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条件3*退勤後は常語にて!
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待ちに待った金曜日の夜は相良さんは早く上がれず、私は一旦自宅に帰り、私服に着替えて身支度を整えてから会社付近のカフェで待っていた。
もうそろそろ21時か…。
スマホの時計を見つつ、同時に連絡が来ないか確認するが着信も新着メッセージもなく、ただ待ちぼうけしている。
このまま連絡が来ないんじゃないかな…と不安に思った時、待ち望んだ着信があり、ドキドキしながらスマホを耳に充てた。
「…お疲れ様です。お待たせしてしまい、すみませんでした。今、どこに居ますか?」
「お疲れ様です。会社近くのカフェに居ます。これから外に出ますね!」
電話口の相良さんはいつも通りの低音ボイスだったけれど、後ろに誰かがいる様でガヤガヤしている様な気がする。
会計を済ませ外の通り道に出ると、冷房の効いたカフェとの気温差にぐらつく。
夜なのに暑過ぎる…!
東北の実家から短大に行く為に東京に出てきたけれど、今だに暑さに慣れない。
実家は夕方になれば暑さは和らぎ、扇風機で暑さを凌いでいたけれど、東京は冷房を入れないと暮らせない。
暑いし、電車がなきゃ暮らせないし、やたらと歩くし・・・けれども実家には帰りたくないから日々、頑張って生活している。
現在は相良さんも居るし、余計に頑張れる。
相良さんを思う気持ちが私を前向きにさせていると思うんだ。
「お疲れ様です。あっ、秋葉さんに副社長もお疲れ様ですっ」
会社の駐車場に来てとの事で浮き足立ちながら向かったのだが、そこには相良さんの他に秋葉さんと副社長の姿もあった。
「ごめんね、邪魔するつもりはなかったんだけど…仕事が遅くなってしまい、相良が送ってくれるって言うから…」
「いや、言ってませんよ。副社長はただ冷やかしに来ただけでしょ?」
「冷やかしだなんて、酷い言い方…」
相良さんと副社長の掛け合いが面白くて、思わず笑う。
電話口のザワザワした感じは、副社長と秋葉さんが一緒に居たからだと確信する。
「胡桃沢さんて、相良の何が好きなの?」
「あーりーと、本人の前でそんなにストレートに聞かれて答えられる人なんて居ないでしょ?ごめんね、胡桃沢さん、気にしないでね」
副社長の質問にドキリとしたが、秋葉さんの言葉で救われた。
まだ面と向かって好きな部分を言えるような関係ではないので、黙り込むしか出来なかっただろう。
「相良が興味のある女の子って、俺も興味があるよ。相良は俺にだって色々と秘密主義だけど、胡桃沢さんだけは隠さなかったから。そっか、相良はちっちゃくて可愛い子がタイプだったのか…」
自己完結をして納得している副社長をよそに相良さんは全く動じず、ポーカーフェイスのままだった。
車のエンジンをかけて、
「早く乗って」
と言われて助手席に押し込まれる様に乗せられた。
エンジンをかけたばかりの車は車内の熱がこもり、かなりの暑さ。
「では、また。お疲れ様でした!」
相良さんの声が聞こえて、運転席に座るなり勢い良く後方に下がる車。
こないだの運転とは違う荒っぽさに私は、シートベルトを握り締める。
会社から少し離れた場所で信号待ちで停車した時に、「すみません…」と相良さんが謝った。
車内が涼しくなってきたのと同じ位に、相良さんも落ち着きを取り戻した様で安定感のある運転へと戻った。
「……?カフェで本を読んでましたから、暇してませんでしたから大丈夫ですよ」
【本】と言っても就職求人誌ですが…。
自分に合う正社員の仕事はなかなかない事が分かり、10分でしまいましたけどね…。
「いや、待たせたのもあるんですが…副社長達も着いてきてしまってすみません」
「いえ、気にしてませんよ。それに二人が居なかったら私は相良さんとお近付きになれませんでしたから…感謝しています」
信号が青に変わり、ゆっくりと走り出す車と共に、
「…そうですか。…今度、プールに行きましょうと誘われてるのですが…胡桃沢さんも行きますか?多分、お盆休み辺りかと思うのですが…」
と相良さんに聞かれたが、お盆休みは毎年、実家に帰省しているので少し戸惑う。
実家に帰省しても友達と会うくらいで、その他の用事がある訳ではない。
友達も仕事が忙しかったり、子育てだったりでなかなか会えないのが現状で、夜にしか会えない事が多いので昼間は丸っきり暇だったりする。
今年はお盆休みじゃなくても良いかな?
