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00・全身拘束刑に処せられた女
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粗末な留置場の衣服を着せられた少女が連れてこられたのは、地下倉庫のようなコンクリートの壁で囲まれた閉鎖空間だった。そこは非正規な組織が運営しているようにみえた。その壁をスクリーンにして投射された画像は正規のものであった。タイトルには「司法省行刑局監修」とあった。
画像には一人の中年女性が拘束されていた。説明によれば彼女は「ヘイトクライムによる大量暴行および保険金目的で従業員二人を殺害」したという。ほんの十年前なら死刑か無期懲役になるはずだが、この女はもっと過酷な運命が与えられようとしていた。それは「全身拘束刑」だ!
死刑制度が廃止され、懲役刑も新規に受けると刑務所に入ることがなくなったのは八年前のことだ。それからというもの犯罪者の程度によって身柄を拘束されて社会で過ごすようになった。罪が軽ければ居住制限を受けGPSを体内に埋め込まれ、半ば強制的に社会奉仕活動に従事させられるが、罪が重くなれば様々な措置が課せられるわけだ。
そのため、殺人犯のような凶悪犯罪者はほぼ全身の肉体改造を受け、ロボットのような姿に変えられ、また精神を司る脳も、電脳化され記憶も書き換えられ、あとは社会の下僕もしくは機械的奴隷にされるわけだ。死刑の代替刑が全身拘束刑というわけだ。
凶悪犯と断罪された中年女性の身体は機械に拘束され、体内に肉体改造用のナノマシーンを投与された。そしてしばらくすると体表が青白くなってきたところで特殊な樹脂と金属で構成された外骨格を身体にはめられた・・・
一時間後、中年女性だった身体は消失し、代わりにロボットの機体に生まれ変わっていた。彼女の身体は人間と寸分変わらぬ姿をしたAIガイノイドが量産化されているご時世では、時代遅れでしかない、メタリックな光沢をもつ機体をしていた。その中にある彼女の肉体はナノマシーンによって機械へと改変されていた。そして電脳化された彼女の意識は書き換えられ、国家によって害とされた存在は消され、機械化された元の身体を統括するだけになっていた。一体の機械奴隷が誕生した瞬間であった。
「こんな身体になるなんていや! ここまでの事はしていないわよ! これは冤罪よ!」
少女は泣き叫んだがそれは無駄だった。泣き叫ぶ少女の襟首を掴み上げた刑務官ロボットはこう言った。
「なによ今更! 決まったことなんだよ! お前の身体はもうすぐ血が通わないものになるんだからな、せいぜい泣いていろ!」
鈍く光る刑務官ロボのボディは正に地獄からの使徒であった!
少女の名は山村愛莉という19歳になる直前の少女だった。彼女は逮捕される前は大学生であったが、ある日直前逮捕され、いつのまにか重罪犯罪者扱いされた。しかし、その容疑に心当たりはなく、大学のゼミの指導教官と先輩にいわれるがまま電脳を操っていただけなのに、連行されてしまった。しかも、周囲の者は誰一人逮捕されていないというのにである。その次の日判決が言い渡された。
「被告人・山村愛莉、これから判決を言い渡します!」
粗末な囚人服を着せられた愛莉は虚ろな目をしていた。逮捕されてからというもの自分は頼まれただけで国防省の国家機密情報を漏洩することを首謀していないと、一貫して主張してきたが、誰もかれも聞いてくれなかった。自分がしたことは何か分からないままに!
自分の言い分を法廷で代弁してくれるはずの弁護人は、事実関係を調べた形跡もなく、ただ罪を認め情状酌量を求めましょうと説得するだけだった。そして検事は起訴内容の事実関係の大半は国家機密に指定されたから被告人にも教えられないというし、そんないい加減な法廷なのに判事はただ検事の言い分をきくだけであった。まさに法匪! 正義というものは自分の法廷に存在しないと打ちのめされていた。
今日は最高裁の上告審のはずだが、なぜかここはどこかの拘留施設内にある会議室、なぜここなのかはどうでもよかった。結果などわかっていたからだ。有罪だ!
初公判から今日の上告審判決言い渡しまで一ヶ月もかかっていなかった。全ては茶番だった。この国の裁判は起訴されれば九割九分有罪だといってもひどいものであった全てはタダの儀式、形式的なものだった。結果は決定していて、愛莉が何を言ったとしても覆ることはなかった。。
「山村愛莉、被告人の上告を棄却する。首都第参地方裁判所の判決を支持する。以上、閉廷します!」
そういって裁判官、いやもしかするとどこかの誰なのか分からなかった。着ている衣装が裁判官らしくないラフないでたちだったから。その男は少しニヤニヤしながらこう言った。
「じゃあ、いよいよサヨナラね、人間の愛莉ちゃん! せいぜいロボットして罪を償ってね! 御達者で!」
そういうと、両側にいたロボット刑務官は愛莉の両手両足に手錠をして、頭にマスクを被せてしまい、本当は法廷じゃないかもしれないところを後にした。そのとき以降彼女は行方不明になった。そして生身の彼女は永遠に消失してしまった・・・しばらくして山村愛莉という少女は存在しない事になった!
