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啓子が啓子を着る!

人形服(2)

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 わたしが人形服というものを知ったのはその時が初めてだった。その人形服を作れる職人が橘花宮の隠された部屋に匿われていて、哲彦が密偵スパイに使っていたということを知ったのは戦争が終わって相当後の時であった。それはともかく、三人の人形に囲まれた私は恐怖に震えていた。

 「あのう・・・一度人形服を着たら元に戻れないなんて、ことはないですよね?」

 わたしは聞いてみたら三人は笑い出したじゃないのよ!

 「元に戻れるわよ! まあ、一度着たらあんまり気持ち良くて脱ぎたくなくなるけどね。とりあえず、あなたはわたくしの代理になるのですから、戻ってもらわなければこちらの方が困るわよ。それよりも急いでしないといけないわ」

 そういうと人形の啓子は二人の人形に急いで準備するように指示した。

 「すいません、わたしは夕食まで帰らなければならないのですけど」

 わたしはナントカこの場から逃げだす口実を考えたけど、それは大丈夫、執事長に夜まで借りるっていっているからと、即答されてしまった。

 二人の人形はわたしの身体をなんかの脂を浸み込ませた布で拭き始めた。その脂は甘い香りを振りまきながら私の身体の上に広がっていた。

 「この脂はね、人形服を着た時に身体となじむためのものよ。今日はお試しだから薄く塗るけど、本当はたっぷり塗るのよ。そうすれば私たちのように数ヶ月脱がなくても大丈夫なのよ」

 一ヶ月! どうも、この三人の人形たちは数か月も人形になっているといっているように思え、わたしは笑い出してしまった。
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