショーのPD-105暴走事故の事ですか?」
この言葉に反応したのは論里だった、
「そう、その時PD-105に襲われたアイドルの新谷ろんり、知らない?」
「ああ、確か警察の資料にそんな名前が‥」
「それがあたしよ!新谷は芸名なの」
論里の話を綾可が引き継いだ、
「ロンリが事故に巻き込まれた事もあって、不本意ではありますが色々な方法を使ってPD-105について調べました。その中で幼い頃の記憶の人物がPD-105の開発者、桐生森雄博士だと知ったのです」
「それが分かれば博士を見つけ出すのは簡単だったわ」
「博士は、博士は生きているのね?」
律華が興奮気味に訊いた。
「もちろん生きてるわよ」
「本当ですか、博士は、今、どこにいるんですか?」
章生は気持ちを抑える様にゆっくりと訊いた。
「どこにいるのかは分かりません。見つけたと言っても現実世界での事では無くて、わたし達の持つ能力によって博士の心と会話したという事です」
「詳しく教えて貰えますか」
「あたしたちは相手が話した言葉からイメージとか気持ちとか概念とかを受け取れるのよ」
「それだけではありません、一度交流を持った人とは、離れた場所にいてもその人と会話が出来るようになるのです」
「スケープ能力‥あなた達はスケープ能力者なのね!桐生博士はそれを知っていた‥なのに何でスケープ能力者は見つからなかったなんて言ったのかしら‥」
律華は混乱していた。その疑問に答えたのは章生だった、
「幼かった二人を危険に巻き込まない為じゃないでしょうか。特殊能力に対する世間の反応が肯定的か否定的かは未知数ですから」
綾可は話を続けた、
「わたしもそう思います。それで、ここからは博士から聞いた5年前の話になるのですが‥」
「ちょっといいですか、私が知りたいのは事故再現シミュレーションの中に、何故あなたがいたかという事なんですが?」
章生が割り込んだ。
「すいません、それを説明する為にもう少しこの話に付き合ってください」
「失礼しました、お願いします」
「有人二足歩行ロボット開発当初、博士がロボット制御システムとしてADSに定義した要件は、とても簡単に言えば、ドライバーの希望する動きを、瞬時に実行できる、というものでした」
「制御システムとしては至極当たり前の様に思えますが」
「車の動きならタイヤを制御するだけで良い訳ですが、有人二足歩行ロボットの動きは人間と同等でなければならず複雑で、実際に博士がADSに定義した要件は数万項目に及びます」
「自動開発と言っても楽な作業ではないんですね」
「その要件を満たすためにADSが出した答えは予想外のものでした」
「予想外とは?」
「人間の心を持ったロボットです」
「それは予想外というか‥ADSは心みたいな観念的なものも理解できるんですか」
「恐らく理解はしていなかったでしょう。逆に自分には理解できないもの、要件を与えられなければ何も作り出せない自分と、その要件を考え出した人間との違いこそ心だと定義した様です。
そして作られた制御プログラムは、誰もその記述内容を理解できず、心の有無も確認出来ませんでしたが、ドライバーの操作性という性能要件さえ満たしていれば問題ない為、そのまま採用になりました」
「それがアルファだったんですね」
「はい、しかし、当初こそ期待された操作性能を発揮したアルファでしたが、次第に指示を無視するようになり、最後には操作を全く受け付けなくなりました」
「その件は川田教授から聞きましたが、結局、原因は分かったんですか?」
「博士は開発陣が問題にしなかった心の存在にこそ原因があるのではないかと考え、それを確認する為、アルファに対してチューリングテストを実施する事を提案しました」
「チューリングテスト?」
章生の疑問に対して律華が説明るする、
「チューリングテストとは一般に、AIの人間らしさを計る為に用いられるテストです。
質問者がAIと人間に対して様々な質問をして、その回答からどちらがAIでどちらが人間かを言い当てるというテストです。当てられなければそのコンピュータは人間と同じくらい人間らしいと判断できます。この人間らしさを心だと考える学者もいますが‥」
「でも、そのタイミングでのそのテストは今更という感じがしますね‥」
綾可はこの質問を待っていたかの様に答えた、
「博士には別の狙いがありました」
「あー、やっと会えたわ、村主章生調査官」
章生が部屋に入るなり蓼丸論里が声を上げた。
「えーと、あなたは‥」
「わたしの双子の妹、ロンリです」
綾可が答える。
「と言う事は、あなたが綾可さんですね」
「はい」
「押し掛けてしまって申し訳ありません、昨日の件で訊きたい事が‥」
「何故わたしがディープスペース内のあの場所にいたのか、ですね?わたしも伝えなければならないと思っていました」
「私にも関係がある事だって言われて来たのだけど?」
大本律華が訊く。
「はい、あなたもこの話を知りたいと思ってた筈です」
綾可は過去の出来事について静かに話し始めた、
