社内恋愛の絶対条件!"溺愛は退勤時間が過ぎてから"

桜井 響華

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条件3*退勤後は常語にて!

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次の信号待ち、急に手が伸びてきたと思ってドキリと心臓の音が大きく跳ねた。

「……胡桃沢さんからも何か話して下さい」
と言われて、頭をポンポンと軽く叩かれる。

先日に引き続き、二回目の頭ポンポンにドキドキを隠せない。

相良さん、頭に触れるの好きなのかな?

「さ、相良さんはどうして私とお付き合いして下さったんですか?」

頭の上に乗せられた大きな左手を両手で掴み、胸の前でギュッと握る。

横目でチラリと私を見て、
「もうすぐ信号が青に変わりますので離してください」
と言われて左手を解放した。

解放された左手は迷うことなくハンドルを握り締めて、信号が青に変わった瞬間に車は走り出す。

…聞いちゃいけなかったかな?、無言のままだし。

「……はぁっ」

成り行きで副社長に見られたから付き合っているだけとか、無言のままなので相良さんの真意は見えず、卑屈になっても仕方ない状況。

思わず漏れた溜め息を相良さんは拾う。

「…何も答えないんじゃ溜め息が出ても仕方ないですよね」

相良さんの口から答えは出ず、私も口を閉じたまま、下を向く。

「……強いて言うなら、会議室を毎回、綺麗に掃除してくれてたから…でしょうか…」

「そんなの、私じゃなくても良かったんじゃないですか?」

「……それも、そうですね」

全く持って答えにはなっていない。

掃除なんて綺麗にするのが当たり前なんだし、会議室で掃除していて告白されたら誰でも良いのかって話にも繋がる。

相良さんを攻略するのは難しい。

「……お互い、敬語もやめにしませんか?仕事じゃないんだし…。相良さんが、どうしても敬語じゃなきゃ駄目だって言うなら別ですけど…」

「分かりました。じゃあ、プライベートでは敬語はやめましょう」

もっと近付きたくて、最も手っ取り早い、"プライベートは敬語禁止令"を出しては見たものの、上手く行くかどうか…。

「……ついでにですけど、もう1つお願いがあります。相良さんの事、名前で呼んでもいいですか?」

「どうぞ、ご自由に。胡桃沢さん、自分から敬語はなしって言って、まだ敬語で話してる…」

「あっ、本当だ。癖ってなかなか直らないものですね…」

「ほら、また…」

私は「あっ、」と言いながら口を手で覆った。

相良さんとは敬語でしか話していなかった為、急に常語に変更するのも無理があった。

しかも、名前で呼んでも良いか?なんて聞いてしまって取り返しがつかなくなった。

何て呼ぶつもりだった?

大貴"さん"?大貴"君"?───呼び捨ては無理だから・・・。

「……胡桃沢さん?大丈夫?」

ふとした瞬間、助手席側に顔を少しだけ傾けて、私を確認する相良さん。

「だ、大丈夫で、す。ちょっと考え事してました」

ちょっとだけ目が合うだけでも、ドキドキしちゃう。

「…そう。なら、いいけど。胡桃沢さんが俺の事、何て呼んでくれるのか楽しみにしてるよ」

サラリと言ってのけた相良さんは、口角を上げて少しだけ微笑んだ。

いつもとのギャップが大きくて、心臓の鼓動が早くなるばかりだ。

「…だ、だ、…大、貴っ、さ、ん!」

「はい。…呼び捨てかと思ったので、ちょっとガッカリした…」

「…うぅっ…呼び捨ては無理ですぅ。恥ずかしいもんっ…」

顔に火照りを感じて熱くて、暗い車内だから見えないかもしれないが本当に見られたくないので、必死に顔を両手で覆い隠す。

恥ずかしいから途切れ途切れになりながら、やっとの思いで"さん"付けで呼べたのに、呼び捨てで呼ぶなんて無理だよ。

相良さんに私の方を見て欲しくないから、信号は青のままでいて欲しい。

お願い、赤にならないで───……

願い叶わず赤に変わってしまい、私は助手席の窓側に顔を向ける。

「胡桃沢さん、こないだの場所か違う場所でもいいけど、どこにする?」

「…相良さんが決めて下さい」

「………」

何故、そこで黙るのか疑問。

相良さん任せにしたのが気に触ったのかな?

「……さっきは名前で呼んでくれたけど、今度は呼んでくれないんだ…」

そ、そっちが気になっていた訳ね!

相良さんだって、私の名前を呼んでもくれないんだからお互い様だよね。

「わ、私の事も名前で呼んで下さい!そしたら呼びますからっ」

「……和奏」

ボソリと呟く様に名前を呼ばれた後に、
「……これでいい?」
と聞き返す。

違う、違う、そうじゃない。

聞き返されたら、嫌々呼んだとか、私をなだめる為に呼んだとか、いらない憶測ばかりが頭の中によぎってしまう。

今、お互いが求めているのは、もっとこう自然な感じなんだと思う。

「…さっ、…相良さんが嫌じゃなかったら、お互いに呼び捨てで呼びませんか?」

「……はい。じゃあ、早速、呼んでみて?」

わ、私からなの!?

 「…だ、い、…き、」

途切れ途切れに呼ぶのが精一杯で、まともに顔も上げられない。 

やっとの思いで言ったというのに、相良さんからの呼びかけはなく駐車場に着いてしまった。

こないだのカフェバーの駐車場みたいだ。

「着いたよ、和奏」

「………!?」

「……"何か"されるとでも思った?」

「ち、違うからっ!」

恥ずかしいから俯いていた時、顔を覗き込まれたからキスでもされるのかと思い、ギュッと強く目をつむったら…ただの勘違いだった。

声が聞こえてから、ゆっくりと目を開くとクスクスと笑う相良さんの姿があって、私はからかわれた事に気付いた。

恥ずかしさを隠す為に先に車から降りて、ドアを勢い良く閉めた。

相良さんのバカ、ばか、馬鹿っ!

あんなに至近距離だとキスされると勘違いしても仕方ないと思う。

敬語をやめたにしても、性格までもが謙虚じゃなくなるって何なの!

私は相良さんを引き離そうと大股で歩いていたつもりだったが、高身長の相良さんの歩幅に適うはずもなく直ぐに追いつかれた。

「和奏はやっぱり小さい」

追いつくと頭をポンポンされた後、優しく撫でられる。

見上げると約25センチの差は大きいな、と改めて思う。

二度目の正直で頭に乗せられた左手を両手で掴み、そっと下ろす。

どんな反応をするのか知りたくて、下ろした左手を右手でギュッと握る。

街灯がついているだけの路地裏の通り。

歩くだけでも暑さを感じて、肌が汗ばむ。

「手…繋ぎたいの?」

「だ、駄目ですか?」

「…駄目じゃないけど」

手を繋いだ時、見下ろす様に私を見て訊ねる相良さんは少しだけ、照れているかの様に感じられた。

お店は直ぐ近くだから、長い時間、手を繋げる訳ではないけれど、私を受け入れてくれているのだと思うと嬉しかった。
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