彼女が宣告された国家機密漏洩罪の最高刑はかつての無期懲役に相当する「全身拘束刑30年」であったが、その最高刑が確定した。偽りと言える法廷であっても。これから彼女の身体は全身拘束刑の名のもとに機械と融合させられることになった、全身拘束刑に処せられた・・・
実際に愛梨がやったことといえば、大学の教官と同級生から提示された暗号解除をしただけであり、国防省の機密ファイルからとある極秘資料を盗み出し、ネット上に拡散したのは別の人物であったが、全ての行為を愛莉一人がやったことにされた。愛莉はなにが漏洩したのかを知らなかった。全ては人から言われたとおりにしただけのつもりだった。
偽りの法廷から連れ出された愛莉が向かっているのは刑務所ではなかった。少し前に全身拘束刑の執行の様子を見せられたが、あんな機械の身体にされるのだと思うと憂鬱であった。現在、新規に囚人が送られることはなく、全身拘束刑の措置を受けるのは特別な執行設備であった。
そこで愛莉の身体をロボットの内臓にするわけだ。近年の身体改造技術の改造の進歩により、サイバネティクス技術による人体の機械化は特別なモノではなくなっていたが、全身拘束刑の、とくに重罪犯は機械と外観がかわらない姿にされ、人類に奉仕する機械労働者階級に落とされることになっていた。まさに奴隷階級にされるというしかないものであった。
機械にされて働かされるのは嫌! 愛莉は心の中で叫んでいたが、身体は硬直していてもはや感情表現はできなくなっていた。すでに彼女は人間ではなく、機械の材料でしかなくなっていた!
全身拘束刑は人間も捨て、身も心も機械にしてしまう死刑に等しい厳罰! 彼女はこれから人を捨てモノに生まれ変わろうとしていた! 彼女の硬直した身体は猿轡をされ目隠しされ、そして乱暴に扱われてまるで死体袋のようなモノの中に入れられてしまった。
「これから機械になりましょうね。そうそう、必要のない事をしゃべらないように口が利けなくなる薬物を投与するわ。おとなしく機械になりなよ!」
袋の中で聞いたその声に聞き覚えがあった。たぶんその声の主は愛莉を陥れた者のようであった。機械化執行官にしゃべられたら困ることがあるようだった。袋の上から無造作に注射針が打たれ愛莉は人間としての声を失ってしまった。
画像には一人の中年女性が拘束されていた。説明によれば彼女は「ヘイトクライムによる大量暴行および保険金目的で従業員二人を殺害」したという。ほんの十年前なら死刑か無期懲役になるはずだが、この女はもっと過酷な運命が与えられようとしていた。それは「全身拘束刑」だ!
死刑制度が廃止され、懲役刑も新規に受けると刑務所に入ることがなくなったのは八年前のことだ。それからというもの犯罪者の程度によって身柄を拘束されて社会で過ごすようになった。罪が軽ければ居住制限を受けGPSを体内に埋め込まれ、半ば強制的に社会奉仕活動に従事させられるが、罪が重くなれば様々な措置が課せられるわけだ。
そのため、殺人犯のような凶悪犯罪者はほぼ全身の肉体改造を受け、ロボットのような姿に変えられ、また精神を司る脳も、電脳化され記憶も書き換えられ、あとは社会の下僕もしくは機械的奴隷にされるわけだ。死刑の代替刑が全身拘束刑というわけだ。
凶悪犯と断罪された中年女性の身体は機械に拘束され、体内に肉体改造用のナノマシーンを投与された。そしてしばらくすると体表が青白くなってきたところで特殊な樹脂と金属で構成された外骨格を身体にはめられた・・・
一時間後、中年女性だった身体は消失し、代わりにロボットの機体に生まれ変わっていた。彼女の身体は人間と寸分変わらぬ姿をしたAIガイノイドが量産化されているご時世では、時代遅れでしかない、メタリックな光沢をもつ機体をしていた。その中にある彼女の肉体はナノマシーンによって機械へと改変されていた。そして電脳化された彼女の意識は書き換えられ、国家によって害とされた存在は消され、機械化された元の身体を統括するだけになっていた。一体の機械奴隷が誕生した瞬間であった。
「こんな身体になるなんていや! ここまでの事はしていないわよ! これは冤罪よ!」
少女は泣き叫んだがそれは無駄だった。泣き叫ぶ少女の襟首を掴み上げた刑務官ロボットはこう言った。
「なによ今更! 決まったことなんだよ! お前の身体はもうすぐ血が通わないものになるんだからな、せいぜい泣いていろ!」
鈍く光る刑務官ロボのボディは正に地獄からの使徒であった!
