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第23話

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事故から12日 城杜しろもり医科薬科大学病院
「あれー?僕、何でここで寝てるんすかね‥」
能天気な台詞せりふとともに小久保直哉なおやの意識が前触れなく戻った。それはまるで、目覚める事を邪魔じゃましていた何かが忽然こつぜんとこの世界から消えてしまったかの様だった。

    * * *

事故から17日 国土交通省 事故調査室
章生あきおが事務所でPCに向かっていると、経産省に勤める友人の新堂高次こうじがやってきた、
「お疲れー、報告書は進んでるか」
「事実関係が複雑でね、どうまとめたらいいのか悩み中だよ」
「中間報告書なんて事実だけ並べたら終わりじゃないのか?」
「現段階で分かってる事実は、黒崎じんがPD-105を管理サーバー以外の外部コンピュータに接続して動かしたって事だけだ、 それだとPD-105自体には問題無いって事になってしまう。
それじゃ駄目だ、アルファユニットの危険性を証明出来なければ意味がない」
「アルファユニットって行方不明の桐生森雄きりゅうもりおが作ったって言うアレだろ。
科警研が押収したOSのコードデータを解析かいせきして正体を突き止めようとしてるって聞いたけど、その結果待ちじゃだめなのか?」
「コードデータを解析しても恐らくアルファは見付からない、今までの常識の範疇はんちゅうを超えたところまで思考を拡げない限りは‥」
「ふーん‥お前は何かつかんでるんだな?まあ、報告書を楽しみにしとくよ。取りあえずお前には感謝してるんだ」
「感謝?経産省は105の開発を推進しているんだろ、出荷停止になって怒ってるんじゃないのか」
「経産省とロボット推進委員会の一部議員がPDの技術を使った兵器の海外輸出を画策かくさくしているって話は聞いた事あるか?」
「そのうわさは本当なのか?」
「ああ、でも、もちろん経産省は兵器の輸出なんて認めていない。そこで俺は賛成派を装って情報を収集していたんだが‥そこにあの事故が起こった。お前の事だ、情報を提供すれば何か行動を起こすだろうと考えたわけさ」
「僕を利用したって訳か‥」
「ギブアンドテイクだよ、俺の情報のお陰で充実した出張になっただろ?」
「高次‥藪蛇やぶへびって言葉知ってるか?」
「そうそう、肝心な事を忘れるとこだった。聞いたか?PDー105の試作3号機が盗まれたって」
「え、冗談だろ?」
「サーバーにハッキングして出荷案内を捏造ねつぞうした上、ご丁寧ていねいにハヤセの輸送車に偽装したトラックで現れ、白昼堂々持ち去ったんだとさ。大胆で、しかもかなり組織的だな‥」
「くそ!やられた‥何でもっと安全な場所に保管してもらわなかったんだ」
章生の余りの慌てて方に新堂は驚いた、
「何でお前がそんなにうろたえてんだよ」
「あの105は他とは違う、あの105には桐生博士の作った新型OSが搭載されていたんだ」
「桐生博士が作ったってどういう事だよ」
「いや‥どういう事か上手く説明できる自信がないし、そもそも本当かどうかも分からないんだけど、もし最も高性能なPDが得体のしれない組織の手に渡ったとしたら‥」
「安心って訳にはいかないか‥一波乱ありそうだな」

    * * *

国土交通省事故調査室 深夜
一人PCに向かい書類を作成している章生。
「‥それでも今回の事故はPDの持つ可能性を否定するものではないと考る。PD-105の出荷を停止させた私が言うのは矛盾していると思われるかもしれないが、正規版のラムダOSのみでの動作であればPD-105は安全であると思わる。それを証明する為にもメーカーには開発テストの継続を提案したい。
最後に、現段階で正体を究明出来ていないロボット制御システム『アルファ』について、ある人物より有力な証言を得られたのでここに記す‥」

    * * *

―回想 5日前 国立城杜しろもり大学 ロボット研究所(ラボ)
事故シミュレーションの翌日、この町を立ち去る前に章生には確認しておかなければならない事があった。
「お邪魔します」
部室に入ってきた章生を久慈護治くじごじが迎えた、
「いらっしゃいませ調査官」
「ゴジくん久しぶり」
章生に同行してきた大本律華おおもとりつかが部室に入って来る。
「これは珍しい、大本女史ではないですか」
「あれ、お知り合いでしたか?」
「私、ここのOGですから。それに元々ラボは桐生博士が開設した講座でしたし、こんなアニメ同好会みたいじゃ無かったですし‥」
「いやあ返す言葉もありません‥ああ、部長&シスターは奥の電算室です」
「すいません、部屋お借りします」
章生が電算室に向かう。
「あの‥ちなみに私も一緒に話を聞くというのは‥」
護治が探るように訊くと、律華が即答した。
「入っちゃ駄目よ、ゴジくん」
「そうですよねー、ごゆっくりどうぞ‥」
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