社内恋愛の絶対条件!"溺愛は退勤時間が過ぎてから"

桜井 響華

文字の大きさ
上 下
6 / 31
条件3*退勤後は常語にて!

しおりを挟む
待ちに待った金曜日の夜は相良さんは早く上がれず、私は一旦自宅に帰り、私服に着替えて身支度を整えてから会社付近のカフェで待っていた。

もうそろそろ21時か…。

スマホの時計を見つつ、同時に連絡が来ないか確認するが着信も新着メッセージもなく、ただ待ちぼうけしている。

このまま連絡が来ないんじゃないかな…と不安に思った時、待ち望んだ着信があり、ドキドキしながらスマホを耳に充てた。

「…お疲れ様です。お待たせしてしまい、すみませんでした。今、どこに居ますか?」

「お疲れ様です。会社近くのカフェに居ます。これから外に出ますね!」

電話口の相良さんはいつも通りの低音ボイスだったけれど、後ろに誰かがいる様でガヤガヤしている様な気がする。

会計を済ませ外の通り道に出ると、冷房の効いたカフェとの気温差にぐらつく。

夜なのに暑過ぎる…!

東北の実家から短大に行く為に東京に出てきたけれど、今だに暑さに慣れない。

実家は夕方になれば暑さは和らぎ、扇風機で暑さを凌いでいたけれど、東京は冷房を入れないと暮らせない。

暑いし、電車がなきゃ暮らせないし、やたらと歩くし・・・けれども実家には帰りたくないから日々、頑張って生活している。

現在は相良さんも居るし、余計に頑張れる。

相良さんを思う気持ちが私を前向きにさせていると思うんだ。

「お疲れ様です。あっ、秋葉さんに副社長もお疲れ様ですっ」

会社の駐車場に来てとの事で浮き足立ちながら向かったのだが、そこには相良さんの他に秋葉さんと副社長の姿もあった。

「ごめんね、邪魔するつもりはなかったんだけど…仕事が遅くなってしまい、相良が送ってくれるって言うから…」

「いや、言ってませんよ。副社長はただ冷やかしに来ただけでしょ?」

「冷やかしだなんて、酷い言い方…」

相良さんと副社長の掛け合いが面白くて、思わず笑う。

電話口のザワザワした感じは、副社長と秋葉さんが一緒に居たからだと確信する。

「胡桃沢さんて、相良の何が好きなの?」

「あーりーと、本人の前でそんなにストレートに聞かれて答えられる人なんて居ないでしょ?ごめんね、胡桃沢さん、気にしないでね」

副社長の質問にドキリとしたが、秋葉さんの言葉で救われた。

まだ面と向かって好きな部分を言えるような関係ではないので、黙り込むしか出来なかっただろう。

「相良が興味のある女の子って、俺も興味があるよ。相良は俺にだって色々と秘密主義だけど、胡桃沢さんだけは隠さなかったから。そっか、相良はちっちゃくて可愛い子がタイプだったのか…」

自己完結をして納得している副社長をよそに相良さんは全く動じず、ポーカーフェイスのままだった。

車のエンジンをかけて、
「早く乗って」
と言われて助手席に押し込まれる様に乗せられた。

エンジンをかけたばかりの車は車内の熱がこもり、かなりの暑さ。

「では、また。お疲れ様でした!」

相良さんの声が聞こえて、運転席に座るなり勢い良く後方に下がる車。

こないだの運転とは違う荒っぽさに私は、シートベルトを握り締める。

会社から少し離れた場所で信号待ちで停車した時に、「すみません…」と相良さんが謝った。

車内が涼しくなってきたのと同じ位に、相良さんも落ち着きを取り戻した様で安定感のある運転へと戻った。

「……?カフェで本を読んでましたから、暇してませんでしたから大丈夫ですよ」

【本】と言っても就職求人誌ですが…。

自分に合う正社員の仕事はなかなかない事が分かり、10分でしまいましたけどね…。

「いや、待たせたのもあるんですが…副社長達も着いてきてしまってすみません」

「いえ、気にしてませんよ。それに二人が居なかったら私は相良さんとお近付きになれませんでしたから…感謝しています」

信号が青に変わり、ゆっくりと走り出す車と共に、
「…そうですか。…今度、プールに行きましょうと誘われてるのですが…胡桃沢さんも行きますか?多分、お盆休み辺りかと思うのですが…」
と相良さんに聞かれたが、お盆休みは毎年、実家に帰省しているので少し戸惑う。

実家に帰省しても友達と会うくらいで、その他の用事がある訳ではない。

友達も仕事が忙しかったり、子育てだったりでなかなか会えないのが現状で、夜にしか会えない事が多いので昼間は丸っきり暇だったりする。

今年はお盆休みじゃなくても良いかな?

相良さんの折角のお誘いだもの、断りたくない!

「い、行きたいです!…でも、私なんかが混ざっていいんですか?」

「秋葉さんがお誘いしてるんですから、どうぞ遠慮なく」

「はい、有難うございますっ」

秋葉さんが誘ってくれた事が嬉しくて、心底、女神様だと思っていたのも束の間、次の一言で女神様の姿は消え去る。

「…しかし、その卑屈になる癖、やめた方がいいですよ」

悪魔、降臨。

無表情で言われると心に言葉がグサリと刺さり、何も言えなくなった。

「私が小学生の時に副社長と出会いました。その頃は私も"自分なんか…"と思ってましたが、副社長はそんなのお構いなしに人の心に土足で踏み込んで来るんです。あの人達は自分の地位なんて気にしないんです。逆に言えば、地位を利用する人とは深く接触したりしません。

胡桃沢さんとは心から友人になりたいから、誘ってるんだと思いますよ?」

「……わ、分かりました!遠慮なく、お誘い受けますね」

先程までは冷たく言い放った言葉が怖かったけれど、事細かに説明してくれたので落ち着きを取り戻した。

私は普段から、そんなにも卑屈になっていたのだろうか?