少女の名は山村愛莉という19歳になる直前の少女だった。彼女は逮捕される前は大学生であったが、ある日直前逮捕され、いつのまにか重罪犯罪者扱いされた。しかし、その容疑に心当たりはなく、大学のゼミの指導教官と先輩にいわれるがまま電脳を操っていただけなのに、連行されてしまった。しかも、周囲の者は誰一人逮捕されていないというのにである。その次の日判決が言い渡された。
「被告人・山村愛莉、これから判決を言い渡します!」
粗末な囚人服を着せられた愛莉は虚ろな目をしていた。逮捕されてからというもの自分は頼まれただけで国防省の国家機密情報を漏洩することを首謀していないと、一貫して主張してきたが、誰もかれも聞いてくれなかった。自分がしたことは何か分からないままに!
自分の言い分を法廷で代弁してくれるはずの弁護人は、事実関係を調べた形跡もなく、ただ罪を認め情状酌量を求めましょうと説得するだけだった。そして検事は起訴内容の事実関係の大半は国家機密に指定されたから被告人にも教えられないというし、そんないい加減な法廷なのに判事はただ検事の言い分をきくだけであった。まさに法匪! 正義というものは自分の法廷に存在しないと打ちのめされていた。
今日は最高裁の上告審のはずだが、なぜかここはどこかの拘留施設内にある会議室、なぜここなのかはどうでもよかった。結果などわかっていたからだ。有罪だ!
初公判から今日の上告審判決言い渡しまで一ヶ月もかかっていなかった。全ては茶番だった。この国の裁判は起訴されれば九割九分有罪だといってもひどいものであった全てはタダの儀式、形式的なものだった。結果は決定していて、愛莉が何を言ったとしても覆ることはなかった。。
「山村愛莉、被告人の上告を棄却する。首都第参地方裁判所の判決を支持する。以上、閉廷します!」
そういって裁判官、いやもしかするとどこかの誰なのか分からなかった。着ている衣装が裁判官らしくないラフないでたちだったから。その男は少しニヤニヤしながらこう言った。
「じゃあ、いよいよサヨナラね、人間の愛莉ちゃん! せいぜいロボットして罪を償ってね! 御達者で!」
そういうと、両側にいたロボット刑務官は愛莉の両手両足に手錠をして、頭にマスクを被せてしまい、本当は法廷じゃないかもしれないところを後にした。そのとき以降彼女は行方不明になった。そして生身の彼女は永遠に消失してしまった・・・しばらくして山村愛莉という少女は存在しない事になった!
彼女が宣告された国家機密漏洩罪の最高刑はかつての無期懲役に相当する「全身拘束刑30年」であったが、その最高刑が確定した。偽りと言える法廷であっても。これから彼女の身体は全身拘束刑の名のもとに機械と融合させられることになった、全身拘束刑に処せられた・・・
実際に愛梨がやったことといえば、大学の教官と同級生から提示された暗号解除をしただけであり、国防省の機密ファイルからとある極秘資料を盗み出し、ネット上に拡散したのは別の人物であったが、全ての行為を愛莉一人がやったことにされた。愛莉はなにが漏洩したのかを知らなかった。全ては人から言われたとおりにしただけのつもりだった。
偽りの法廷から連れ出された愛莉が向かっているのは刑務所ではなかった。少し前に全身拘束刑の執行の様子を見せられたが、あんな機械の身体にされるのだと思うと憂鬱であった。現在、新規に囚人が送られることはなく、全身拘束刑の措置を受けるのは特別な執行設備であった。
そこで愛莉の身体をロボットの内臓にするわけだ。近年の身体改造技術の改造の進歩により、サイバネティクス技術による人体の機械化は特別なモノではなくなっていたが、全身拘束刑の、とくに重罪犯は機械と外観がかわらない姿にされ、人類に奉仕する機械労働者階級に落とされることになっていた。まさに奴隷階級にされるというしかないものであった。
機械にされて働かされるのは嫌! 愛莉は心の中で叫んでいたが、身体は硬直していてもはや感情表現はできなくなっていた。すでに彼女は人間ではなく、機械の材料でしかなくなっていた!
全身拘束刑は人間も捨て、身も心も機械にしてしまう死刑に等しい厳罰! 彼女はこれから人を捨てモノに生まれ変わろうとしていた! 彼女の硬直した身体は猿轡をされ目隠しされ、そして乱暴に扱われてまるで死体袋のようなモノの中に入れられてしまった。
「これから機械になりましょうね。そうそう、必要のない事をしゃべらないように口が利けなくなる薬物を投与するわ。おとなしく機械になりなよ!」
袋の中で聞いたその声に聞き覚えがあった。たぶんその声の主は愛莉を陥れた者のようであった。機械化執行官にしゃべられたら困ることがあるようだった。袋の上から無造作に注射針が打たれ愛莉は人間としての声を失ってしまった。
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