【完結】従姉妹と婚約者と叔父さんがグルになり私を当主の座から追放し婚約破棄されましたが密かに嬉しいのは内緒です!

ジャン・幸田

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後編

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 ジェイソンは牢獄の中で苦痛に顔をゆがめていた。捕らえられても貴族の特権として拷問を伴う取り調べはなくても、精神的に追い詰められていた。

 あの日、婚約破棄され当主代行の座から追い出された姪が出奔する時の顔を思い出していた。彼女の顔は幸せそのものだった。なぜあんな嬉しそうな顔をしていたのか・・・その理由を知り愕然とした! なぜ、あんな顔をしていたのか理解できた! 自分にジョーカーを押し付ける事に成功したからだ!

 「ジェイソン! 貴様の絞首刑を執行する! お前の兄を殺害し伯爵家を乗っ取った罪だ!」

 目の前には、「死刑宣告人」である担当検事が国王陛下による死刑執行命令書を持ってやってきた。全ての悪事が露見し今日の日を迎えてしまった。兄を事故に見せかけて殺し、伯爵家を乗っ取ったが、今では全て虚しい事であった。兄の命を奪った事で自分の命を失う事になったし、乗っ取った伯爵家の財産は全て失ってしまった。

 「これで貴様は死をもって罪を償ってもらう! 何か言い残すことはあるか?」

 「いいえ、ございません」

 ジェイソンはそう言ったが、怒りの感情を隠していた。姪のマリーを嵌めたつもりが逆に嵌められてしまった! その感情を隠したまま、刑場の露に消えていった。



……………………………………………


 結婚から三年、キャサリンは途方に暮れていた。父と結託しウォレス家の全てを従姉妹のマリーから婚約者と一緒に奪ったが、そのほとんどを失ってしまったことに。未来は既に閉じられているかのような絶望感に苛まれていた。手元には「夫」のトーマスがいたが、とんでもなく無能で真面な仕事に就職できなかった。だから今はキャサリンが家計を支えていた。

 ウォレス家が財務省の管理下に置かれ、財産のほぼすべてを没収された直後、今度は父のジェイソンが拘束されてしまった。前伯爵家当主であった実兄殺しの容疑で!

「不当」に伯爵になったとされたため、キャサリンはトーマスと一緒に館を追い出されてしまった。トーマスの実家であるアンドリュー家にお世話なろうとしたが、拒絶されてしまい、二人とも平民階級に落とされてしまった。

 「キャサリン、酒はないか?」

 トーマスは憂さを晴らすための酒を要求してきた。この男は顔は相変わらずで美しいが、お金を稼ぐ能力は皆無だった。

 「ありません! 残った塩でも嘗めていたら?」

 そういうとトーマスは諦めて自分の居場所にしている部屋の片隅に行った。トーマスは暴力こそ振るわないが、それすらも出来ないほど無気力であった。伯爵家を追い出され平民になったことが余程堪えてしまったようだ。生きる気力に乏しいとしかいえなかった。

 「く、くそー! ざまあねえな!」

 それがトーマスの口癖になっていた。その言葉を吐き出されるとキャサリンの気分は憂鬱になった。こんな生活力のない無能を従姉妹から奪った事を後悔していた。また最近になって自業自得だったとキャサリンは思うようになっていた。

 「マリーに騙された! でも、最初に悪だくみしたのはうちらだし・・・お父様は死んでしまったし」

 キャサリンは昼も夜もなく働きに出て疲れた体を苦痛に思いながら、ざまあねえなと感じていた。借金を押し付けて逃げた彼女の方が幸せだったのではないか? いったいマリーはどこに消えたのだろう? どこかで生きているような気がしていた。

 今にも屋根が崩れてしまいそうなスラム街の部屋で、マリーから全てを奪ったはずの二人は生存ギリギリの貧困に苦しんでいた。二人ともそれほど長生きできずに人生を終えたのであった。



……………………………………………


 ウォレス伯爵ジェイソンのスキャンダルは国の内外で強い関心を得ていた。兄を殺し姪を追放して全てを手に入れたが、知らなかった債務によって伯爵家は没落させ、法的制裁によって命をも失った事に対してだ。他にも兄殺しの隠蔽に協力した警官も処罰された。なおジェイソンの遺体はキャサリンに経済的余裕がないため引き取りを拒否され、貧民者用の共同墓地に打ち捨てられるように葬られた。


 ウォレス伯爵家は、ほぼ全ての財産を没収されたが、家名だけは残った。マリーが失踪する直前、自分が亡くなった後の相続を依頼する書簡を遠い親戚に出していたことが判明した。そこでジェイソンの後継が無効になったあとで、その親戚がウォレス伯爵家を継承した。家名のほかに残っていたのは債務返済後に残った僅かな金融資産と歴代ウォレス家の墓所だけであった。

 そののち墓所に葬られたジョセフ8世の墓の横にマリーの墓が建立された。遺体もなくどこで亡くなったかわからない彼女の墓碑にはこう刻まれていた。

 ”婚約破棄され全てを奪われた少女の魂ここに眠る”

 マリーは悲劇のヒロインとして人々の心に残った。だが、彼女は生きていた!



……………………………………………


 ひまわり畑を見下ろす丘の上の邸宅の窓辺に安楽椅子で涼んでいる妊婦がいた。彼女は幸せそうな表情で自分のお腹の中の子とお話をしていた。そこに夫が帰ってきた。

 「おかえりなさい」

 「もうすぐだねマリー」

 「そうね」

 二人の会話は短くても心は通じていた。二人にとってウォレス家にいた時の事は。はるかに遠く昔の事であった。だから一切語ることはなかった。

 お日様が傾きかけた時、産婆が呼ばれ男の子が誕生した。二人はその子にジョセフと命名した。その名は二人が尊敬していた人の名前だった。

 そのあと、二人の家族は増えていき、半世紀後には大家族になっていた。でも、大家族たちは二人が結婚する前の事は何も教えられなかった。ジョセフにだけは何があったかを伝えられていた。全てをわざと奪われて愛を育んだと。彼が両親を見送った後に周囲にこう語った。

 「結婚する前の事はたいして重要ではない。家族として幸せに生きて来れたかの方が大事だ。だから昔の事は語らない。でも全てを奪われたとしても愛だけは失ってはいけない」

 
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