相良さんの折角のお誘いだもの、断りたくない!
「い、行きたいです!…でも、私なんかが混ざっていいんですか?」
「秋葉さんがお誘いしてるんですから、どうぞ遠慮なく」
「はい、有難うございますっ」
秋葉さんが誘ってくれた事が嬉しくて、心底、女神様だと思っていたのも束の間、次の一言で女神様の姿は消え去る。
「…しかし、その卑屈になる癖、やめた方がいいですよ」
悪魔、降臨。
無表情で言われると心に言葉がグサリと刺さり、何も言えなくなった。
「私が小学生の時に副社長と出会いました。その頃は私も"自分なんか…"と思ってましたが、副社長はそんなのお構いなしに人の心に土足で踏み込んで来るんです。あの人達は自分の地位なんて気にしないんです。逆に言えば、地位を利用する人とは深く接触したりしません。
胡桃沢さんとは心から友人になりたいから、誘ってるんだと思いますよ?」
「……わ、分かりました!遠慮なく、お誘い受けますね」
先程までは冷たく言い放った言葉が怖かったけれど、事細かに説明してくれたので落ち着きを取り戻した。
私は普段から、そんなにも卑屈になっていたのだろうか?
余り接する事のなかった相良さんに指摘されるんだから、卑屈になっていたんだろうな…と反省する。
もうそろそろ21時か…。
スマホの時計を見つつ、同時に連絡が来ないか確認するが着信も新着メッセージもなく、ただ待ちぼうけしている。
このまま連絡が来ないんじゃないかな…と不安に思った時、待ち望んだ着信があり、ドキドキしながらスマホを耳に充てた。
「…お疲れ様です。お待たせしてしまい、すみませんでした。今、どこに居ますか?」
「お疲れ様です。会社近くのカフェに居ます。これから外に出ますね!」
電話口の相良さんはいつも通りの低音ボイスだったけれど、後ろに誰かがいる様でガヤガヤしている様な気がする。
会計を済ませ外の通り道に出ると、冷房の効いたカフェとの気温差にぐらつく。
夜なのに暑過ぎる…!
