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第5章
二 絶体絶命
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二
芽依はカフェラテ店主の顔を仰ぎ見る。
その顔はどこか誇らしげであり、なんの動揺も起こしていなかった。
「あの……。今の人、お知り合いの方とか……ですか?」
「ええ。彼は僕が手配した男です」
「手配……。えっ?」
(何を言ってるの?)
すると、カフェラテ店主は芽依へと静かに振り向く。
そして、意味深な笑みを浮かべながら芽依を見下ろしていた。
嫌な予感が走り抜ける。
これはまさか、何かの罠か? そう思わせるほど、カフェラテ店主が悪人に見えた。
「あなたにお会いしたかったので彼を雇ったんです。あなたをここへお連れするように」
「私を……ここに?」
「聞きたいことがあるんですよ。あなたに。いろいろと」
すると、カフェラテ店主は移動し、店の扉を開いて芽依を中へと誘った。
「さあどうぞ。お入りください。阿部野芽依さん——」
****
(どうして私の名前を知っているの?)
正直、芽依にとってそれは、相手が不審な黒マスクの男からカフェラテ店主に変わっただけの緊急事態の継続に過ぎなかった。
傘を持つ手が汗ばみ、体が小刻みに震え出す。
だが芽依は中へ入らなければならない気がして、カフェラテ店主の言う通りにした。
店内はひんやりとした空気に包まれていたが、すぐに明かりがともされると、いつも通り、シャンデリアの優しい光で店内をカラメル色に包まれた。
店の準備に取り掛かっていたものと思われ、店内は豆の香りがほどよく広がっていた。
カフェラテ店主はカウンターの中へと入ると、さっそくコーヒーを落とし始めている。
「さあ、こちらへどうぞ。阿倍野芽依さん」
「あの、どうして私の名前をご存知なのですか」
「それは、これからお話しします。阿倍野芽依さん」
口調は穏やかだが、何か含みを持たせる言い方は、いつもの雰囲気とは違っている。
(私……自分の名前、言ったっけ? いや、そもそも店主さんと話らしい話はしてないし)
金木犀に訪れた日の記憶を辿るが、うまく思考が回らず、なにも思い当たらない。
(ていうか、さっきあの黒マスクの男の人を『雇った』って言ったよね? どういうこと?)
店主はポケットからスマホを取り出すとどこかへ電話をかけ始めた。
「あ、もしもし。例の子捕まえたから。ああ、わかってるよ。じゃ」
(……捕まえたって言った)
カフェラテ店主は電話を終えると、ふたたび芽依へ視線を向けた。
芽依の警戒心がますます高鳴った。
いったい、何を考えているのだろうか。
「さあ、どうぞ。こちらへおかけください」
芽依はとぼとぼとカウンターへ向かった。
握り締めていた傘を椅子にひっかけると、丸椅子に腰を下ろしてカフェラテ店主とむきあった。
「さあどうぞ。いつものですよ」
そして芽依の前に入れたてのラテが置かれた。
いつもの金木犀ラテだった。
金木犀では、ホットのラテは耐熱ガラスのマグで提供される。
ああ、これが飲みたかったのだと思ったが、今はそれを口にしたいという気持ちは起こらなかった。
「あれ、こちらがお好みではありませんでしたか?」
「いえ、そうではなくて。その……店主さん、私のことを知っているのですか?」
そういうと、カフェラテ店主はカウンターの下から何かを取り出すと、それを芽依に見えるように置いた。
それはフリーペーパー、東京ファンタジアの冊子だった。
そしてドッグイヤーされていたページを開き、それを見せながら芽依に尋ねた。
「ここに書いてあるmeiさんて、阿倍野芽依さんのことでお間違い無いですよね?」
芽依はカフェラテ店主の顔を仰ぎ見る。
その顔はどこか誇らしげであり、なんの動揺も起こしていなかった。
「あの……。今の人、お知り合いの方とか……ですか?」
「ええ。彼は僕が手配した男です」
「手配……。えっ?」
(何を言ってるの?)
すると、カフェラテ店主は芽依へと静かに振り向く。
そして、意味深な笑みを浮かべながら芽依を見下ろしていた。
嫌な予感が走り抜ける。
これはまさか、何かの罠か? そう思わせるほど、カフェラテ店主が悪人に見えた。
「あなたにお会いしたかったので彼を雇ったんです。あなたをここへお連れするように」
「私を……ここに?」
「聞きたいことがあるんですよ。あなたに。いろいろと」
すると、カフェラテ店主は移動し、店の扉を開いて芽依を中へと誘った。
「さあどうぞ。お入りください。阿部野芽依さん——」
****
(どうして私の名前を知っているの?)
正直、芽依にとってそれは、相手が不審な黒マスクの男からカフェラテ店主に変わっただけの緊急事態の継続に過ぎなかった。
傘を持つ手が汗ばみ、体が小刻みに震え出す。
だが芽依は中へ入らなければならない気がして、カフェラテ店主の言う通りにした。
店内はひんやりとした空気に包まれていたが、すぐに明かりがともされると、いつも通り、シャンデリアの優しい光で店内をカラメル色に包まれた。
店の準備に取り掛かっていたものと思われ、店内は豆の香りがほどよく広がっていた。
カフェラテ店主はカウンターの中へと入ると、さっそくコーヒーを落とし始めている。
「さあ、こちらへどうぞ。阿倍野芽依さん」
「あの、どうして私の名前をご存知なのですか」
「それは、これからお話しします。阿倍野芽依さん」
口調は穏やかだが、何か含みを持たせる言い方は、いつもの雰囲気とは違っている。
(私……自分の名前、言ったっけ? いや、そもそも店主さんと話らしい話はしてないし)
金木犀に訪れた日の記憶を辿るが、うまく思考が回らず、なにも思い当たらない。
(ていうか、さっきあの黒マスクの男の人を『雇った』って言ったよね? どういうこと?)
店主はポケットからスマホを取り出すとどこかへ電話をかけ始めた。
「あ、もしもし。例の子捕まえたから。ああ、わかってるよ。じゃ」
(……捕まえたって言った)
カフェラテ店主は電話を終えると、ふたたび芽依へ視線を向けた。
芽依の警戒心がますます高鳴った。
いったい、何を考えているのだろうか。
「さあ、どうぞ。こちらへおかけください」
芽依はとぼとぼとカウンターへ向かった。
握り締めていた傘を椅子にひっかけると、丸椅子に腰を下ろしてカフェラテ店主とむきあった。
「さあどうぞ。いつものですよ」
そして芽依の前に入れたてのラテが置かれた。
いつもの金木犀ラテだった。
金木犀では、ホットのラテは耐熱ガラスのマグで提供される。
ああ、これが飲みたかったのだと思ったが、今はそれを口にしたいという気持ちは起こらなかった。
「あれ、こちらがお好みではありませんでしたか?」
「いえ、そうではなくて。その……店主さん、私のことを知っているのですか?」
そういうと、カフェラテ店主はカウンターの下から何かを取り出すと、それを芽依に見えるように置いた。
それはフリーペーパー、東京ファンタジアの冊子だった。
そしてドッグイヤーされていたページを開き、それを見せながら芽依に尋ねた。
「ここに書いてあるmeiさんて、阿倍野芽依さんのことでお間違い無いですよね?」
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