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第63話 胸騒ぎ
しおりを挟むシャーマンもいるみたいだし、守護の小手を展開させないと!
「シールド展開!」
アイコンを意識すると、守護の小手から丸い球が射出され、淡いピンク色の障壁が俺の周囲を包み込む。
シールドを展開したことで、展開時間のタイムリミットまでのカウントダウンが始まった。
「時間がないんで、とっととやらせてもらう!」
地面に手を触れると、先頭を走ってくるゴブリンたちに狙いを定め、一番広範囲にダメージを与えられるストーンブラストを発動させる。
1m×5mの長方形の範囲で、地面に転がっていた石つぶてが動き出し、ゴブリンたちの身体を痛めつけた。
地面に転がって痛みにのたうつゴブリンが、集団から脱落していく。
3……4……5。
5体倒せただけか、もう少し数を減らせると思ったんだがな。
まだ20体いる……か。
まだ距離はあるが、クールダウンは終わっていない。
もう一発、ストーンブラストを入れるべきか。
思案していると、集団の中からファイアアローが撃ち出され、展開したシールドによって弾かれた。
「迷ってる暇はなさそうだ」
連撃スキルを発動させ、クールダウンを完了させると、ストーンブラストをもう一度発動させた。
先ほどと同じように地面に転がっていた石が動き出し、集団で進んでくる魔物にダメージを与え、脱落させていった。
あと13体。
ここからはクールダウンが終わるまで、接近戦でやるしかない。
握った刀を鞘から抜き放ち、迫りくる集団に向かって駆けた。
駆ける最中、集団から新たなファイアアローとともに、骨を尖らせて作った粗末な矢が飛んでくる。
守護の小手で展開しているシールドと、プロテクションシールドの物理障壁によって、両方とも弾き飛ばされた。
矢!? シャーマンだけでなく、アーチャーもいるのか?
集団に目を向けると、粗末な弓に矢を番えるゴブリンの姿が何体か見えた。
接近戦してる時に、一方的に撃たれるのは、やめてもらいたいので先に潰させてもらう!
魔物の集団に飛び込むと、一気に後方にいたシャーマンとアーチャーの近くまで進む。
守護の小手の展開時間も減ってきてるし、まずはシャーマン優先だ!
「ギギィ!?」
ゴブリンシャーマンが、いきなり目の前に来た俺の姿を見て、目を見開き驚いた様子を見せる。
「悪いが、魔法で撃たれるのは嫌いなんでね。倒させてもらうぞ」
手にした刀を一閃させると、シャーマンの首は刎ね飛んだ。
武器の威力が上がってて、オーバーキルっぽいな。
「ひとつっ!」
首を失ったシャーマンの身体を蹴り飛ばしてどかすと、隣にいたシャーマンに狙いを付ける。
口元をもごもごとさせたシャーマンの首をそのまま薙いで斬り飛ばす。
「ふたつ!」
転がったシャーマンの首は、まだ詠唱しようと動いていたが、すぐに動かなくなった。
シャーマンを優先して俺が狙っていると知った他の魔物が、阻止しようとそれぞれの武器を振り回し、次々に迫る。
攻撃をかわすのは楽だが、こう数が多いと面倒だ……。
クールダウン完了までは、まだ時間がかかるし、通常攻撃していくしかない……な!
ガタイのいいゴブリンが振り下ろした斧を避けると、油断していたシャーマンの前に飛び込み、胴を薙ぐ。
身体を断ち切られたシャーマンは、断末魔の叫びをあげて地面に転がった。
「みっつっ!」
これでシャーマンの姿は消えた!
守護の小手のシールドが、展開時間の限界を超え、球に戻って小手に収まった。
次は、弓をもったやつだ!