「自動開発システムADSはご存知ですか」
「知っています。桐生森雄博士が発明したロボットの制御プログラムを開発するAIですね」
章生が答えた。
「そのADSはスーパーコンピューター『HAL-0』上で稼働していましたが、そのHAL-0を開発したのは共に研究者だったわたし達の父と母なのです。博士と両親は城杜大学の同僚で友人でもありました」
「それでは桐生博士とは面識があったわけですね」
「ただ、その頃のわたし達は幼くて博士に関する記憶は殆どありませんでした‥あの事故が起こるまでは‥」
「あの事故とは、モーターショーのPD-105暴走事故の事ですか?」
この言葉に反応したのは論里だった、
「そう、その時PD-105に襲われたアイドルの新谷ろんり、知らない?」
「ああ、確か警察の資料にそんな名前が‥」
「それがあたしよ!新谷は芸名なの」
論里の話を綾可が引き継いだ、
「ロンリが事故に巻き込まれた事もあって、不本意ではありますが色々な方法を使ってPD-105について調べました。その中で幼い頃の記憶の人物がPD-105の開発者、桐生森雄博士だと知ったのです」
「それが分かれば博士を見つけ出すのは簡単だったわ」
「博士は、博士は生きているのね?」
律華が興奮気味に訊いた。
「もちろん生きてるわよ」
「本当ですか、博士は、今、どこにいるんですか?」
章生は気持ちを抑える様にゆっくりと訊いた。
「どこにいるのかは分かりません。見つけたと言っても現実世界での事では無くて、わたし達の持つ能力によって博士の心と会話したという事です」
「詳しく教えて貰えますか」
「あたしたちは相手が話した言葉からイメージとか気持ちとか概念とかを受け取れるのよ」
「それだけではありません、一度交流を持った人とは、離れた場所にいてもその人と会話が出来るようになるのです」
「スケープ能力‥あなた達はスケープ能力者なのね!桐生博士はそれを知っていた‥なのに何でスケープ能力者は見つからなかったなんて言ったのかしら‥」
律華は混乱していた。その疑問に答えたのは章生だった、
「幼かった二人を危険に巻き込まない為じゃないでしょうか。特殊能力に対する世間の反応が肯定的か否定的かは未知数ですから」
綾可は話を続けた、
「わたしもそう思います。それで、ここからは博士から聞いた5年前の話になるのですが‥」
「ちょっといいですか、私が知りたいのは事故再現シミュレーションの中に、何故あなたがいたかという事なんですが?」
章生が割り込んだ。
「すいません、それを説明する為にもう少しこの話に付き合ってください」
「失礼しました、お願いします」
「有人二足歩行ロボット開発当初、博士がロボット制御システムとしてADSに定義した要件は、とても簡単に言えば、ドライバーの希望する動きを、瞬時に実行できる、というものでした」
「制御システムとしては至極当たり前の様に思えますが」
「車の動きならタイヤを制御するだけで良い訳ですが、有人二足歩行ロボットの動きは人間と同等でなければならず複雑で、実際に博士がADSに定義した要件は数万項目に及びます」
「自動開発と言っても楽な作業ではないんですね」
「その要件を満たすためにADSが出した答えは予想外のものでした」
「予想外とは?」
「人間の心を持ったロボットです」
「それは予想外というか‥ADSは心みたいな観念的なものも理解できるんですか」
「恐らく理解はしていなかったでしょう。逆に自分には理解できないもの、要件を与えられなければ何も作り出せない自分と、その要件を考え出した人間との違いこそ心だと定義した様です。
そして作られた制御プログラムは、誰もその記述内容を理解できず、心の有無も確認出来ませんでしたが、ドライバーの操作性という性能要件さえ満たしていれば問題ない為、そのまま採用になりました」
「それがアルファだったんですね」
「はい、しかし、当初こそ期待された操作性能を発揮したアルファでしたが、次第に指示を無視するようになり、最後には操作を全く受け付けなくなりました」
「その件は川田教授から聞きましたが、結局、原因は分かったんですか?」
「博士は開発陣が問題にしなかった心の存在にこそ原因があるのではないかと考え、それを確認する為、アルファに対してチューリングテストを実施する事を提案しました」
「チューリングテスト?」
章生の疑問に対して律華が説明るする、
「チューリングテストとは一般に、AIの人間らしさを計る為に用いられるテストです。
質問者がAIと人間に対して様々な質問をして、その回答からどちらがAIでどちらが人間かを言い当てるというテストです。当てられなければそのコンピュータは人間と同じくらい人間らしいと判断できます。この人間らしさを心だと考える学者もいますが‥」
「でも、そのタイミングでのそのテストは今更という感じがしますね‥」
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