冤罪! 全身拘束刑に処せられた女

ジャン・幸田

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全身拘束刑の女

01・執行

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 死刑制度が廃止されたのは人道的な理由ではなく、もっぱら人体を素体とした機械の需要があったという言われ方がしていた。また刑務所が事実上廃止されたのは、破滅的な動乱が世界各地で多発し、そういった世界復興の予算を捻出する必要があったのも理由だった。

 刑務所というものは経費が掛かる。脱獄を監視する要員はいるし設備も。それに無期懲役などの重罰を規定すれば、死ななければ増える一方だ。そこで経費削減策として導入されたのが、一般的な刑務所の廃止だった。

 軽い刑罰なら移動を制限する装置を付けさせ自由を奪えばいいし、その分半ば強制的に働かせればいいし、かつての死刑に相当する重犯罪者は穏やかな性格に改造すればいい。性格を改造するために必要な犯罪者の処遇は? その答えが全身拘束刑であった。

 全身拘束刑は人間としての姿を奪う刑罰であった。その刑の執行は身体改造を行い一種のサイボーグのようにすることであった。しかも、外観はAI搭載型のロボットと同じにして! そして、完全な機械であるアンドロイドやガイノイドと同じ扱いにされるわけだ。

 口が悪い人権派から言わせれば機械労働者階級にされることであった。この刑を受けると嫌でもロボットとして働かされるし、反逆する事さえ許されなかった。また場合によっては人格や記憶すら改変できるわけだ。。

 また全身拘束刑にも改造の度合いがあり、外観のみの場合のほか、ほぼ全身を機械化してしまうものもあった。元々は何らかの事情で身体的障害を負った人間に対し施されてきた、サイバネチックテクノロジーと呼ばれる人体改造手法によって強制的に施されるものであった。無論刑罰なので意志に関係なく行われるものであった。

 全身拘束刑が相当と判決が確定すると、強制的に人体改造措置が執行されるわけだ。執行されるような重罪を犯せば機械として管理、すなわち全身がモノとして拘束される。その姿である限りずっと!

 刑期には終身、無期、有期などあったが、有期なら人間に戻れる可能性があった。ただしそれも、改造程度によっては当てにはならなかった。あんまりにも長期間機械でいると人間に戻るのが嫌になるというわけだ。それに完全に機械に改造されたら人間に復帰するのを諦めるしかないわけだ。

 そんな全身拘束刑という名の刑罰に一人の若い女性が処せられることになった。彼女の名は山村愛莉、18歳の少女だった。彼女に課せられた刑は全身拘束刑10年! 10年間は完全なロボットにされることが決まった。罪状は国家機密漏洩罪で国防省から機密ファイルを抜き出して大衆に公開したというものだ。おかげで国防省長官は罷免されたが、その行為に司法省刑事局が下したのは犯罪者として処断する事だった。しかも、処断されたのは関係者のうちで彼女のみだった。他にも多数関与した疑いがあったにもかかわらず。

 「なんでですか? あたしはやっていませんよ! そりゃ、協力しましたわ、あの人に。でも、何をしたのかわかりません! 合法的なアルバイトだったのですから! ロボットになんかなりたくない!」

 愛莉は裁判中もそういって激しく抵抗していた。しかし誰も耳をかしてくれなかった、弁護人さえも。先ほど、裁判所で判決が下され、直接医療施設に連行されたのだ。全身拘束刑とはいかがるものなのかを、事前に収監先で動画を見せられていたので、自分の運命を知っていた。生きたまま、工業製品でも作るかのように女性型ロボットにされることを。

 それに、ここまで裁判が迅速すぎるのも異常な扱いであった。とにかく関係者は愛莉の全身拘束刑執行を急いでおり、人間を機械化する施設に。ここでは大けがをして義体化、すなわちサイボーグに改造することもあったし、身体機能の衰えをカバーするために強化手術をすることもあったが、健康的な肉体をロボットにするのは、刑罰か、はたまた機械フェチな改造マニアぐらいであった。

 「山村愛莉。これからあなたの全身拘束刑を執行します。これから改造措置を行います。なお、一連の措置はこちらの柴田技師長が執り行います」

 執行官が紹介したのは白衣を着たヲタクにしかみえない、悪く言えば腐女子をこじらせたような理系女子のオバサンだった。この国で人間を機械に変えてしまう最高技術を持つとされている彼女は人間を機械と融合させることに喜びを感じているような異常者であった。

 「私が柴田サクラだ。あなたをロボットのボディに閉じ込めます。なお、メンテナンスは三か月に一回行います! 取りあえずはそこまで脱げないからね、ロボットの衣装はね。これから着せてあげるわね、
 そうそう、あなたは結構いい体つきをしているから可愛らしいロボットにしてあるからね! きっとモテるわよ! でもロボットなんだから結婚できないわよ。だって公的には機械になるんだからね。か・く・ご・しなさい」

 その声に愛莉はゾックとした。やめてよ、こんな変態にロボットにされるなんて嫌だ! そう思ったが、無駄だった。何人もの訓練された刑務官によって体の動きを封じられていたから。

 「おとなしく観念しなさい! ロボットになったら楽になるわよ。衣食住全て保証されるからね。まあ、あなたには自由など一切ないけどね」

 措置室には冷淡な声が響いていた。愛莉は絶望の中にいた。
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