乱戦を構わずに放たれた粗末な矢が、シールドプロテクションの耐久値をちまちまと削っていく。
無視してもいいが、集団で戦っている中ではうっとうしい。
敵の魔物からの攻撃をステップを踏んで避けつつ、弓を持つゴブリンを縦に両断すると身体に触れて鑑定を発動させた。
―――――――――――――――――――――――――――――――
ゴブリンアーチャーLV3
HP0/30
MP0/0
攻撃方法:射撃
弱点属性:炎
解体時取得物:ゴブリンの角
解説:緑の肌を持つ小型の人型魔物。弓を持ち、遠くから矢を放って狙ってくる厄介な存在。
――――――――――――――――――――――――――――――――
やっぱりアーチャータイプだったな。でも、強くはない。
早いところ倒して――。
ガタイのいいゴブリンから振り下ろされた斧が、俺の身体に触れる前に障壁に跳ねのけられた。
くっそ、こいつの攻撃、障壁が削られる! こっちが優先か!
ガタイのいいゴブリンに触れ、鑑定を発動させた。
―――――――――――――――――――――――――――――――
ホブゴブリンLV10
HP80/80
MP0/0
攻撃方法:振り下ろし 体当たり
弱点属性:火
解体時取得物:ゴブリンの大骨
解説:同族を倒し生き残った個体。通常のゴブリンよりも体格がよく、ゴブリンたちを率い、強い物理攻撃力で攻撃してくる。
――――――――――――――――――――――――――――――――
ゴブリンの上位個体か……。
Gランクとかじゃ、見かけなかったわけだ。
LVからしてEランクのボスクラスって思われるけど……。
そんな個体が溢れ出して地上に出てきてるって、相当ヤバいダンジョンが生成されてたってことじゃないのか。
再び斧を振り上げたホブゴブリンの姿に我に返る。
振り下ろされた斧の軌道を予想し、身体を逸らして攻撃を避けた。
「ふぅ! 骨が折れる! けど、俺はそんな攻撃じゃ倒せない!」
体勢を直すと、踏み込み直し、心臓をめがけて刀を突き出す。
狙った刃先は、ホブゴブリンの筋肉に覆われた皮膚を突き破り、心臓を貫き反対側まで突き抜けた。
「ゲフゥ! オマエ、ツヨイ……」
口から血を吐いたホブゴブリンが、絶命すると膝から崩れ落ちる。
刀を引き抜いた俺は、敵を威圧するように刀を血振りする。
仲間が一撃で倒されたことで、他のホブゴブリンが動きを止めた。
「あと、8体!」
よし! 敵は怯えて足を止めた! それにクールダウン期間がもう少しで終わる。
これだけ敵に接近してたら、あとはソードスラッシュの連撃で片付けられるはずだ!
早く! 早く! 終われ!
クールダウンが完了し、スキルアイコンの再点灯のが待ち遠しく感じる。
こちらの様子を窺う敵を視線で制し、突き出した刀で威圧した。
3…2…1…よし! いける!
「すまんな。これで終わりにさせてもらうぞ!」
魔物たちは、俺の言葉をいぶかしむ表情を浮かべたが、その隙を使い、ソードスラッシュのスキルを発動させた。
自動的に身体が動き、刀を横に一閃すると、空気の刃が可視化され、敵の集団を斬り裂いていく。
腕や足が斬り飛ばされ、魔物たちの血があちこちで噴き上がる。
「あと3体! これでラスト!」
連撃スキルを発動し、再点灯したスキルアイコンから、再びソードスラッシュを発動させる。
振り抜いた刀から、新たな空気の刃が放たれ、残った3体を斬り裂いて絶命させた。
倒された魔物から発生した光の玉が、アスターシアとガチャが隠れている場所へ飛んでいく。
「ふぅ、とりあえずこれで村を目指してきてた敵は片付けたな。それにしても、こんな魔物集団が外を出歩くなんて、普通じゃないよな? 絶対に……」
倒れた魔物たちの死骸を前に、俺の中で嫌な胸騒ぎを知らせるような鐘が鳴り響いていた。
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