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宮廷パーティーにて

会場にて(1)

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 その日の式典は扶桑帝国建国節の祝いが目的であった。昔は壮大な祝賀行事だったけど、戦時体制に移行して段々物資が乏しくなってきたので、規模が縮小されていった。

 「つきますわ。でも気を付けてください。不用意に発言しないでください。その理由はわかりますよね」

 わたしはチヅルに注意された。今のわたしは人形の啓子なのだから。でも、どうすればいいのかは分からないのですけど。どうやらしゃべらなければいいようだ。

 「わたしは・・・」

 「いいえ、殿下はわたくしはとおっしゃっておりますわ、いつも。細かい事は逐次忠告いたしますわ」
 
 「わかりました・・・」

 わたしは窮屈に思えたけど、わたしからすればこの前に人形化されたときよりも身体が窮屈に感じた。なんだか人形に身体が乗っ取られる感覚がした。それに、ドレスが・・・サイズがあっていないんじゃないかしら。人形でない啓子だったら丁度良かったんじゃないのよと思うほどだった。

 宮殿の車寄せに到着すると既に多くの出席者を乗せた車が列をなしていた。規模は縮小したとはいえ、出席者はそれなりのようだった。わたしはそれを見ると少し緊張してきた。でも、いまは人形なので表情はわからないはずなのに、チヅルにいわれた。

 「殿下、緊張されなくてもいいですわ。この式典では出席すればいいのですから、自然体でいきましょう」

 そういわれたが、人形同士はどうも相手の表情が分かるようだった。
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