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第三章
幸せになれ①
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絵を描き終えて、ぼんやりと眺める。
優は同じような絵が欲しいと言っていたが、あのときと全然心情が違うから、同じ色を使っても、あの幸福感は出せなかった。
ひたすら手が届かないものを欲しいと願う気持ちが絵に出てしまっているような気がした。
でも、結局どちらも優を想って描いた絵だった。
そのまま絵の前で立ち尽くしていると、優が来た。
脳天気な声で「おはよーございます、遥斗先輩!」と挨拶してくる。
昨日の出来事は引き摺っていないようで、ほっとする。
でも、これから言わないといけない言葉を思って、ギュッと目をつぶった。
そして、心を決めると、優を見つめる。
「遥斗先輩?」
不思議そうに見返してくる優。
ともすれば緩んでしまう表情を抑えて、意識的に硬くした。
「お前、もうここには来るな。弁当もいらない」
「え?」
「俺は落ち着いて絵を描きたいんだ。お前にうろちょろされると迷惑だ。もう絵が売れるのはわかったし、お前には用はない。もう来ないでくれ」
用意していたセリフを投げつける。
その言葉に、優は目を見開いて固まった。
止まったままの優に、できたばかりの絵を押しつける。
「やるよ。約束したからな。あとで文句言われても困るし」
うそだ。俺が持っていて欲しいだけだ。
優との約束を守りたいだけだ。
茫然としたまま手にした絵を見つめ、ようやく優が口を開いた。
「でも、部室だし、プリンターだって……」
それにかぶせて、優が絶対に無視できないだろう言葉を放った。
「もう、放っておいてほしいんだ。お前を見ていると、自分がどんどん惨めに思えてくるんだよ! お前がここに来ると言うなら、俺は高校を辞めて出ていく」
優は息を呑んだ。
俺の本気が伝わったらしい。
みるみるうちに涙が溜まっていく。
傷ついた表情の優を見るのがつらい。
本当にごめん、優。
泣かさないように気をつけるって言ったのにな。
でも、俺なんかに関わるとろくなことはない。
今のうちに離れてくれ。
優は、悲しいこともつらいこともない世界で、昨日の野球部員のような爽やかな男に守られて笑顔で暮らすのが似合っている。
もう俺のことなど嫌っていいから、そばに来るな。
俺みたいに汚れた男と一緒にされるなんてダメだ。
それに、万が一、優になにかあってからじゃ遅いんだ。
祈る気持ちを隠して、俺は冷たく優を見つめ続ける。
「………わかりました。でも、せっかく作ったからお弁当は食べてください。お弁当箱は返さなくていいですから」
涙をこらえながら、俺にお弁当箱を押しつけると、優は部屋を走り去った。
優が去ってから弁当の蓋を開けると、俺の好きなものばかりで、また胸がいっぱいになる。
せっかくの優の弁当がしょっぱくなってしまった。
最後の弁当だというのに………。
優………。
傷つけて、ごめん。
泣かせて、ごめん。
俺に出逢わなければ泣かずに済んだのにな。
弁当の袋から、ハラリとなにか落ちた。
小さな封筒だった。
拾い上げて、中を見ると、カードに貼られた四つ葉のクローバーだった。
『遥斗先輩が幸せになりますように!』
そう丸っこい字で書き添えられていた。
「………ッ」
俺はこらえきれず、腕で目を押さえた。
優、お前こそ、幸せになれ……。
優は同じような絵が欲しいと言っていたが、あのときと全然心情が違うから、同じ色を使っても、あの幸福感は出せなかった。
ひたすら手が届かないものを欲しいと願う気持ちが絵に出てしまっているような気がした。
でも、結局どちらも優を想って描いた絵だった。
そのまま絵の前で立ち尽くしていると、優が来た。
脳天気な声で「おはよーございます、遥斗先輩!」と挨拶してくる。
昨日の出来事は引き摺っていないようで、ほっとする。
でも、これから言わないといけない言葉を思って、ギュッと目をつぶった。
そして、心を決めると、優を見つめる。
「遥斗先輩?」
不思議そうに見返してくる優。
ともすれば緩んでしまう表情を抑えて、意識的に硬くした。
「お前、もうここには来るな。弁当もいらない」
「え?」
「俺は落ち着いて絵を描きたいんだ。お前にうろちょろされると迷惑だ。もう絵が売れるのはわかったし、お前には用はない。もう来ないでくれ」
用意していたセリフを投げつける。
その言葉に、優は目を見開いて固まった。
止まったままの優に、できたばかりの絵を押しつける。
「やるよ。約束したからな。あとで文句言われても困るし」
うそだ。俺が持っていて欲しいだけだ。
優との約束を守りたいだけだ。
茫然としたまま手にした絵を見つめ、ようやく優が口を開いた。
「でも、部室だし、プリンターだって……」
それにかぶせて、優が絶対に無視できないだろう言葉を放った。
「もう、放っておいてほしいんだ。お前を見ていると、自分がどんどん惨めに思えてくるんだよ! お前がここに来ると言うなら、俺は高校を辞めて出ていく」
優は息を呑んだ。
俺の本気が伝わったらしい。
みるみるうちに涙が溜まっていく。
傷ついた表情の優を見るのがつらい。
本当にごめん、優。
泣かさないように気をつけるって言ったのにな。
でも、俺なんかに関わるとろくなことはない。
今のうちに離れてくれ。
優は、悲しいこともつらいこともない世界で、昨日の野球部員のような爽やかな男に守られて笑顔で暮らすのが似合っている。
もう俺のことなど嫌っていいから、そばに来るな。
俺みたいに汚れた男と一緒にされるなんてダメだ。
それに、万が一、優になにかあってからじゃ遅いんだ。
祈る気持ちを隠して、俺は冷たく優を見つめ続ける。
「………わかりました。でも、せっかく作ったからお弁当は食べてください。お弁当箱は返さなくていいですから」
涙をこらえながら、俺にお弁当箱を押しつけると、優は部屋を走り去った。
優が去ってから弁当の蓋を開けると、俺の好きなものばかりで、また胸がいっぱいになる。
せっかくの優の弁当がしょっぱくなってしまった。
最後の弁当だというのに………。
優………。
傷つけて、ごめん。
泣かせて、ごめん。
俺に出逢わなければ泣かずに済んだのにな。
弁当の袋から、ハラリとなにか落ちた。
小さな封筒だった。
拾い上げて、中を見ると、カードに貼られた四つ葉のクローバーだった。
『遥斗先輩が幸せになりますように!』
そう丸っこい字で書き添えられていた。
「………ッ」
俺はこらえきれず、腕で目を押さえた。
優、お前こそ、幸せになれ……。
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