東北の実家から短大に行く為に東京に出てきたけれど、今だに暑さに慣れない。
実家は夕方になれば暑さは和らぎ、扇風機で暑さを凌いでいたけれど、東京は冷房を入れないと暮らせない。
暑いし、電車がなきゃ暮らせないし、やたらと歩くし・・・けれども実家には帰りたくないから日々、頑張って生活している。
現在は相良さんも居るし、余計に頑張れる。
相良さんを思う気持ちが私を前向きにさせていると思うんだ。
「お疲れ様です。あっ、秋葉さんに副社長もお疲れ様ですっ」
会社の駐車場に来てとの事で浮き足立ちながら向かったのだが、そこには相良さんの他に秋葉さんと副社長の姿もあった。
「ごめんね、邪魔するつもりはなかったんだけど…仕事が遅くなってしまい、相良が送ってくれるって言うから…」
「いや、言ってませんよ。副社長はただ冷やかしに来ただけでしょ?」
「冷やかしだなんて、酷い言い方…」
相良さんと副社長の掛け合いが面白くて、思わず笑う。
電話口のザワザワした感じは、副社長と秋葉さんが一緒に居たからだと確信する。
「胡桃沢さんて、相良の何が好きなの?」
「あーりーと、本人の前でそんなにストレートに聞かれて答えられる人なんて居ないでしょ?ごめんね、胡桃沢さん、気にしないでね」
副社長の質問にドキリとしたが、秋葉さんの言葉で救われた。
まだ面と向かって好きな部分を言えるような関係ではないので、黙り込むしか出来なかっただろう。
「相良が興味のある女の子って、俺も興味があるよ。相良は俺にだって色々と秘密主義だけど、胡桃沢さんだけは隠さなかったから。そっか、相良はちっちゃくて可愛い子がタイプだったのか…」
自己完結をして納得している副社長をよそに相良さんは全く動じず、ポーカーフェイスのままだった。
車のエンジンをかけて、
「早く乗って」
と言われて助手席に押し込まれる様に乗せられた。
エンジンをかけたばかりの車は車内の熱がこもり、かなりの暑さ。
「では、また。お疲れ様でした!」
相良さんの声が聞こえて、運転席に座るなり勢い良く後方に下がる車。
こないだの運転とは違う荒っぽさに私は、シートベルトを握り締める。
会社から少し離れた場所で信号待ちで停車した時に、「すみません…」と相良さんが謝った。
車内が涼しくなってきたのと同じ位に、相良さんも落ち着きを取り戻した様で安定感のある運転へと戻った。
「……?カフェで本を読んでましたから、暇してませんでしたから大丈夫ですよ」
【本】と言っても就職求人誌ですが…。
自分に合う正社員の仕事はなかなかない事が分かり、10分でしまいましたけどね…。
「いや、待たせたのもあるんですが…副社長達も着いてきてしまってすみません」
「いえ、気にしてませんよ。それに二人が居なかったら私は相良さんとお近付きになれませんでしたから…感謝しています」
信号が青に変わり、ゆっくりと走り出す車と共に、
「…そうですか。…今度、プールに行きましょうと誘われてるのですが…胡桃沢さんも行きますか?多分、お盆休み辺りかと思うのですが…」
と相良さんに聞かれたが、お盆休みは毎年、実家に帰省しているので少し戸惑う。
実家に帰省しても友達と会うくらいで、その他の用事がある訳ではない。
友達も仕事が忙しかったり、子育てだったりでなかなか会えないのが現状で、夜にしか会えない事が多いので昼間は丸っきり暇だったりする。
今年はお盆休みじゃなくても良いかな?
相良さんの折角のお誘いだもの、断りたくない!
「い、行きたいです!…でも、私なんかが混ざっていいんですか?」
「秋葉さんがお誘いしてるんですから、どうぞ遠慮なく」
「はい、有難うございますっ」
秋葉さんが誘ってくれた事が嬉しくて、心底、女神様だと思っていたのも束の間、次の一言で女神様の姿は消え去る。
「…しかし、その卑屈になる癖、やめた方がいいですよ」
悪魔、降臨。
無表情で言われると心に言葉がグサリと刺さり、何も言えなくなった。
「私が小学生の時に副社長と出会いました。その頃は私も"自分なんか…"と思ってましたが、副社長はそんなのお構いなしに人の心に土足で踏み込んで来るんです。あの人達は自分の地位なんて気にしないんです。逆に言えば、地位を利用する人とは深く接触したりしません。
胡桃沢さんとは心から友人になりたいから、誘ってるんだと思いますよ?」
「……わ、分かりました!遠慮なく、お誘い受けますね」
先程までは冷たく言い放った言葉が怖かったけれど、事細かに説明してくれたので落ち着きを取り戻した。
私は普段から、そんなにも卑屈になっていたのだろうか?
余り接する事のなかった相良さんに指摘されるんだから、卑屈になっていたんだろうな…と反省する。
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