余り接する事のなかった相良さんに指摘されるんだから、卑屈になっていたんだろうな…と反省する。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

純真~こじらせ初恋の攻略法~

伊吹美香
恋愛
あの頃の私は、この恋が永遠に続くと信じていた。 未成熟な私の初恋は、愛に変わる前に終わりを告げてしまった。 この心に沁みついているあなたの姿は、時がたてば消えていくものだと思っていたのに。 いつまでも消えてくれないあなたの残像を、私は必死でかき消そうとしている。 それなのに。 どうして今さら再会してしまったのだろう。 どうしてまた、あなたはこんなに私の心に入り込んでくるのだろう。 幼いころに止まったままの純愛が、今また動き出す……。

同居人以上恋人未満〜そんな2人にコウノトリがやってきた!!〜

鳴宮鶉子
恋愛
小学生の頃からの腐れ縁のあいつと共同生活をしてるわたし。恋人当然の付き合いをしていたからコウノトリが間違えて来ちゃった!

憧れのあなたとの再会は私の運命を変えました~ハッピーウェディングは御曹司との偽装恋愛から始まる~

けいこ
恋愛
15歳のまだ子どもだった私を励まし続けてくれた家庭教師の「千隼先生」。 私は密かに先生に「憧れ」ていた。 でもこれは、恋心じゃなくただの「憧れ」。 そう思って生きてきたのに、10年の月日が過ぎ去って25歳になった私は、再び「千隼先生」に出会ってしまった。 久しぶりに会った先生は、男性なのにとんでもなく美しい顔立ちで、ありえない程の大人の魅力と色気をまとってた。 まるで人気モデルのような文句のつけようもないスタイルで、その姿は周りを魅了して止まない。 しかも、高級ホテルなどを世界展開する日本有数の大企業「晴月グループ」の御曹司だったなんて… ウエディングプランナーとして働く私と、一緒に仕事をしている仲間達との関係、そして、家族の絆… 様々な人間関係の中で進んでいく新しい展開は、毎日何が起こってるのかわからないくらい目まぐるしくて。 『僕達の再会は…本当の奇跡だ。里桜ちゃんとの出会いを僕は大切にしたいと思ってる』 「憧れ」のままの存在だったはずの先生との再会。 気づけば「千隼先生」に偽装恋愛の相手を頼まれて… ねえ、この出会いに何か意味はあるの? 本当に…「奇跡」なの? それとも… 晴月グループ LUNA BLUホテル東京ベイ 経営企画部長 晴月 千隼(はづき ちはや) 30歳 × LUNA BLUホテル東京ベイ ウエディングプランナー 優木 里桜(ゆうき りお) 25歳 うららかな春の到来と共に、今、2人の止まった時間がキラキラと鮮やかに動き出す。

【完】あなたから、目が離せない。

ツチノカヲリ
恋愛
入社して3年目、デザイン設計会社で膨大な仕事に追われる金目杏里(かなめあんり)は今日も徹夜で図面を引いていた。共に徹夜で仕事をしていた現場監理の松山一成(まつやまひとなり)は、12歳年上の頼れる男性。直属の上司ではないが金目の入社当時からとても世話になっている。お互い「人として」の好感は持っているものの、あくまで普通の会社の仲間、という間柄だった。ところがある夏、金目の30歳の誕生日をきっかけに、だんだんと二人の距離が縮まってきて、、、。 ・全18話、エピソードによってヒーローとヒロインの視点で書かれています。

君色ロマンス~副社長の甘い恋の罠~

松本ユミ
恋愛
デザイン事務所で働く伊藤香澄は、ひょんなことから副社長の身の回りの世話をするように頼まれて……。 「君に好意を寄せているから付き合いたいってこと」 副社長の低く甘い声が私の鼓膜を震わせ、封じ込めたはずのあなたへの想いがあふれ出す。 真面目OLの恋の行方は?

小さな恋のトライアングル

葉月 まい
恋愛
OL × 課長 × 保育園児 わちゃわちゃ・ラブラブ・バチバチの三角関係 人づき合いが苦手な真美は ある日近所の保育園から 男の子と手を繋いで現れた課長を見かけ 親子だと勘違いする 小さな男の子、岳を中心に 三人のちょっと不思議で ほんわか温かい 恋の三角関係が始まった *✻:::✻*✻:::✻* 登場人物 *✻:::✻*✻:::✻* 望月 真美(25歳)… ITソリューション課 OL 五十嵐 潤(29歳)… ITソリューション課 課長 五十嵐 岳(4歳)… 潤の甥

ズボラ上司の甘い罠

松丹子
恋愛
小松春菜の上司、小野田は、無精髭に瓶底眼鏡、乱れた髪にゆるいネクタイ。 仕事はできる人なのに、あまりにももったいない! かと思えば、イメチェンして来た課長はタイプど真ん中。 やばい。見惚れる。一体これで仕事になるのか? 上司の魅力から逃れようとしながら逃れきれず溺愛される、自分に自信のないフツーの女子の話。になる予定。

あなたが居なくなった後

瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの専業主婦。 まだ生後1か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。 朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。 乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。 会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。 「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願う宏樹。 夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで……。

処理中です...